読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『俳優人生』

2021年12月21日 | 作家ナ行
中村敦夫『俳優人生』(朝日新聞社、2000年)

またまた中村敦夫だ。調べていたら、こんな回想録を書いていることが分かったので、借りてきた。

何度も書いているが、私にとって中村敦夫は「木枯し紋次郎」以外にはない。だから、この本でも興味深かったのは、ちょうど真中の第5章まで。あとは私自身がテレビドラマとか映画をまったく見ていないので、関心を惹かれなかった。

それにしても「木枯し紋次郎」だ。私自身、なぜあれほど惹かれたのだろうか?高校2年生から3年生の頃。私は鳥取県米子市の進学校にいて、でも勉強はまったくできなくなって、落ちこぼれ状態になっていた。クラスではまったく口を聞かない。唯一の人間関係はボート部の連中とだけ。

そんな鬱屈した毎日に、ボロボロの三度笠すがたで、自分の力一つで孤独な渡世を渡り歩いている姿が魅力的に見えたのだろうか? 映像もリアルで、紋次郎が怪我をすれば、硫黄を使って傷の手当をしたり、常備している飲み薬かなんかを飲んだり、わらじを自分で編んだり、手当をしたりする場面が、つまりリアルな日常生活が描かれているのも興味深かった。

音楽も湯浅譲二や武満徹が活躍し始めた時期で、斬新な音楽がバックで使われ、テーマ音楽となった上條恒彦の『だれかが風の中で』も映像とぴったりだった。何もかもが斬新に見えた。


この本を読むと、大映京都撮影所で取り始めたが途中で大映が倒産して、京都の亀岡など周辺地域で撮影していたようだが、私は笹沢左保の原作本まで買って読んでいたので、てっきり関東の奥地で撮影していたのかと思っていた。

9作目くらいで起きたアキレス腱断裂の事故のことは当然知らなかったが、最近BSかなんかで見ていたら、紋次郎が脚を怪我して温泉宿でずっと投宿している回があったが、あれなんかはきっとそういう時期のものだったんだろう。

それに龍谷大学のラグビー部の部員を使って畑の中を走り回る場面を撮ったと書いているのも、あれだなと思い当たる。追いかける側のやくざ連中がやたらとマッチョで、いかにもラグビー部員という感じがすぐに分かるほどだった。

上にも書いたように、孤独な中で過ごした高校生時代の私の支えてくれたのは、この紋次郎を演じた中村敦夫のプライドと自立心のようなものだったのかもしれない。

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