ヨーロッパでは、ギリシャの財政危機に始まり、アイルランドやポルトガル、スペインなど財政難に苦しむユーロ導入国の国債価格が下落している。EU第3の経済規模を持つイタリアが財政危機に陥り、昨年11月IMFの監視下に入った。今年1月13日米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ドイツとともにEUの二本柱をなすフランスの国債の格下げを発表した。一方のドイツは、自国の負担が増す安全網拡充やユーロ共同債の導入を拒み続けている。欧州債務危機が深刻化し、出口の見えないなか、ユーロの信用不安が世界的に強まっている。
ユーロが作られる前、ヨーロッパの各国は通貨の発行権を持ち、各国の中央銀行が自国の通貨の発行量や金利の調整を行っていた。ところが、ユーロを採用した国では、実質的に、自国の意思だけでは通貨政策・金利政策を決定できなくなった。
ユーロ採用国は、財政政策を自国の判断で行う権限は持っている。国債発行、政府支出拡大等を行うことができる。ただし、毎年の財政赤字をGDPの3%以下に抑え、公的財務残高をGDPの60%以下に抑えなければならない。その枠内で財政政策を行うとしても、財政政策は本来、金融政策と連動しなければならない。ところが、各国は金融政策については権限を持たない。ECB(欧州中央銀行)に委ねている。
こうした構造的な問題を抱えているため、EUでは加盟国の中に財政危機に陥った国が出た場合、多くの国に影響が広がる。2008年(平成20年)のリーマン・ショックは、発信源のアメリカ以上にヨーロッパ諸国に大きな打撃を与えた。アメリカのサブプライムローンやCDS等を多量に買って保有する銀行・金融機関が多かったからである。ユーロ採用国は世界経済危機による深刻な状態から抜け出ようとしているが、自国の判断で金融政策を行えないため、有効な景気対策を打てない。 なによりEU最大の工業力と経済力を持つドイツが、このジレンマに陥っている。今日のドイツ経済は、中国に似た典型的な外需依存型経済である。そのため、経済危機による世界的な不況、需要の収縮によって、ドイツは深刻な打撃を受けた。だが、ドイツは自国の通貨政策・金利政策で対処することができない。EU・ユーロ圏の国々と運命をともにするしかない。これは独自の通貨をやめたことによる大きな弊害である。そしてドイツの工業力・経済力が低下するならば、EUも全体として失速することを免れない
これから2月にはイタリア、3月にはギリシャ、4月にはスペインで国債の大量償還があり、欧州債務問題は一つのヤマ場を迎える。ユーロの信用不安が深刻化しているヨーロッパが、これを乗り切れるかどうか。リーマン・ショック以上の世界的な経済危機が発生した場合、わが国にもその影響は必至である。
EUとユーロについてさまざまな専門家が予測を述べているが、わが国でも著名なイギリスのエコノミスト、ビル・エモット氏は、「ギリシャは今後6カ月以内にデフォルト(債務不履行)に追い込まれ、ユーロ圏を離脱しなければならなくなる。他の重債務国に危機が広がるのを防ぐため、同時にドイツがユーロ共同債導入に応じるだろう」と予測する。フランスの大統領選挙に言及し、「問題は4~5月の仏大統領選で再選を目指すサルコジ大統領への影響だ。危機を抱えたまま選挙を迎えるのか、その前に抜本的な対策をとるのか。大統領の思惑を考えると3月に起きてもおかしくない」と語っていることが注目される。
以下は、エモット氏へのインタビュー記事。
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●産経新聞 平成24年1月21日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120121/erp12012119460004-n1.htm
ビル・エモット氏が大胆予測「3月にもギリシャはデフォルト、ユーロ共同債導入」
2012.1.21 19:44
【ロンドン=木村正人】日本のバブル崩壊を予測、その後も日本をウオッチする英誌エコノミスト前編集長、ビル・エモット氏が日本と似た問題を抱えるイタリアのドキュメンタリー映画制作にかかわっている。同国の財政破綻が懸念される中、本紙とのインタビューで「今年3月にもギリシャは欧州単一通貨ユーロ圏離脱に追い込まれる」と大胆に予測した。一問一答は次の通り。
--今年中にギリシャがデフォルトする可能性は
「ギリシャは今後6カ月以内にデフォルト(債務不履行)に追い込まれ、ユーロ圏を離脱しなければならなくなる。他の重債務国に危機が広がるのを防ぐため、同時にドイツがユーロ共同債導入に応じるだろう」
--いつ起きるのか
「問題は4~5月の仏大統領選で再選を目指すサルコジ大統領への影響だ。危機を抱えたまま選挙を迎えるのか、その前に抜本的な対策をとるのか。大統領の思惑を考えると3月に起きてもおかしくない」
--新著『フォルツァ(頑張れ)、イタリア』を出版するなど同国に強い関心を持っているのは
「日本に似ていることに加え、メディアを支配する億万長者のベルルスコーニ前首相に興味があった。イタリアは1960~70年代に日本に次ぐ経済成長を遂げたが、90年以降、経済は停滞し、“失われた20年”を経験した。イタリアを代表する資本家が政治を担う問題点を探りたかった」
--イタリアも日本も政府債務が膨らんでいる
「イタリアでは戦後、キリスト教民主党による事実上の一党支配、日本でも自民党支配が続き、有権者は政権を選択できなかった。有権者は票の見返りとして政治家に橋や道路、鉄道、空港の建設を求めた」
--経済学者のモンティ首相にイタリアの未来がかかっている
「英国のサッチャー元首相は改革に5~6年を要した。モンティ氏には1年しか与えられていない。自由化を進め、政府債務を減らせれば経済が復活する可能性はあるが、非常に難しい。ギリシャ問題が資金調達費用を押し上げている」
