読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「移民と現代フランス」

2007年01月22日 | 人文科学系
ミシェル・ジョリヴェ『移民と現代フランス』(集英社新書、2003年)

上智大学で受け持つ講義「現代フランス社会研究」の準備のために長い時間をかけて行った研究や調査の成果だと冒頭で説明されている。著者自身が子供時代からずっとアフリカ、フィリピン、台湾などの外国で暮らし、「外国人」であったことが、こうした問題への積極的かつ自発的な問題意識を培うことにもなったとのことである。

フランスの移民問題は、移民の数からいえばEU加盟国のなかからが多いとはいえ、もともと宗教的にも文化的にもさほどの違いがないので問題になってこなかった。やはり昨今さまざまな問題を引き起こしているのはイスラム圏とりわけかつての植民地であったアルジェリアからの移民である。

1999年の資料だと、移民は431万人。そのなかでフランス国籍を取得していない移民が275万人。さらにフランスで生まれた外国人が51万人いる。この後者の326万人の未権利状態が、さまざまな社会問題の温床となっている。

70年代の初めまでは、移民といってもどちらかと言えば、季節労働者のたぐいで、ぶどう園で冬に芽を摘む作業をしたり、収穫期に肉体労働をする労働者がポルトガルとかイタリアあたりから来る程度だったのだが、70年代にはいって安価な労働力が必要となった時期に大量に増えたのだった。その後抑制する措置に出たが、保守政権と社会党政権のあいだで対策に右往左往が見られ、決して移民にとって未権利状態を脱することが容易でない状態がずっと続いている。

この著書は、理論的に移民の問題を扱うよりも、典型的な実際の生の声をできるだけ多く紹介し、具体的な形で移民の置かれている諸問題を提起しようという体裁をとっている。したがって読みやすいが、移民の側からの問題提起がほとんどで、それを受け入れているフランス人の側の声というのはほとんど紹介されていない。

この本を読んで一番感じたのは、フランス社会の混迷ぶりであると同時に、移民の側についていえば、人数的にも最大のアルジェリアからのイスラム教徒の移民たちの問題が、フランス社会の問題である以上に、彼らの宗教・文化・生活習慣・家庭教育の問題にあるということだ。そもそもかれらがフランスに移民してくる理由が、アルジェリアにおける経済的文化的社会的貧困状態にある。またフランスに行けばなんとかなるのではないかといういい加減な甘い幻想から移民してきて、現実の厳しさに幻滅し、かといって母国に帰ることもできないという状態の中で、貧困状態から抜け出すことができなくなることにある。移民一世の場合には、フランス語を覚えようとすることもなく、人間以下の生活を耐えているが、二世になると我慢をすることができなくなり、暴力的に憎しみを発散することになる。それが例の暴動となって現れたというわけだ。

ミヒャエル・ハネケ監督『消された記憶』で描かれていたような、アルジリア人に対するフランス人の恐怖感というのは、はやり強迫観念として深く根をおろしているのだなということがこの本を読んでよく分かった。それは自分の知り合いで信頼のおける人がアルジェリア人であったことによって解けるようなものではなく、得体の知れないエイリアンのようなものとしてイメージされている。まさにこの映画のそれと同じなのだろう。

しばらくこのあたりのことを勉強してみようと思っている。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「ガンで死ぬのが一番いい」 | トップ | 「日本語に主語はいらない」 »
最新の画像もっと見る

人文科学系」カテゴリの最新記事