世界変動展望

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結論ありきの調査委員会か?- 井上明久不正事件、匿名投書への対応

2012-06-28 00:00:00 | 社会

井上明久東北大学前総長の不正疑惑は2007年に広く匿名投書が配られたことから発覚し、現在まで争われている。匿名投書に対して東北大学は調査委員会(通称、庄子委員会)が開かれ、井上の研究不正はないと結論づけた。

匿名投書の主張の中に[1]の論文中の直径3mm,5mmの物質のDSC曲線が極めて類似しており不可解、つまりデータの使い回し(捏造、改ざん)ではないかと主張するものがあった。具体的には次のもの。


図1 DSC曲線の類似性

確かに極めて似ている[3]。それは調査委員会も認めている[2]。しかし、調査委員会は「当該論文において指摘されている研究不正(捏造、改ざん)に関わるDSC曲線についてはその曲線を詳細に見比べた場合、極めて類似した曲線ではあるが詳細においては同一ではなく、異なる曲線であると判断する。[2]」とし、予備調査で終了し本調査はしなかった。

でも本当にこの2つは別のデータだろうか?違う物質でここまでDSC曲線が類似することはないと思う。フォーラムの研究者も指摘しているが『調査報告書では、「DSC曲線において3mmと5mmのサンプルの結果が殆ど同じである点」が「不可解」とされていることについて、「その曲線を詳細に見比べた場合、極めて類似した曲線ではあるが詳細においては同一ではなく、異なる曲線であると判断する」と説明しています。しかしオリジナルデータの確認なしで、このように判断することは、多くの実験研究に携わる研究者には理解し難い説明です。金属ガラスの物理現象としては、3mmと5mmのように試料サイズが違えば冷却され方が異なる。したがって、得られた試料の構造緩和量が違うので、通常は、この違いを反映したDSC曲線を得ることが一般常識です。[3]』

データ流用は十分疑われるので、本調査を実施して生データを確認するのは必須だろう。データが細部で一致しない原因はおそらく寸借を変化させた時に若干変化があったとか何らかの理由があると思う。データは「寸借を変更→コピー→寸借をさらに変更」とすると画像が若干変化することがある。こういう過程を経て画像が貼り付けられることは十分ありえるだろう。他にも違った理由はあるかもしれない。とにかく、この2つのDSC曲線は同じものである可能性がかなり高いと思う。生データの確認は必須だ。

しかし、東北大学の庄子委員会は本調査をすることなく不正でないと結論。これは不当ではないか。後の大村泉氏らの告発をガイドラインを無視して不受理にしたこと、大学内外でも不正の握りつぶしを指摘されていることを考えても、最初から「不正としない」という結論ありきの調査をやったのではないか。

客観的かつ公平な調査をすることなく井上前総長にとって有利な結論になるように調査委員会の結論を出させることで世間に不正はなかったと印象付ける悪質な調査だったと思う。

読者の皆さんの中には「総長だから庇いたかった。権力に負けた。」と思う人が多いだろう。確かにその通り。それは大きな要因だ。しかし、このような誰かを庇うための不当な調査は身分が総長だろうとポスドクや助教だろうと同様に起こり得る。最近紹介した獨協医大の二重投稿の握りつぶしのように被疑者(准教授以下の人)を守るために不可解な弁明を一方的に信じたり、モラルに違反して規定を極力不正でない方向に運用して不正を握りつぶすといったことがいろいろな研究機関で行われている。これは不正が明るみに出た研究機関だけ発覚したことで、不正が握りつぶされた事例は公表されていないから暗数は結構あるだろう。

被疑者の所属機関に調査を任せているからこういう弊害が生じる。客観的かつ公正な調査機関の設置。これは必須である。

参考
[1]Tao Zhang and Akihisa Inoue:"Thermal and Mechanical Properties of Ti-Ni-Cu-Sn Amorphous Alloys with a Wide Supercooled Liquid Region before Crystallization"  Mater.Trans.,Vol.39 (1998),1001-1006.
[2]"井上総長に係る研究不正等の疑義に関する匿名投書への対応・調査報告書" 東北大学 2007.12.25
[3]DSC曲線の類似性疑問点の指摘 井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム) 
※ DSC曲線のpptはスライドショーにすると類似性がよくわかる。
[4]世界変動展望 著者:"研究機関のあらゆる不正を調査する第三者調査機関を必ず設置せよ!" 世界変動展望 2012.5