上下逆などの細工を施して使い回しを隠したいという著者の意思を感じてほしいという趣旨のために、今回は井上明久東北大学前総長の改ざん疑惑を紹介します。
まず実験条件の改ざんと上下逆さまの細工事例から。
図1 透過電子顕微鏡(TEM)写真の実験条件改ざん [1]
左側と右側の図は一見違いますが実は同じものです。それは次に説明します。ここでは実験条件が異なることを理解してください。
図2 上下を逆にして偽装した例 [1]
図2の左図は図1の左図を上下逆にしたものです。図2を見ると同じ写真ということがわかります。しかし、焼鈍条件は異なります。そうしたことは通常あり得ません。しかもデータの使い回しがわからないように上下を逆にする細工がなされています。実験条件の改ざんが推知されます。
次はデータの左右反転例です。
図3 SEM写真(物質の凹凸を表示できるもの)の偽装 [1]
左側の写真を上下逆さまにすると右側の論文の写真と左右対称になります。明らかに同じ物質の写真です。同じ写真なので上下逆にしたり、左右反転させても凹凸は変らないので、間違った情報を伝えたというわけではないのかもしれませんが、なんだか「同じデータを別のデータに見せかけたい」という意思を感じませんか?なぜこんな細工をする必要があったのでしょうか?
実験条件を変更してデータを使いまわす事例は他にもたくさんあります。
図4 X線回折図の使い回しと実験条件改ざん [2]
図5 ナノビーム電子回折パターンの電子顕微鏡写真の使い回しと実験条件の改ざん [2]
図6 ナノビーム電子回折パターンの電子顕微鏡写真の使い回しと実験条件の改ざん [2]
図7 合金の破断面写真の使い回しと実験条件の改ざん[2]
詳しい説明は[2]を見ていただくとして、どれも同じデータを異なる実験条件の結果として使いまわしています。APL論文は昨年二重投稿を理由に撤回され報道されたものです。単に二重投稿だけでなくこのような改ざんがあったのですが、1月の有馬委員会報告ではそれに全く触れられませんでした。
それにしてもよくこれだけ使い回しや実験条件の改ざんをやったと思いませんか?図2は改ざんではないので除くとしても、紹介しただけで5件もあります。その中には図1,2のように上下逆さまにして使い回しを隠す偽装工作がなされています。ここで紹介したのはほんの一部であって、井上の使い回し事例はこれだけでありません。
しかし、これだけ見ても意図的な改ざんがあったと思いませんか?実験条件を正しく記載するのは非常に容易なことです。それなのに虚偽記載項目が確認できるだけで5項目もあります。これだけ間違えることはまず起きません。しかも、単に使いまわしただけでなく上下逆といった偽装工作までなされています。実験条件を変更して使いまわすだけでなく、上下逆にして使い回しをごまかすということが偶然で起きるでしょうか?
「異なる実験条件に変更して同じデータを別のデータに見せかけよう。データを上下逆にして違うデータのように見せかけよう。」
そういう意思を皆さんは感じないでしょうか?
参考
[1]齋藤文良東北大学元教授の資料 2011.8.12
[2]齋藤文良氏らの記者会見資料 2012.3.6
東北大学は、なぜこのような捏造を放置しているのでしょうか?
研究不正を取り締まれないような大学に、税金から研究費が支給されるのは不適切ですね。。
研究不正を取り締まれないような大学に、税金から研究費が支給されるのは不適切ですね。。
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最近思い始めたのですが、こういう自浄作用のなさは東北大学に限らず多くの研究機関で共通した体質ではないでしょうか。どの機関で起きても不思議はないと思います。
井上事件は彼が総長だったので権力に負けて不正を握りつぶさざるを得なかったと考える人は多く、現にその通りですが、一般の研究者でも同様の事例は他の機関で確認されています。
例えば最近発覚した京大の辻本元教授の不正経理や藤井善隆(東邦大、筑波大)の事件のように不正が指摘され、真実不正であっても所属機関は「不正でない」という扱いをしました。慶應の金特任准教授の経歴詐称も明らかな故意なのに、わざと過失で処理し厳重注意という激甘処分で終わらせ、不正をうやむやにしようとしています。
彼らは全員学長のような権力者ではないと思いますが、それでも研究機関が不正を握りつぶしてでも守ろうとしている印象を受けます。毎日の記事でも紹介されましたが、研究者や研究機関に自律性は期待できないと思います。
ブログで何度も言いましたが、不正を客観的、公正、厳正に取り締まる専門の第三者調査機関が必要です。