世界変動展望

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円周率が3.05より大きいことを証明せよ。

2009-03-22 00:12:03 | 物理学・数学

問題
円周率が3.05より大きいことを証明せよ。
[2003年 東京大学理系前期第6問]


問題文が短いので何から手をつけていいかわからないが、意外とこの問題は簡単である。計算が少しめんどくさい。正六角形が内接しているなら、半分の周の長さが3になるので、3.05より大きいことを示すくらいなら正12角形でいいだろうと予測した結果うまくいった。

仮に正12角形でうまくいかなくても、もっと大きい正多角数でやればいつか3.05より大きいことを示せるのはわかるだろう。半角の公式を使えば大きい正多角数の半分の周の長さを出すことができるので、手計算によって3.05より大きいことを示すのは原理的に可能だ。

もっとも、あまりにも大きい正多角形だと計算が時間内に間に合わないので、試験問題はそれを配慮してか「3.05」というそれほどきつくないものを評価対象としている。単に05年度(2005年)の出題なので3と05をくっつけて「3.05」としただけかもしれないが。後述するように、この問題は教育上の理由から円周率が3より大きいことを示させる問題を出し世間にメッセージを発するのが狙いで、円周率の真値より小さく3より大きい値の大小評価なら何でもよかったのかもしれない。単に「円周率が3より大きいことを証明せよ。」では上述のように小学生レベルなので、大学入試らしく評価対象を3より大きくしたのだろう。

昔の数学者は正n角形のnを大きくしていけば円に近づく性質を使って円周率を求めたが、解答の考え方もそれに似た方針である。計算が少しめんどくさいかもしれないが、受験生は25分程度での完答を目指してほしい。

ウェブで調べてみると本問は話題性が高く、「ゆとり教育」や「円周率=3」という誤った指導に対する東京大学からのメッセージだと思われる。本問の背景には「ゆとり教育」のため2002年度実施の小学校学習指導要領の改訂にともなって「円周率は3と教える」という指導に変わったと、学習塾やマスコミの誤った宣伝・報道により世間に誤解が広まったことがあると思われる[1]。

本当のところは、文部科学省のHPによると『円周率を3で教えているというのは全くの誤解です。現在の「学習指導要領」でも、円周率は3.14で教えることとしており、これは以前から全く変わっていません。なお、学習指導要領では、以前から、「目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する」と記述しています。これは、例えば、円の面積の見積りをする場合などに、およその面積を素早く見積もることができるなど、目的に応じて適切に処理できるようにするためのものです。』ということである。つまり、従来通り円周率の概算値は3.14と教えるが計算をするときは簡単のために3で概算するということだ。

上記で述べた通り、「半円の弧の長さ>正六角形の周の半分の長さ」から「円周率>3」を示せるので、「円周率=3」と教えるのは不合理である。小学校の学習範囲でもそれを示せるため、そのような不合理な指導は問題ではないかという意見が教育界にあったようだ。2005年度の東京大学は入試問題を通じて世間に対してその問題についての意見を表明したのだろう。

厳密に言えば、円周率は無理数だから3でも3.14でもない。文部科学省のHPでは『円周率は3.14で教える』としているが、正確にいえば『円周率の概算値は3.14で教える』ということだろう。

『tan1°は有理数か.[2]』(2006年京都大学理系後期第6問)のように問題文が短いというのも本問の話題性の一つかもしれないが、おそらく「ゆとり教育」に伴う円周率に対する誤解や混乱、指導の問題性について東京大学がメッセージを発したという事の方が話題性を集めた主要な要因だと思う。

本問は受験という観点だけでなく、現在の教育問題という観点でも考えてほしい問題である。

参考
[1]"「円周率は3」で教えていると聞きましたが、本当ですか。"  文部科学省HP
[2]世界変動展望 著者:"tan1°は有理数か." 世界変動展望  2008.9.27



2 コメント

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Unknown (3,14)
2009-08-23 20:30:16
すごく、分りやすいですね
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ありがとうございます (世界変動展望 著者)
2009-08-24 01:35:15
どうもありがとうございます。
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