世界変動展望

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社会人は英語でmember of societyか?

2011-09-08 01:19:35 | Weblog

アルクの英辞郎によると社会人は、

(1)full member of society
(2)member of society
(3)working people

(参考[1]その1 より)

と載っている。私の持ってる和英辞典でも社会人は"member of society"と書いてある。日本語の社会人の意味は2つあり、

(4)実社会で働いている人。学生・生徒などに対していう。
(5)社会の構成員としての個人

(参考[2]より)

私は(5)の英語訳として(2)は正しいと思うが、(4)の英語訳として(2)は間違っていると思う。"member of society"は直訳すれば「社会の一員」だし、それは社会を構成する人全員だ。子供が社会の一員でないということはない。

しかし、英辞郎の例文をみると、

(6)When you become a member of society, you don't particularly respect Dad's way of life.
社会人になると、父親の生き方をあまり評価してくれないようです。◆【出典】Hiragana Times, 1994年10月号(株式会社ヤック企画)◆ -[1]その1

(4)の意味として(2)を使っている例を見る。本当に(4)の意味として(2)は通じるのだろうか?私は上の理由で通じないと思っているし、次の例文を見てもそれが伺える。"member of society"に(4)の意味はないのだ。

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以下の 英文の出典はHiragana Times, 2002年7月号"When You Become a Member of Society(社会人になると)" (株式会社ヤック企画) -[1]その2

After teaching at a Japanese high school for almost three years, I have finally gotten used to the long, sermonizing speeches that principals give to students during ceremonies.(日本の高校で教えるようになってほぼ3年がたち、式典で校長が学生に語る長ったらしい訓辞にもようやく慣れてきた。)
Like the students, I endure by napping or whispering to the person sitting next to me.(学生と同様、私も居眠りしたり、隣の人とひそひそ話をしたりしてこれに耐えている。)
There is one expression sometimes used during the speeches that startles me, no matter how many times I hear it.(しかし、こうした式辞にときどき使われる表現で何度聞かされても驚くものが一つある。)
Principles and other authority figures often tell the students: "Shakaijin ni naru to... " Which in English can be translated as: "When you become members of society... ''(校長や当局者がよく学生に語る、「社会人になると…」(これを英語に訳すと、When you become members of society...)という言葉である。)

Many earnest teenagers use this term as well.(10代でも真面目な人はこの表現を使う。)
They almost always pair it with a reference to employment, as in "When I start working and become a member of society..."(ほとんどの場合、「就職して社会人になると…」というぐあいに、就職と対で使われる。)
Whenever a nearby young person says something like this, I think to myself but aren't you already a member of society?(若者がこんなことを言うのを耳にすると、「君はもうとっくに社会人ではないのかな?」と心の中でいつも思う。)

Curious, I recently consulted with two bright, 17-year-old high school students about the subject.(好奇心に駆られた私は、先頃、頭のいい17歳の高校生2人にこのことについて話を聞いてみた。)
"In Japan, you're not considered a member of society until you start working?" I asked them.(「日本では就職するまでは社会人だといわれないの?」と私は問いかけた。)
"That's right!" they replied.(「そうです!」と答えた。)

"So does this mean your opinions and ideas aren't really sought after or considered important because you're not a member of society yet?"(「じゃ、まだ社会人ではないあなたたちの意見とか考えは求められもしないし、重要でもないということ?」)
They said this was so.(彼らはその通りだと答えた。)

"Why do you have to be employed before you can be considered a member of society?(「どうして就職しないと社会人じゃないのかな?)
What does that have to do with it?" I continued.(社会人と就職はどんな関係があるの?」と私は続けた。)
Startled, they turned to one another.(すると2人はびっくりしたように顔を見合わせた。)
"Maybe because once you start working you leave home and become independent," one started to explain.(「たぶん、就職すると家を出て自立するからだと思うけれど」と1人が説明を始めた。)

Then the other reminded her that plenty of working people in their 20s and 30s still live with their parents but are considered shakaijin.(すると、もう1人は働いていても親と同居を続ける20代や30代の人がたくさんいるが、その人たちも「社会人」と呼ばれていることを思い出した。)
They turned to one another again.(ふたたび2人は顔を見合わせた。)
"Don't young people exert an influence on society?" I added, "and receive many influences from society long before they ever start working?"(「若い人は就職するずっと以前から社会に影響を与えたり、社会からたくさん影響を受けたりすることはないのかな?」と私はたたみかける。)
Both Sakiko and Misako agreed that this was true.(サキコもミサコも本当にそうだとうなずいた。)

Young people are socialized into certain gender roles from the very moment they are born (blue clothes for boys, red for girls... ).(若者は生まれ落ちた瞬間から社会の中で何らかの性的役割を担うことになる(男の子は青、女の子は赤の衣服というように)。)
They are socialized to be Japanese from the very moment they are born.(彼らは生まれ落ちた瞬間からこの社会に適応することで日本人になっていく。)

(中略)

