読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『図書室』

2021年12月05日 | 作家カ行
岸政彦『図書室』(新潮社、2019年)

「図書室」は小説で、「給水塔」は著者の学生時代を回顧したエッセーになっている。この小説やその他の小説が芥川賞や三島由紀夫賞の候補になっている。

「図書室」はアラフォーの女性が小学生時代の図書室通いやそこで知り合った同学年の男子との交流と年末に彼と実行した「世界の終わりの過ごし方」のことを回想する形の物語になっている。

私は、大阪出身でない著者がここまでネイティブの(しかも子どもの)大阪弁を駆使できることに驚異を覚える。

母子家庭で、母親が夜にスナックで働いて育てている。母親も少女が15才のときに突然死する。それでもグレることもなく、かといって立身出世的なことを夢見るでもなく、普通に底辺層の人間として育ち、短大を卒業して、法律事務所で働き、何人かの男と付き合ったり、同棲したりして、アラフォーになり、小学生の時の図書室のことを回想する。

すごく面白いのだが、読みながら熱狂してくることも、ワクワクしてくることもない、この静かな小説は、いったい何なんだろう? 私は大阪市内に住んだことないが、この小説に出てくる毛馬門とか淀川の河川敷だとか、言うまでもなく梅田駅だの紀伊国屋書店だの、といった地名はよく知っているので、知っているところが小説の舞台になっているという興味だろうか。

その点では「給水塔」というエッセーは、私が学生時代を過ごした吹田、とくに千里山が出てくるので、何とも興味を掻き立てられる。しかも彼が学生時代を過ごした関大は、ちょうど彼が学生を始めたころに私も教え始めた頃なので、「岸政彦」って学生が私のクラスにいなかったかなと思いだそうとしたくらいだ(そんなもん思い出せるはずがないし、私は社会学部では教えていないことに気づいた)。

ただよく知っているところだけに、著者の勘違いも気になる。関大のある周辺をやたらと千里ニュータウンと書いているのだが、確かに大阪市内の下町のごちゃごちゃしたところに比べれば、「高級住宅街」かもしれないが、このあたりは千里ニュータウンではない。千里ニュータウンは千里山を超えたところからの、駅で言うたら南千里から北のほうになるので、ちょっと訂正しておきたい。

『図書室」へはこちらをクリック

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする