世界変動展望

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崩壊・STAP論文:/下 「博士」増員あだ 政府が支援、30年で3倍

2013-02-28 23:50:23 | 社会

毎日新聞 2014年04月05日 東京朝刊

◇教員足りず放置状態/就職難で質も低下

研究不正に関する教育は大学院からでは間に合わない−−。大阪大は今年度から、リポートや論文の書き方を説明した冊子を全新入生約3500人に配り、授業で活用する。教育担当の東島(ひがしじま)清理事・副学長は「大学1年から他人のリポートを写して合格していると、『これで大丈夫』と思い、だんだん大きな不正につながる。初めからの教育が必要と考えた」と説明する。

 冊子は「阪大生のためのアカデミック・ライティング入門」。著作権や文献引用の作法、文章の組み立て方などを分かりやすく示し、コピペ(コピー・アンド・ペースト、複写と張り付け)については「試験のカンニングと同じ」と強調した。冊子に沿い、授業でリポートを書く訓練をする。

 STAP細胞論文では、「(切り張りを)やってはいけないという認識がなかった」との小保方(おぼかた)晴子・理化学研究所研究ユニットリーダー(30)の発言が公表され、世間に衝撃を与えた。小保方氏については博士論文にも大量コピペ疑惑が浮上しているうえ、小保方氏と同じ研究科では他の人の博士論文にも多くの疑問点が指摘され、大学が調査に乗り出す事態になっている。

 米国立衛生研究所(NIH)で主任研究員を務めるある日本人研究者は、日本人の若手研究者全体の実力低下を感じている。研究の進め方や、論文の書き方から教えなければならないケースが増えているためだ。いずれも大学院で習得しておくべき内容だ。

 この研究者は「日本のポスドク(ポスト・ドクトラル・フェロー、博士研究員)のレベルは米国の博士課程の学生にも達していない。一方、安易に成果を求めがちになっている」。ポスドクとは、博士号取得後、常勤職に就かず研究に取り組む研究者。以前は、「日本人は真面目で勤勉」と海外の研究機関で高い評価を得てきた。「今は日本人以外の博士を採用する方が、研究室にプラスに思える」と、この研究者は嘆く。

 だが、大学院の学生や、そこで教育を受けた博士のレベル低下の原因は大学側にもある。

 政府は、第1期科学技術基本計画(1996〜2000年度)で、科学技術立国を支える人材としてポスドクの増産を目指し、「ポスドク等1万人支援計画」を打ち出した。1981年度に4753人だった博士課程入学者数(全分野)は、2003年度は1万8232人に達し、12年度も1万5557人と、この約30年で3倍まで増えた。

 一方、少子化などのあおりで大学経営が厳しいことなどから、学生1人当たりの指導教員数は減る傾向にある。簡単には比較できないが、大学教員数はこの30年で1・7倍にしか増えていない。大学院の学生を増やすだけで、大学院教育の充実が後手に回ってきた恐れがある。

 ポスドクを巡る問題に詳しい榎木英介・近畿大講師(42)は「大きい研究室では学生一人一人への指導が行き届きにくく、学生が放置されている状態」と訴える。また、「博士大量生産」の結果、大学院修了後の就職先が確保できず、博士の魅力が低下した。「優秀な学生が博士課程へ進まず、一層の質の低下を招いている。さらに今回の研究不正問題で、日本の博士号の価値が海外から信頼されなくなる恐れがある」と榎木さんは危機感を募らせる。【根本毅、斎藤有香】