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上の例文の著者は明らかに"member of society"を(5)の意味として使っている。上の例文の著者が驚き疑問に感じる原因は日本語の社会人が(5)の意味から独立して(4)の意味として使われていることを理解していないからだろう。

つまり、上の著者にとっては「社会人というのは字義的な意味では社会の人、社会の構成員(member of society)という意味だ。どんな人だって社会で何らかの役割を果しているのに、なぜ働いている人だけが社会人(社会の構成員)で働いていない人は社会人(社会の構成員)ではないんだ。働いている人だけを社会人と表現するのはおかしいじゃないか。」というくらいの意味で上の文章を書いたのだろう。この著者は社会人の意味が(5)から切り離され、(4)という全く別の意味として使われていることを理解せず混同するから奇異に感じるのだ。

どんな言語でもそうだろうが、言葉は使われていくにつれて元来の意味から新しい意味が派生し、別な独立の意味を持つようになる。例えば「カリスマ」という言葉は元来預言者などの超自然的、非日常的資質や能力、その持ち主を指す言葉だったが、カリスマが人を熱狂的にひきつける様から強く人々をひきつける人気者という新たな独立の意味が派生し使われるようになった。社会人の意味もそれと同じようなことである。(4)の意味は社会が人間社会すべてを指すわけのではなく働く人たちの世界を指しており、その世界の一員だから社会人といっている[3]。即ち、実社会で働く人という意味だ。上の著者は字義的、元来的な意味に囚われるからおかしくなるのだ。

(6)の例文のように社会人が(4)の意味の場合に"member of society"と訳すことが、そもそも間違っているといえよう。しかし、辞書に載っているところをみると英語でも"member of society"を「実社会で働く人」という意味で使うことがあるのだろうか?

impartially accept candidates from other universities and members of society
他大学出身者や社会人も公平に受け入れる -[1]その3

英英辞典で"member of society"を調べても出てこないので正確な意味はわからないが、辞書に載っていないところをみると英語において"member of society"という言葉は字義どおり「社会(人間社会)の一員」という意味でしか使われていないのだろう[4]。辞書に載っていないのは、字義通りの意味なので載せるまでもないということだろう。

英語を母国語とする友人や英語教師たちに"member of society"の意味を尋ねると、「member of societyというのは社会の一員という意味でこの世のすべての人のことだよ。英語でmember of societyを実社会で働いている人という意味で使うことはないね。確約するよ。」とみんな言うので間違いないと思う。

でも、なんで英辞郎や私の持っている和英辞典は「実社会で働いている人」という意味の社会人を"member of society"と訳すのだ?こんなふうに訳したら、辞書を読んだ人が誤解するじゃないか。「辞書には社会人(実社会で働いている人)の英語訳はmember of societyと載ってたよ~。」と会話中誤解され、心の中でそう叫ぶ人がいるかもしれない。

繰り返しになるが、社会人(実社会で働いている人)の英語訳として"member of society"は通じないので、"working people"とか"working person"などきちんと通じる言葉を使うべきである。

参考
[1]英辞郎の社会人の英語訳 その1,その2,その3
[2]大辞泉の社会人の意味
[3]大辞泉には社会に「働く人たちの世界」という意味はないが、大辞林には「(自立して生活していく場としての)世の中。世間。」という意味が載っている。
[4]Cambridge Dictionaryによるとsocietyの意味

・a large group of people who live together in an organized way, making decisions about how to do things and sharing the work that needs to be done. All the people in a country, or in several similar countries, can be referred to as a society

物事の仕方について決定したり、しなければならない仕事を共有するために組織的な方法で共同生活している人々の大きな集団。国又はいくつかの似たような国々のすべての人たちを社会とみなすことができる。(要するに人間社会すべてのこと。)

・the part of society that consists of people who are rich, powerful and fashionable

お金持ちで有力で流行的な人々から成る社会の部分。

・the state of being together with other people

他の人々と共にいる状態。

という意味であり、働く人の世界という意味はないから、member of societyの意味が実社会で働く人という意味ではなく人間社会の一員という意味でしか通じないのは無理からぬことであろう。

([4]の英語の日本語訳は世界変動展望 著者によるものである。)


1 コメント

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高校入試英語に「社会人」 (ヨゼフ)
2020-02-19 10:32:30
2020年2月19日の朝刊にある公立高校の入試問題が掲載されていました。その中に「10年前に社会人になってからは高校から足が遠のいてしまっていたんです。」を英訳する問題が含まれていました。難関大学に合格実績のある高校なのですが、中学生には難しい和文英訳問題だなぁと思いながら、地元の塾が作成した解答例を見ると、「I became a member of society 10 years ago, so I rarely visited my high school.」とありました。元英語教師としては、とても落ち込みます。新聞を読むのを中断して、色々調べてみると、インターネット上でも、社会人に対する英語として「「a member of society」と答える英会話講師が少なくありません。ますます落ち込んでしまったのですが、このブログにたどり着いて、救われました。ありがとうございます。
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