ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

嵌められた日本~張作霖爆殺事件1

2006-02-25 10:24:03 | 歴史
 ユン・チアンとジョン・ハリディの共著『マオーー誰も知らなかった毛沢東』(講談社)は、衝撃的な本である。
 新しい膨大な資料や多数のインタビューをもとに、20世紀屈指の指導者・毛沢東の知られざる実像を描いている。共産党の支配下で、中国は7千万もの犠牲者が出ているといわれる。その惨禍は、毛沢東という冷酷非情の大量殺戮者、権力欲の権化、恐怖と恫喝の支配者、世界制覇をもくろむ誇大妄想狂によるものだった。本書は、毛の悪行は、スターリンやヒトラーを上回るものであることを、圧倒的な説得力で明らかにしている。

 毛沢東の死後、彼の目指した超大国化、軍事大国化の道を中国共産党は、歩み続けた。そして、21世紀の今日、共産中国は日本への脅威となり、アジアへの、また世界への脅威となっている。その憎悪と謀略の反日思想によって。また、核ミサイル、原子力潜水艦、自然破壊、食料不足、エネルギー争奪、エイズの蔓延等によって。
 こうした中国の由来と将来を認識する上で、『マオ』は必読の書と言っても過言ではないと思う。

 それと同時に、『マオ』には、別の価値もある。それは、本書が、20世紀の世界史の見方に転換を迫る本でもあるからである。
 本書には、わが国の指導者を一方的に断罪した東京裁判で作り上げられた歴史観、すなわち東京裁判史観を覆すような記述が随所に出てくる。京都大学教授の中西輝政氏は、3月号の『正論』と『諸君!』で本書を紹介し、「これまでの東アジア現代史や戦前の日中関係史に関して、文字通り根底を揺るがすような数多くの新発見が盛り込まれて」いる、「この本に書かれていることが事実であるならば、20世紀の国際関係史は根本的に再検討されなければならない」と述べている。

 その新発見の一つとして、昭和3年(1928)6月の張作霖爆殺事件がある。この事件は、従来、日本の関東軍の謀略だったと言われてきたが、『マオ』は旧ソ連のGRU(連赤軍参謀本部情報総局)の工作であった、としている。
 もしそれが事実であれば、非常に大きな意味を持つ。わが国は、戦後の東京裁判で、昭和3年以降の出来事について裁かれた。その出来事の起点とされたのが、張作霖爆殺事件なのである。
 東京裁判において、米国・旧ソ連・中国などの連合国は、日本を裁くうえで、『田中上奏文』を重要な根拠とした。冒頭陳述において、キーナン主席検事は、日本は昭和3年以来、「世界征服」の共同謀議による侵略戦争を行ったと述べた。東アジア、太平洋、インド洋、あるいはこれと国境を接している、あらゆる諸国の軍事的、政治的、経済的支配の獲得、そして最後には、世界支配獲得の目的をもって宣戦をし、侵略戦争を行い、そのための共同謀議を組織し、実行したというのである。

 なぜ昭和3年以来かというと、この年に、張作霖爆殺事件が起こったからである。そして、『田中上奏文』が日本による計画的な中国侵略の始まりをこの事件としているからである。だから、張作霖の爆殺が、本当に日本の関東軍によるものだったのかどうかは、東京裁判の判決全体にかかわるほどに、重要なポイントなのである。
 『田中上奏文』が偽書であることは、既に世界的に明らかになっている。東京裁判の当時でさえその疑いがあり、原告側は証拠資料として提出しなかった。それでいて、日本を一方的に悪者に仕立てるために、この文書の筋書きだけを利用したのである。

 では、張作霖爆殺事件の方はどうなのか。張作霖は、中国奉天派の軍閥である。東北三省の実権を握り、大元帥となって北京政府を操ったが、北伐軍に敗れ、奉天への退去の途中で、列車を爆発されて死亡した。それが満州の占領を企図する関東軍の謀略によるものではないか、という嫌疑がかかった。
 時の首相・田中義一は、昭和天皇に対して、責任者を厳しく処分すると奏上した。真相究明に1年もの時間がかかった後、白川陸軍大臣が、実は関東軍の仕業ではなかったようだとの内奏を行った。実行者と目されたのは関東軍参謀の河本大作大佐だった。しかし、陸軍は河本を軍法会議にかけることなく、行政処分にしたと報告がされた。従来、この処置は、陸軍が真相を隠し、事件の揉み消し工作をしたものと理解されてきた。

 ところが、『マオ』は、次のように記している。
 「張作霖爆殺は一般的には日本軍が実行したとされているが、ソ連情報機関の資料から最近明らかになったところによると、実際にはスターリンの命令にもとづいてナウム・エイティンゴン(のちにトロツキー暗殺に関与した人物)が計画し、日本軍の仕業に見せかけたものだという」と。
 一瞬、「トンでも本」「際物」の類かと思われる人が多いだろう。しかし、本書の凄いところは、徹底的な資料研究に基づいて記述している点にある。
 続きは次回書く。

参考資料
・ユン・チアン+ジョン・ハリディ共著『マオーー誰も知らなかった毛沢東』(講談社)
・中西輝政著『「形なき侵略戦」が見えないこの国に未来はあるか』(月刊『正論』平成18年3月号)
・中西輝政著『暴かれた現代史――『マオ』と『ミトローヒン文書』の衝撃』(月刊『諸君!』平成18年3月号)

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2 コメント

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Unknown (小楠)
2006-03-14 18:52:21
今晩は、先ほどは失礼しました。

マオの上下を読んで、さらに「毛沢東の私生活」は毛の最後を看取った主治医が書いた本と言うので、これの上下も読んでみましたが、内容は全く「マオ」と一致しています。なかなか面白い本でしたよ。

いつもこちらのブログを見せて頂きたいので、勝手にリンクさせて頂きました。事後になりますがよろしくお願いします。
返信する
re:Unknown (ほそかわ)
2006-03-15 09:34:35
 私は「毛沢東の私生活」は読んでいないのですが、「マオ」と内容が一致しているというのは、興味深いです。

 今後ともよろしくお願いします。
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