--日本の野田政権も消費税増税を掲げて財政再建に取り組んでいるが
「モンティ首相のように消費税増税とともに経済成長を実現させる経済自由化の両面作戦が必要だ。成長戦略を欠いたままでは収支黒字化に失敗するだろう」
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ユーロが作られる前、ヨーロッパの各国は通貨の発行権を持ち、各国の中央銀行が自国の通貨の発行量や金利の調整を行っていた。ところが、ユーロを採用した国では、実質的に、自国の意思だけでは通貨政策・金利政策を決定できなくなった。
ユーロ採用国は、財政政策を自国の判断で行う権限は持っている。国債発行、政府支出拡大等を行うことができる。ただし、毎年の財政赤字をGDPの3%以下に抑え、公的財務残高をGDPの60%以下に抑えなければならない。その枠内で財政政策を行うとしても、財政政策は本来、金融政策と連動しなければならない。ところが、各国は金融政策については権限を持たない。ECB(欧州中央銀行)に委ねている。
こうした構造的な問題を抱えているため、EUでは加盟国の中に財政危機に陥った国が出た場合、多くの国に影響が広がる。2008年(平成20年)のリーマン・ショックは、発信源のアメリカ以上にヨーロッパ諸国に大きな打撃を与えた。アメリカのサブプライムローンやCDS等を多量に買って保有する銀行・金融機関が多かったからである。ユーロ採用国は世界経済危機による深刻な状態から抜け出ようとしているが、自国の判断で金融政策を行えないため、有効な景気対策を打てない。 なによりEU最大の工業力と経済力を持つドイツが、このジレンマに陥っている。今日のドイツ経済は、中国に似た典型的な外需依存型経済である。そのため、経済危機による世界的な不況、需要の収縮によって、ドイツは深刻な打撃を受けた。だが、ドイツは自国の通貨政策・金利政策で対処することができない。EU・ユーロ圏の国々と運命をともにするしかない。これは独自の通貨をやめたことによる大きな弊害である。そしてドイツの工業力・経済力が低下するならば、EUも全体として失速することを免れない
これから2月にはイタリア、3月にはギリシャ、4月にはスペインで国債の大量償還があり、欧州債務問題は一つのヤマ場を迎える。ユーロの信用不安が深刻化しているヨーロッパが、これを乗り切れるかどうか。リーマン・ショック以上の世界的な経済危機が発生した場合、わが国にもその影響は必至である。
EUとユーロについてさまざまな専門家が予測を述べているが、わが国でも著名なイギリスのエコノミスト、ビル・エモット氏は、「ギリシャは今後6カ月以内にデフォルト(債務不履行)に追い込まれ、ユーロ圏を離脱しなければならなくなる。他の重債務国に危機が広がるのを防ぐため、同時にドイツがユーロ共同債導入に応じるだろう」と予測する。フランスの大統領選挙に言及し、「問題は4~5月の仏大統領選で再選を目指すサルコジ大統領への影響だ。危機を抱えたまま選挙を迎えるのか、その前に抜本的な対策をとるのか。大統領の思惑を考えると3月に起きてもおかしくない」と語っていることが注目される。
以下は、エモット氏へのインタビュー記事。
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●産経新聞 平成24年1月21日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120121/erp12012119460004-n1.htm
ビル・エモット氏が大胆予測「3月にもギリシャはデフォルト、ユーロ共同債導入」
2012.1.21 19:44
【ロンドン=木村正人】日本のバブル崩壊を予測、その後も日本をウオッチする英誌エコノミスト前編集長、ビル・エモット氏が日本と似た問題を抱えるイタリアのドキュメンタリー映画制作にかかわっている。同国の財政破綻が懸念される中、本紙とのインタビューで「今年3月にもギリシャは欧州単一通貨ユーロ圏離脱に追い込まれる」と大胆に予測した。一問一答は次の通り。
--今年中にギリシャがデフォルトする可能性は
「ギリシャは今後6カ月以内にデフォルト(債務不履行)に追い込まれ、ユーロ圏を離脱しなければならなくなる。他の重債務国に危機が広がるのを防ぐため、同時にドイツがユーロ共同債導入に応じるだろう」
--いつ起きるのか
「問題は4~5月の仏大統領選で再選を目指すサルコジ大統領への影響だ。危機を抱えたまま選挙を迎えるのか、その前に抜本的な対策をとるのか。大統領の思惑を考えると3月に起きてもおかしくない」
--新著『フォルツァ(頑張れ)、イタリア』を出版するなど同国に強い関心を持っているのは
「日本に似ていることに加え、メディアを支配する億万長者のベルルスコーニ前首相に興味があった。イタリアは1960~70年代に日本に次ぐ経済成長を遂げたが、90年以降、経済は停滞し、“失われた20年”を経験した。イタリアを代表する資本家が政治を担う問題点を探りたかった」
--イタリアも日本も政府債務が膨らんでいる
「イタリアでは戦後、キリスト教民主党による事実上の一党支配、日本でも自民党支配が続き、有権者は政権を選択できなかった。有権者は票の見返りとして政治家に橋や道路、鉄道、空港の建設を求めた」
--経済学者のモンティ首相にイタリアの未来がかかっている
「英国のサッチャー元首相は改革に5~6年を要した。モンティ氏には1年しか与えられていない。自由化を進め、政府債務を減らせれば経済が復活する可能性はあるが、非常に難しい。ギリシャ問題が資金調達費用を押し上げている」
--日本の野田政権も消費税増税を掲げて財政再建に取り組んでいるが
「モンティ首相のように消費税増税とともに経済成長を実現させる経済自由化の両面作戦が必要だ。成長戦略を欠いたままでは収支黒字化に失敗するだろう」
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