ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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昭和憲法の改正~新憲法へ(下)

2005-10-23 10:23:28 | 憲法
昭和憲法は、制定された事情が特異なので、これを無効とする論がある。
 無効論の理由は、主に三点である。第一に、明治憲法の改正は、わが国の統治権が連合国最高司令官に従属し、強く制限されている時期になされた。第二に、昭和憲法は成立過程の全般にわたって占領による脅迫・強要が存在した。第三に、明治憲法の改正は、占領者は絶対的な支障がない限り、占領地の現行法を尊重すべきことを明記するハーグ陸戦法規に違反している。これらの理由は、概ねそのとおりである。
 しかし、戦後、今日に至るまで、昭和憲法は一貫して法的拘束力をもって機能している。国民の大多数がこれを受け入れている。こうした厳然たる事実がある以上、法理論だけで現行憲法を無効と説くのは、無理がある。

 昭和憲法の有効論としては、宮沢俊義の「8月革命説」が有名である。宮沢は、昭和20年8月、ポツダム宣言を受諾したと同時に、法学的意味でいう「革命」が起こって、正当な法的手続を経ずに主権者が代わり、天皇主権から国民主権に変わったとする。昭和憲法は、新たに主権者となった日本国民により有効に制定された憲法であるとする。この見解が、わが国の憲法学会に強い影響を与えてきた。
 しかし、「8月革命説」は、事実関係を捻じ曲げている。敗戦と占領によって、主権は天皇から国民へ移行したのではなく、連合国最高司令官に移行したのである。ポツダム宣言に関するわが国の質問に対するバーンズ回答は、「降伏ノ時ヨリ、天皇及日本国政府ノ国家統治ノ権限ハ‥‥連合国最高司令官ノ制限ノ下ニ(subject to)置カレ」たと記している。国家意思を最終的に決定する権限という意味での主権が国民に移ったとは、言えない。それゆえ、「8月革命説」は理論的に破綻している。
 宮沢理論を部分修正した説もあるが、私には勝者による押し付けを正当化するために、学者が作り出した欺瞞でしかないと思われる。

 これに対し、佐々木惣一は、昭和憲法は明治憲法の全面的な改正憲法であり、有効に成立したとする。
 佐々木は、改正手続による憲法改正には何ら限界がないという立場に立つ。明治憲法改正説である。そして、昭和憲法は明治憲法第73条の定める天皇の発議、帝国議会の議決、天皇の裁可という手続によって成立したものであるから、内容的に明治憲法を全面的に変更したとしても、革命によって成立した憲法ということはできないとする。佐々木は、昭和憲法は天皇が制定されたものであるから「欽定憲法」とする。

 私は、無効論の挙げる理由を認めつつも、佐々木の見解のように、改正は有効とせざるを得ないと考える。
 昭和憲法には、GHQの銃砲と検閲の下とはいえ、帝国議会で審議され、天皇によって公布されたという形式を取っている。そして、次のような天皇の「上諭」が付せられている。
 「朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」。
 これに、御名御璽と各大臣の副署がある。GHQによって威嚇的強制が行われたとはいえ、明治憲法の規定によって帝国議会が議決し、天皇が裁可して公布した以上、これを有効と認めざるを得ない。「帝国憲法の改正」と天皇が明記をされている。
 いかに制定過程に矛盾・不正があろうとも、明治憲法違反・国際法違反ゆえ、現行憲法は無効を宣言すべしという主張は、天皇の権威を否定するものとなると思う。

 また、公布後、国民による承認手続きの機会はなかったが、無効破棄の宣言は行われていない。施行後、日本の立法・行政・司法はすべてこの憲法にそって行われてきた。そして、60年近くたっている。この事実にも、憲法の有効性を認めざるを得ない。

 私見としては、統治の本質は、法にあるのではなく、力にある。法は力の行使に関するルールである。敗戦・占領という状況は、明治憲法の規定を超えていた。想定していなかった。また、国際法といえども、勝者の力は法を超えて振り回される。こうした基本認識に立って、私は考える。法を超えた統治が行われる状況では、違法・不当な行為も力によって正当化される。いくら明治憲法に言葉で定めてあったとしても、力による支配の下では、いっぺんの紙切れに過ぎない。
 GHQ案を受け入れざるを得なかったのは、天皇を訴追・処刑から守り、「国体護持」をするための苦慮の末のことだった。問題は、法を超えた力によって押し付けられ、やむを得ず受諾したという経緯を踏まえ、独立回復後に即改正すべきだったということにある。それを実行しなかった日本人こそ、反省しなければならない。

 今日、この課題は、できるだけ早く実行しなければならない。GHQによって、日本弱体化のために押し付けられた憲法は、それが機能し続ければ、日本が立ち行かなくなるようにできている。放置すれば、国が滅ぶ。この点は、別に書いたものがあるので、ご参照願いたい。(註)

 改正において取るべき方法は、無効破棄や明治憲法の復元改正等ではない。昭和憲法の規定に従って、改正を行うことである。
 現行憲法は、第96条に次のようにある。「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」
 この規定は、改正を非常に難しいものにしている。しかしながら、改正は、憲法の規定に従って、両議院の3分の2以上で発議し、国民投票で過半数を得て改正する手順を踏むものでなければならないと私は考える。一部に主張されている無効宣言という方法は、一種のクーデタであり、国の内外にわたり禍根を残すと思う。
 まず、第9条と改正条項のみを改正し、最低限の修正を行ったうえで、諸条項に関し、段階的に改正を進めていくと方法もあると思う。

 日本国民が、自分の国のことを真剣に考え、自らの手で、国の運命を切り開こうという意思を持つならば、改正は必ずなしうると思う。
 これから私は新憲法の改正案検討を検討し、具体的に条文の提示を行いたいと思う。


・拙稿「日本国憲法は亡国憲法ーー改正せねば国が滅ぶ」をご参照のこと。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08c.htm

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