ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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ギリシャ財政危機でユーロ圏が揺れている2

2015-09-04 08:45:37 | 経済(ユーロ)
●ギリシャ財政危機の経緯(続き)

 チプラス首相は、国民投票の実施を発表すると、国民にEUの財政再建策に反対するよう呼びかけた。7月5日の投票の結果は、反対が6割を占めた。緊縮財政策に反対を投じたのは、公務員や年金生活者が多かった。また若者の8割は反対したという。
 チプラス首相は、自ら国民に反対を呼び掛けておきながら、そして投票結果も反対が多数になったにもかかわらず、7月9日EU側に対して、その財政再建策をおおむね受け入れる回答をした。結局、土壇場になって、EU側の要求に歩み寄ったわけである。反対を投じた国民は、首相に騙された格好になった。
 私の見るところ、ギリシャの選択肢は、根本的にはユーロ圏にとどまるのか、離脱するのかのどちらかである。離脱して自らの道を進む意思がなければ、EU側が求める財政再建策を受け入れるしかない。ギリシャ政府がEU側の出した財政再建策を受け入れるつもりなら、国民投票を行う必要はない。チプラス首相がなすべきことは、国民に対して、財政再建策の受け入れを説得することだった。ところが、チプラス首相は、全く反対のことをしておいて、結果はEU側の財政再建策をおおむね受け入れる回答をした。国民投票の結果をEU側との交渉の圧力に使うつもりだったのか、単なる時間稼ぎの手段だったのか。不明である。ただ、国民に判断を求める民主的な方法を取ることで、ギリシャの衆愚政治を世界に露わにしたことは間違いない。
 ギリシャがEU側に提出した回答は、年金や税制改革を中心に、これまでのEU側の要求に歩み寄りを見せた内容だった。税制では付加価値税(VAT)について、レストランに対する課税率を13%から23%に引き上げ、離島への軽減措置を撤廃する。年金改革では、早期退職の厳格化などでEU側の要求に応じ、年金支出の削減を盛り込んだ。一方、国防費をめぐってはEU側が求めた4億ユーロの削減に対し、削減幅を3億ユーロにとどめる策を提示した。
 ギリシャはこうした財政再建策を実行する見返りとして、「欧州安定メカニズム(ESM)」に対し、2018年6月までの3年間で、総額535億ユーロ(約7兆2千億円)のさらなる融資を要請した。借金は返すから、そのためにもっとカネを貸してくれというわけである。また、安定的な財政運営のため、政府債務の返済負担の軽減を目指していると伝えられる。
 ギリシャによる再建策は欧州委員会とIMF、欧州中央銀行(ECB)の3機関によって精査され、ユーロ圏財務相会合での検討を経て、7月12日にユーロ圏首脳会議で、了解された。
 7月12日のユーロ圏首脳会議で各国首脳は、ギリシャへの金融支援問題で合意した。これにより、ギリシャの財政破綻とユーロ圏離脱は一応回避されることになった。
 この協議は非常に難航したと伝えられる。緊縮策をEUの押しつけと受けとめるギリシャは、その背後に財政規律を重視するドイツの存在があるとみて、攻撃の矛先を向けた。第二次世界大戦中のナチス占領による賠償問題まで持ち出し抵抗したという。一方、最大の支援負担国でありながら批判されたドイツは、ギリシャが一方的に国民投票を実行したことで、不信感が頂点に達していた。メルケル首相は首脳会議前、「是が非でも合意しようと思わない」と強調した。こうした厳しい姿勢はフィンランドなど欧州北部の国々からも示された。一方、フランスのオランド大統領は「ギリシャのユーロ残留のためにあらゆる手を尽くす」とし、ユーロ圏内での各国の立場の相違が露呈した。ドイツは、ギリシャに対し、財政再建策を本当に実行するのか、疑念をぶつけた。ギリシャにユーロ圏からの5年間の離脱を迫ることも辞さない姿勢だった。だが、トゥスクEU大統領やオランド仏大統領が2回にわたって、メルケル独首相とギリシャのチプラス希首相との4者会談を行って合意にこぎつけた。
 ユーロ圏首脳は、チプラス首相が示した財政再建策を受け入れた一方、ギリシャは、財政再建策の実行を担保するため一部再建策を15日までに法制化することを受け入れた。
 ギリシャ政府は、EUに提出した財政再建策を国会に提出し、ギリシャ国会は11日、圧倒的な賛成多数で承認した。定数300のうち、賛成が251票、反対が32票だった。野党の多くも賛成に回った。だがその一方、財政緊縮反対を掲げるチプラス首相の与党、急進左派連合から一部の議員が反対に回った。
 ギリシャでの法制化を受けて、EU側は、大規模な支援融資実施を行うことにした。2010年以降、ギリシャ向け支援は、3度目となった。欧州中央銀行(ECB)が保有する約35億ユーロのギリシャ国債は、7月20日に償還期限を迎えるため、この日に融資実行を間に合わせる措置が取られた。
 これによって、ギリシャの財政破綻は当面回避された。ここからは、再びいばらの道である。ギリシャ国民は引き続き厳しい財政緊縮策のもとで、経済の再建を図らねばならない。 
 ともあれ、ギリシャがEUの財政再建策を受け入れ、EUがギリシャに支援を行うことになったことで、当面の危機は回避された。今後、ギリシャが財政再建を為し得るのか、それとも結局、債務不履行を繰り返して、ユーロ圏を離脱することになるのか、先行きは不透明な状況である。

 次回に続く。

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