世界変動展望

私の日々思うことを書いたブログです。

著者資格を守って研究発表を!- 盗用、オーサーシップ違反、業績水増しの不正を認定されないために

2016-04-27 21:30:00 | 社会

著者資格を守らない研究発表がよく行われている。学生と教員、部下と上司の共著など場合によっては不正として取り締まるべきか議論が必要なケースがあるのは確かだと思うが、不正認定を受けないために著者資格を守った研究発表をお勧めする。

日本学術振興会の公式文章によると、国際医学雑誌編集者委員会(International Committee of Medical Journal Editors:ICMJE)の投稿統一規程が著者資格として4つの基準を要求している。

--

1. 研究の構想・デザインや,データの取得・分析・解釈に実質的に寄与していること

2. 論文の草稿執筆や重要な専門的内容について重要な校閲を行っていること

3. 出版原稿の最終版を承認していること

4. 論文の任意の箇所の正確性や誠実さについて疑義が指摘された際,調査が適正に行われ疑義が解決されることを保証するため,研究のあらゆる側面について説明できることに同意していること

--
日本学術振興会 「科学の健全な発展のために -誠実な科学者の心得-」 2.4, p66-67 より )

4つの基準を全て満たして著者資格を得る。これを守らないとオーサーシップ違反になる。これを防ぐため学術誌によっては著者がどのような役割を果たしたかを申告させている。

これを守らず不正が認定された最近の例をいくつか紹介する。

(1)藤女子大学の盗用事件、処分:諭旨解雇相当

藤女子大学の犯人共著とすべきなのに無断で論文を単著発表して盗用を認定され諭旨解雇相当となった3年間の競争的資金への応募・申請制限

(2)滋賀医科大学の盗用事件、処分:懲戒解雇

瀧川薫 元滋賀医科大学教授が指導していた元学生の修士論文を大部分流用し、無断で単著発表して盗用を認定された。懲戒解雇

(3)北里大学のゴーストオーサー事件、処分:不明

北里大学の講師が「当該研究のデータ取得段階で実験に参加するとともに指導的役割を果たした者を当該論文の共著者としなかった」事が不正と認定された

不正認定されていないが、不適切な例を紹介。

(4)斎藤祐司のギフトオーサー

藤井善隆の世界記録捏造事件で斎藤祐司は「藤井氏とは全く別に研究を行っており,研究自体に協力したことはない.それにも関わらず,共著者となっているのは,お互いに業績を増やすために論文に名前をいれあうとする約束を結んでいたからである.」と供述。

(5)井上明久のギフトないしゲストオーサー

井上明久 元東北大総長は2800編以上の論文を発表した。しかし、一般に正当な方法でそんなに出す事はできない。井上明久はJSTの第三者報告書によると公的資金による研究の業績報告の論文で全748編中60編が重複していた。また東北大学でも多数の二重投稿が公式認定された。だから、重複発表によってかなり業績が水増しされたが、ギフトないしゲストオーサーによる業績水増しも非常に大量に行われただろう

(4)、(5)は著者資格がないのに著者に加わるギフトオーサー、ゲストないしオノラリーオーサーとよばれる不正。文科省のガイドラインではオーサーシップ違反は不正と公式に示されているし、学振の公式文章を素直に読むと(4)、(5)は不正だと思う。ただ、先に述べたようにどの分野も学生と指導者、部下と上司の共著などで、厳密には著者資格がないのに共著になっている例はよくあるので、厳密に取り締まるとほとんどの人は研究不正をやった事があるという事になるかもしれない。だから、議論は必要だろう。私はたぶん現実にはそのような例まで不正となる事はないと思う。(4)のようなものは不公正なので不正でいいと思うし、(5)はいくら何でもやり過ぎで、通常の研究者の慣習や倫理を著しく逸脱しているので不正でいいと思う。

(1)~(3)はゴーストオーサーとそれによる盗用の例。いずれも不正が公式認定された。読者の方に注意して頂きたいのは、著者資格を守らないと不正認定され研究者生命が絶たれる事があるという事だ。

(1)、(2)の例は著者資格を守り、共同研究者の同意を得て共著で発表していれば盗用が認定され研究者生命が絶たれる事は避けられた。著者資格を守らず非常に痛い目にあった典型例。著者資格の基準を知らなくても、研究発表の前に共同研究者の同意を得るという基本的な慣習を守っていれば不正を防げた。

(1)、(2)のような事をやってしまうと取り返しがつかず裁判でも勝てない。なぜなら、元論文と盗用論文を比較して大量流用が確認されれば客観的に「故意に他人の成果等を使った」事が明らかで、単著発表した事から「故意に他人の成果等を自己のものとして無断発表した」事が客観的に明らかだからだ。裁判で不当さを訴えても、それらの客観的証拠から盗用が認定され敗訴する。

つまらない事で不利益を受けないためにも、著者資格を守って研究発表して頂きたい。