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論文)葉の老化におけるジャスモン酸とオーキシンのクロストーク

2014-03-14 08:32:57 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis WRKY57 Functions as a Node of Convergence for Jasmonic Acid- and Auxin-Mediated Signaling in Jasmonic Acid-Induced Leaf Senescence
Jiang et al.  The Plant Cell (2014) 26:230-245.

doi:10.1105/tpc.113.117838

WRKY転写因子ファミリーはシロイヌナズナに74存在し、その多くが生物/非生物ストレス応答にに関与している。また、WRKY 遺伝子は老化時に転写産物量が増加する転写因子遺伝子として2番目に大きなグループとなっている。中国科学院 西双版納熱帯植物園Yu らは、老化葉で発現量が増加するWRKY57に着目して詳細な解析を行なった。葉の老化を誘導することが知られているアブシジン酸(ABA)、ジャスモン酸(JA)、サリチル酸(SA)、エチレンの処理によるWRKY57 の発現量変化を調査したところ、JA処理によってWRKY57 の発現量が増加することがわかった。よって、WRKY57はJAによる老化誘導において機能していることが推測される。T-DNA挿入機能喪失wrky57 変異体の葉は、メチルジャスモン酸(MeJA)処理による黄化、クロロフィル量の減少、細胞死が野生型やWRKY57 過剰発現形質転換体よりも強く表れることから、WRKY57はJAの誘導する葉の老化を負に制御していると考えれられる。wrky57 変異体は、老化に関連しているSENESCENCE4SEN4 )、SENESCENCE-ASSOCIATED GENE12SAG12 )、SAG18SAG20 のMeJA処理後の発現量が野生型やWRKY57 過剰発現個体よりも高く、WRKY57 はこれらの老化関連遺伝子の転写産物量を負に制御していることが示唆される。WRKY転写因子はターゲット遺伝子のプロモーター領域のW-boxに結合して機能することが知られており、発現調査した4つの老化関連遺伝子のプロモーター領域は幾つかのW-boxを含んでいた。クロマチン免疫沈降試験から、WRKY57はSEN4 遺伝子やSAG12 遺伝子のプロモーター領域にW-boxを介して結合することが確認され、SAG12 遺伝子プロモーター制御下でGUS を発現するコンストラクトを用いた一過的発現解析から、WRKY57は遺伝子発現を抑制する因子として機能することがわかった。WRKYタンパク質は他の因子と複合体を形成することで機能することが知られていることから、酵母two-hybrid系を用いてWRKY57と相互作用をするタンパク質の探索を行なった。得られた候補の中にはJAZ4、JAZ8、IAA29が含まれており、プルダウンアッセイやBiFCアッセイから、WRKY57はこれらのタンパク質とと強い相互作用を示し、複合体は核に局在することが確認された。老化葉のJAZ4JAZ8 の転写産物量は通常の葉よりも多く、T-DNA挿入jaz4 変異体やjaz8 変異体の葉はMeJA処理による老化誘導が野生型よりも強く表れた。一方、JAZ4JAZ8 を過剰発現させた形質転換体の葉は、MeJA処理による老化が野生型よりも遅く、クロロフィル含量の減少や細胞死についても表現型と一致していた。jaz4 変異体やjaz8 変異体でのSEN4SAG12 の転写産物量は野生型よりも高く、JAZ4JAZ8 を過剰発現させた形質転換体では低くなっていた。これらの結果から、JAZ4JAZ8 はJAによる葉の老化を抑制していることが示唆される。老化葉のIAA29 転写産物量は通常の葉よりも高く、T-DNA挿入iaa29 変異体のMeJA処理による老化誘導は野生型と同等であったが、IAA29 過剰発現形質転換体は野生型よりも早く老化を示し、クロロフィル含量の減少や細胞死、SEN4SAG12 の発現からも老化が促進されていることが示された。よって、IAA29はJAによる葉の老化に促進的に作用していると考えられる。これまでの知見から、オーキシンは老化を抑制することが知られている。しかしながら、その機構やJAによる老化誘導との関係については明らかとなっていない。野生型植物の切り葉を水、MeJA、インドール-3-酢酸(IAA)、MeJA+IAAの各処理を行なったところ、水とIAA処理では老化は観察されなかったが、MeJA処理では老化症状が表れた。MeJA+IAA処理した葉ではわずかに老化の兆候が見られ、MeJA処理と比較してクロロフィル含量の減少や細胞死、SEN4SAG12 の発現が抑制されていた。よって、オーキシンはJAによる老化誘導を部分的に抑制することが示唆される。オーキシン処理によってWRKY57 の発現が強く誘導されることから、WRKY57 はオーキシンシグナル伝達に関与していると思われる。wrky57 変異体をMeJAもしくはMeJA+IAA処理した際の老化誘導に差が見られないことから、オーキシンはWRKY57 を介してJAによる老化誘導に対して拮抗的作用していると考えられる。IAA29タンパク質はドメインⅡを介して、JAZタンパク質はZIMドメインを介してWRKY57タンパク質と相互作用をしており、WRKY57タンパク質はジンクフィンガードメインを介してこれらのタンパク質と相互作用をしていることが確認された。また、JAZ4とIAA29は競合的にWRKY57と相互作用をすることがわかった。オーキシン処理はWRKY57の転写産物量とタンパク質量の両方を増加させ、MeJA処理はWRKY57 転写産物量を増加させるが26Sプロテアソーム系によるWRKY57タンパク質の分解を誘導すること、この分解には一部COI1が関与していることがわかった。よって、WAKY57はタンパク質レベルにおいてJAとオーキシンによる拮抗的な制御を受けていることが示唆される。以上の結果から、WRKY57はJAの誘導する葉の老化においてJAとオーキシンの間のクロストークの鍵となる因子であると考えられる。

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