世界変動展望

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研究職の女性優遇採用政策に断固反対!!併せて女性研究者の障害除去を!

2008-10-06 20:56:21 | 政治・行政
 大学などの研究機関が女性研究者の採用を増やせば、その分の人件費を補助する優遇計画を来年度から文部科学省が実施するという[1]。計画では、女性の割合が特に低い理・工・農学系を対象に、人件費の一部と初期の研究費として、女性研究者の新規採用1人あたり年600万円を3年間補助するという[1]。ただし、女性が働きやすい環境を整え、増員を確実に定着させる採用計画をつくった研究機関に限定する。当面は10機関ほどを選び、100人程度の増員をめざすらしい[1]。

 日本の女性研究者の割合は12.4%で、米国(34%)、フランス(28%)、英国(26%)に遠く及ばず、韓国(13%)よりも低い。こうした背景から、女性のための支援スタッフの配置や託児所の整備といった従来の「環境づくり」中心の施策では不十分と判断し、雇用に国費を直接つぎこむことにしたのが理由だという[1]。また、研究の多様性を高める狙いもあるという。

 私は単に女性研究者率の上昇、国際的水準との均衡、研究の多様性を高める目的で女性研究者の積極的採用を促す優遇政策をとるのは反対である。

 その理由は第一に、実力が劣る者を採用することが国益に適うとは思えないことである。人事面で女性というだけで優遇するということは、実力が乏しく本来採用されないはずの女性研究員が増加する悪い効果も生じる。能力に乏しいものが有用な研究をする可能性は乏しい。だからこそ、実力本位の選考にすべきだ。

 たとえ、実力本位の選考の結果、男性研究員100%、女性研究員0%となろうとも、実力を考慮した結果そのようになれば、仕方ないのである。そのような選考が最も公平であり、採用されないのは実力が乏しい者の責任である。採用されたければ、単に努力して実力を上げればよいのだ。自分の努力でなんとかできる領域を、国の方が援助してやる必要はない。

 また国益を考えたとき、最も重要なのは研究者の実力であり、研究の多様性ではない。最も重要な研究者の実力を落としてまで、研究の多様性を求めるべきではないし、男性の研究者が多い現状でも多様な研究分野の推進を行うことによって、研究の多様性は十分に確保できる。わざわざ女性を増やし、理不尽な差別を作り出すことで研究の多様性を実現する必要性はない。

 国益を考えた際、最も重要なのが研究者の実力であることを考えると、単に女性研究者の率を上昇させることや、国際的な均衡を保つことに意味はない。

 第二に、当該優遇政策の不当性だ。研究職を目指す男性の立場にたってもらいたい。アカデミックポストを巡る採用争いは熾烈であり、博士課程卒業者は人生をかけて、必死に働いている。そのような熾烈な競争がある状況下で、単に女性というだけで採用が有利になる政策を施すのは、アカデミックポストを目指す男性研究者にとって、極めて許しがたい政策だ。こういうのを、いわゆる逆差別というのだ。女性という形式的な区別だけで、採用を優遇する当該政策は理不尽な差別であり、不当である。

 当該優遇政策が女性の研究環境、職務遂行過程での障害を取り除く類のものではあるなら、話は別だ。職務遂行過程などで女性にだけ特別障害があるというなら取り除くべきだし、反対しない。しかし、当該優遇政策は人事面で女性を優遇するものであり、女性にだけ存在する特別な障害を除去するものではない。この意味においても、当該優遇政策は不当差別である。

 以上から、私はアカデミックポストの採用選考は原則として実力本位で決めるべきであり、男女の形式的区別で差を設けるべきではないと考える。

 以上が私の主張だ。私には、なぜ文部科学省が単なる女性の研究者率上昇を目指しているのか理由がわからない。おそらく背景にあるのは男女平等思想で、公務員や管理職の分野と同様に研究職でも男女の割合を同じにしたいという思想があるのだろう。しかし、研究職に関して言えば、大事なのは「実力」であるから、単に男女の比が同じになることに意味はない。男女比が同じにならなくても、実力選抜の競争に敗れたものの責任であり、男女比に差が生じても仕方ない。

 思うに、研究者で男女数格差が生まれる原因は自然科学系の研究に興味を持つ女性数が少ないことと、その他の要因である。文科省によると、06年度に大学が採用した研究者で女性が占める割合は農学系16.3%、理学系12.7%、工学系5.9%で、理学、工学、農学の女性研究者の率の低さが目立つ[1]。

