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公然わいせつ罪、草剛の責任阻却、警察の違法捜査について

2009-04-28 17:56:55 | 法律
公然わいせつ罪(刑法174条、参考[1])の構成要件は「公然とわいせつな行為」をすることであるが、同罪の成立には公然性とわいせつな行為が必要である。

公然とは不特定または多人数が認識できる状態をいう(最高裁判決昭和32年5月22日)。不特定であれば少人数でもよく、多数であれば特定人の集まりであってもよい。また、現実にそれらの者がわいせつ行為を認識することを要せず、その可能性があれば足りる。

4月25日付けのYOMIURI ONLINEによれば、草なぎ剛が全裸なった事件は深夜とはいえ男性が公園にいたらしいので、公然性の要件は満たす。

「わいせつな行為」とは判例によれば「徒に性欲を興奮または刺激せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(最高裁判例昭和26年5月10日)とされる。

草なぎ剛の行為は全裸になるものであり、普通人の性的羞恥心を害すのでわいせつ行為に該当する。

しかし、わいせつの概念は一般人からの視点では明らかではなく、裁判所が意味を明らかにしてはじめて規範性を持つ規範的構成要件要素である。そのため、裁判官等でなければ構成要件の意味がわからず「その行為をしてはならない」という規範に直面したといえないので故意があるのかが問題となる。

思うに、裁判官など法律家でなければ規範の問題に直面したといえず故意がないとしたのでは法益保護がはかれないため、わいせつ行為の場合は法律家ほど構成要件の意味を理解していなくても素人水準で「いやらしいもの」というレベルの認識があれば規範の問題に直面したといえ、故意が認められると考える。(「意味の認識」)

草なぎ剛の事件の場合は「いやらしいもの」という認識はあるので、構成要件的故意を満たす。また、違法性も満たすだろう。

しかし、草なぎ剛の場合は泥酔し全裸になった時点で判断能力があったかどうか疑わしい部分もある。また、草なぎの社会的損失を考えれば草なぎ剛が全裸になる利点は全くないので、全裸になるために泥酔したとは通常考えられない。そのため、いわゆる原因において自由な行為の法理は適用されない[2]。

草なぎの当時の体調や供述を詳しく調べないとわからないが、草なぎ剛は行為当時判断能力がなかったとして責任阻却される可能性がある[3][11]。具体的には責任能力の鑑定を行って、責任能力がなかった若しくは責任能力の立証が困難だった場合は不起訴になると思われる。

思うに、本人は「気がついたときには警察にいた。」と供述しているが、草なぎ剛は警察官に声をかけられたとき「裸で何が悪い。」と反抗したことを考えると、簡単な受け答えや判断はできる状態であり、簡単な判断である「全裸をみせるのはいやらしいことだ」という程度の判断能力はあったかもしれない。

検察官が総合的に考慮して草なぎが行為当時責任能力がなかった、又は責任能力の立証が難しいと判断されれば、責任阻却となり草なぎ剛は起訴猶予でない不起訴となる。裁判官がそれと同じように判断すれば仮に草なぎは起訴されても無罪である。少なくても、犯罪の軽微さを考えれば最悪でも起訴猶予だろう。報道や参考[11]を考えると今回は起訴猶予の公算が大きい。

草なぎが単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊のうちどれだったのかはきちんと調べないとわからない。今回は単純酩酊だったとしても起訴猶予だろうが、単純酩酊か病的酩酊かは犯罪の成立を左右する重大事項だから、それをきちんと調べてもいいと思う。草なぎにとっても単純酩酊で公然わいせつしたのか病的酩酊で公然わいせつしたかでは今後の職業人生で影響が違う可能性があるし責任能力を争う利点はあると思う。調べてみると草なぎが単純酩酊だという人もいれば病的酩酊だという人もいるので、少なくても病的酩酊と判断される可能性が全くないわけではないと思う。単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊のうちどれなのかは、鑑定をして明らかにした方がいいと思う。

一方で今回の警察の草なぎ剛宅への捜索は違法の疑いがある。捜索は強制捜査で令状が必要である[7]。今回の捜索は令状にもとづくものだろうが、普通に考えると公然わいせつで家宅捜索を行う必要性は乏しい。

また、尿検査(たぶん、草なぎへの採尿検査は任意捜査。無論令状があれば強制採尿もありえる[8]。)をしたという事実を考えると捜索の目的は麻薬等の発見を目的として行ったと思われる。つまり、別件での捜索である疑いがある。

麻薬取締法違反(大麻取締法違反、覚せい剤取締法違反などのこと。以下これら薬物関連の犯罪を麻薬取締法違反と略す。別件捜索の場合の本件に該当。[13])での捜索か公然わいせつ罪(別件捜索の場合の別件に該当。[13])での捜索かを判断するのは警察官の内心に踏み込んだ判断なので簡単には判断できない。このような場合は、別件および本件の犯罪としての軽重の比較、関連性、本件の取調べに要した時間を含めた逮捕後の取調べ状況、別件と本件の捜査が当初から併行して行われていたか否かなど客観的状況から総合的に判断すべきである。

思うに、公然わいせつ罪(6月以下の懲役)と麻薬取締法違反(例えば大麻所持-5年以下の懲役、覚せい剤使用-10年以下の懲役[5])では罪の軽重の差が大きい。

関連性については公然わいせつ罪と麻薬取締り法違反の罪質を考えると一般には関連性が薄いと考えられるが、酩酊による混乱も薬物による混乱も混乱という点では共通しているから、関連性が全くないとも言い切れないかもしれない。

