梅光女学院大学英米文学会の『英米文学研究』17巻収録の論文
「Duke of Aibany とはだれか ―『リア王』の素材と版本史―」
(磯田光一)を読む。
シェークスピアの戯曲『リア王』の登場人物に
オールバニー公爵がいます。
ブリテン王リアの長女ゴネリルの夫であり、
リア王、王の三人の娘、次女の夫コーンウォール公爵の死後も
最後まで生き残った人物です。
版によって違うのですが、
最後のセリフを話すのがオールバニ公とされています。
(エドガーのセリフにする版もあります)
The weight of this sad time we must obey,
Speak what we feel, not what we ought to say.
The oldest have borne most; we that are young
Shall never see so much, nor live so long.
順当に考えれば、オールバニー公が次の国王として
ブリテンに秩序を取り戻す役割を担うのでしょう。
磯田はシェークスピアの四大悲劇のうち、
『ハムレット』を除く三編が当時の英国王
ジェームズ一世を意識していたと指摘します。
ジェームズ一世はオールバニー公爵の爵位を有しており、
リア王の死とエリザベス一世の死によるテューダー朝の終焉を重ね、
オールバニー公の即位による新時代の到来を祝福する、
という政治的な意味を持たせたのが
宮廷公演劇としての『リア王』というのです。
作品をメタな話と切り離しても楽しめるのですが、
こうした歴史的背景を踏まえて『リア王』を読むと、
善良な常識人でしかないオールバニー公が
最後を締めくくる必然性を理解できます。
メタな話を踏まえた『ハムレット』の解釈として秀逸なのが
関曠野『ハムレットの方へ』(北斗出版)です。
手元にないので、古本屋で見かければ「即買い」の本です。
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