 しかし、理学、工学、農学専攻の男女比を考えれば、男性の方が多くなるのは自然なことだ。平成19年度の大学専攻の男女比を示す[2]。

理学   
男 62956人(74.7%)
女 21356人(25.3%)

工学
男 374738人(89.5%)
女 43975人(10.5%)

農学  
男 44136人(60.5%)
女 28837人(39.5%)

もともと、理学、工学、農学の分野では男性の方が多いのだし、そのような分野で男性研究者率が高くなるのは自然なことである。大学の専攻と研究職の男女比は単純比較できないが、例えば工学のように女性専攻率が1割程度の分野で、工学の女性研究者率が50%になるということの方が不自然だ。

女性研究者の比率を上げたければ、まずは専攻の男女比を5割にすべきであり、女性の興味が少ない現状で女性研究者比率が低くなっても仕方ないのである。現状では少ない女性の研究志望者のうちから特別に優遇して率を上昇させるのは理不尽であり、採用すべきでないのは上に述べたとおりである。

文部科学省は単に女性というだけで採用優遇する政策をするのではなく、女性に科学に対して興味を持ってもらえる政策を最初にすべきである。
 
もっとも、研究者の男女数格差は、自然科学系の研究に興味を持つ女性数が少ないことだけでは説明できないと考える。研究に興味を持つ人数差だけでは説明できない事象があるからだ。例えば、人文科学の分野、家政の分野での学生数と研究者の関係があげられる。

人文科学、家政の分野の学生数は共に女性の方が多く、特に家政では圧倒的に女性の方が多い。平成19年の統計では、

人文科学
男 134108人 (33.7%)
女 263743人 (66.3%)

家政
男 6567人 (10.1%)
女 58560人 (89.9%)

だが、大学教員の男女比は

人文科学
男 12859人(72.7%)
女 4823人 (27.3%)

家政
男 325人 (38.7%)
女 514人 (61.3%)

である[3]。人文科学は専攻学生数で女性の方が上回っているにも関わらず、大学教員比では男性の方が高い。家政は専攻学生数が圧倒的に多いためか、大学教員比は女性の方が高い。しかし、家政と専攻学生比がほぼ逆である工学における女性教員数が6%程度であることと比すと、家政の男性大学教員率38.7%は非常に高い数字であるといえる。

これらの事実を考えると、単に自然科学系の女性専攻学生数が少ないことだけで大学教員の女性人数の少なさを説明できないと考えられる。女性研究者が少ない原因には単に女性の専攻学生数が少ないこと以外にも、何らかの要因がある可能性が高い。

文部科学省の調査によると、女性研究者が少ない理由として男女の能力差をあげる研究者はほとんどいないという[4][5]。とすれば、大学教員で男女数格差が生じる原因は女性の専攻学生数の差もあるだろうが、女性固有の身体的ハンデ(出産による休暇など)、研究環境、人的関係(採用決定者の不公平なども含む)における障害が原因である可能性が高い。

また、大学教員に限れば、女性研究者の数が少ないことは自然科学系の女性教員数が少ないことに原因の大部分があるのではない。なぜなら、文系(社会科学、人文科学、教育など)、理系(理学、工学、農学、医歯学、薬学など)の教員数はやや理系が多い程度で、同じ程度の数である。自然科学系の方が研究員が多いので、この分野が主に女性研究員の少なさの原因と考える人もいるが、自然科学系だけで女性研究員が少ない原因の大部分を実現しているわけではない。

自然科学系、社会科学系などは女性の専攻学生数の少なさとあいまって、文理ともに女性に対する様々な障害が女性研究者輩出を妨げていると考えられる。

女性に対して採用の公平性を保つために、これらの障害を除去することは必要であると考える。大学教員側は仮に採用や昇進に不公平があるなら、公平に審査するように努めるべきである。また、女性固有の障害を除去する政策も従来どおり進めていかなくてはならない。

参考
[1]女性研究者採用による人件費優遇政策については"asahi.com(2008.10.5)"によった。
[2]大学の専攻分野男女比
[3]文部科学省「学校基本調査」(2008)によった。人文科学の人数は同ページの"17(8-1)"に記載されている学部の教員数、家政は家政学部の教員数である。
[4]文部科学省「女性研究者の活動実態-女性研究者が少ない理由」より
[5] [4]の図表