しかし、混乱しているというだけで麻薬取締り法違反との関連性が肯定されるなら、全ての酩酊者は麻薬取締り法違反で取り締まられかねないので、自由保障上妥当でない。

そこで、少なくとも麻薬取締り法違反を疑わせる他の客観的な証拠がない限り混乱しているというだけで関連性を肯定し、プライバシー侵害が著しい捜索を認めるのは妥当でない。関連性を肯定するには例えば、被疑者が全く酒臭くないのにひどく混乱しているといった状況が必要だと考える。

結果的には草なぎは薬物に関して全く嫌疑がなかったことを考えると、逮捕時に薬物による混乱を疑わせる客観的事実はなかったものと推察される。よって、当該事件では関連性も乏しい。

さらに、公然わいせつ罪の証拠が現行犯逮捕時で十分にあったことや公然わいせつ罪に対する家宅捜索や尿検査の必要性が乏しいことを考えると、警察が行った家宅捜索や尿検査はもっぱら麻薬取締法違反のための捜査だと考えられる。

以上より、警察の行った家宅捜索は別件捜索である疑いが強く、実質的に令状主義を潜脱し、違法である疑いが強い[10]。

特にプライバシー侵害が著しい捜索で別件捜索するのは、任意捜査以上に許されない。裁判所も捜索令状請求をきちんと審査し、捜索令状請求を却下すべきではなかったか。また、警察がこのような捜査を行うのは断じて許されない。

参考
[1]刑法174条:公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

[2]原因において自由な行為の法理:完全な責任能力を有さない結果行為によって構成要件該当事実を惹起した場合に、それが完全な責任能力を有していた原因行為に起因することを根拠に、行為者の完全な責任を問うための法理。例えば、殺人を犯すために覚せい剤を使用し錯乱状態になって殺人を犯した場合に殺人罪の罪を問う場合に用いる。

[3]犯罪は、構成要件、違法性、責任の3段階がすべて認められて成立する。責任が成立するためには規範の問題に直面して反対動機を形成できる能力が必要である。病気や泥酔、麻薬などによって一時的又は恒常的に心神喪失した場合に犯罪の構成要件該当行為を行った場合は、規範の問題に直面して反対動機を形成できないため責任阻却され、無罪となる[4]。

[4]刑法39条1項:心神喪失者の行為は、罰しない。

[5]大麻取締法第24条の2第1項:大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。

(私見)
大麻吸引など通常の大麻違反使用者である研究目的外の大麻使用を直接取り締まる条文はない。おそらく、大麻を所持しなければ使用もできないはずだから、通常の大麻違反使用者は大麻取締法第24条の2第1項の大麻所持違反で取り締まられていると推測する。

[6]覚せい剤取締法第41条の3 1項: 次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
一 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者

[7]現行犯逮捕では必要な場合、無令状捜索ができる。

刑事訴訟法第220条第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること

第2項 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。

第3項 第1項の処分をするには、令状は、これを必要としない

草なぎの逮捕現場は自宅ではないので刑事訴訟法第220条第1項2号、同条3項は適用されず、家宅捜索を行うには刑事訴訟法第218条1項により裁判官の発する令状が必要となる[9]。したがって、草なぎ宅への捜索は形式的には裁判官の発した令状にもとづき行われたものと思われる。

しかし、本文で述べたとおり草なぎ宅への家宅捜索は実質的に令状主義の潜脱であり違法である疑いが強い。

[8]強制採尿は被疑者に耐え難い屈辱を与え人としての尊厳を侵すものだから、判例は強制採尿は嫌疑の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在に照らし、犯罪捜査上、真にやむを得ないと認められる場合に、最終的手段として、適切な法律上の手続きを得たうえ、被疑者の身体の安全とその人格保護のため、十分な配慮が施されたうえで、強制採尿が許されると考えている。

そのため、採尿検査は被疑者から任意提出を受け領置するのが原則である(刑事訴訟法221条)。判例によれば、強制採尿のためには医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない旨の条件記載付の捜索差押さえ令状が必要である。

したがって、草なぎへの採尿検査は任意捜査である可能性が高い。

[9]刑事訴訟法第218条第1項: 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。この場合において身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

[10]別件逮捕・捜索・差押えは違法であるが、警察は常態的に行っているのが現実である。

[11]飲酒時に行った犯罪についてはビンダーという学者が提唱した三分法という考えにより、酩酊状態を

①単純酩酊 → 完全責任能力あり → 通常通りの罰則
②異常酩酊-(1)複雑酩酊 → 限定責任能力(心神耗弱)→ 必要的減軽
       -(2)病的酩酊 → 責任無能力(心神喪失) → 無罪

と分類して扱うのが実務で広く使われているという。公然わいせつ罪のような重大でない犯罪については通常責任能力鑑定されないらしい。
(以上、弁護士・落合洋司:「日々是好日」 2009.4.25 より)

とすると、草なぎは起訴猶予になる可能性が高い。
[12]単純酩酊、複雑酩酊、病的酩酊については「酩酊の分類

[13]別件捜索とは「もっぱら本件について証拠を発見・収集する目的で捜索の理由と必要性がない、または乏しい別件により捜索を行うこと」である。草なぎの事件の場合は、本件が麻薬取締法違反であり、別件が公然わいせつ罪である。