●衆院解散総選挙への経緯と目的
安倍首相は、11月18日、衆議院を21日に解散する意向を表明した。来年10月に予定された消費税率10%への再引き上げを先送りする判断について、国民の信を問う。首相は平成29年(2017)4月まで「18カ月間延期する」と表明するとともに、「18カ月後さらに延期することはないとはっきり断言する」とも述べた。衆院選は、12月2日公示、14日投開票の日程で行われる。
解散総選挙を決めた最終的な判断材料は、内閣府が11月17日発表した今年7~9月期のGDP速報値だろう。実質で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減となった。マイナス成長は2四半期連続で、民間予測平均の年率2%前後の増加を大きく下回った。安倍首相はこの結果を見て、「残念ながらいい数字ではない。デフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」と述べた。そして、これを最後の判断材料として、衆院解散総選挙を決めたものと見られる。
GDP1.6%減という数字について、アベノミクスそのものの失敗と批判する見方があるが、これは、正しくない。アベノミクスは株価を大幅に押し上げているように、確かな効果を生んでいる。マイナス成長からプラスに転じた。失業率は3%台に下がり、大卒・高卒の就職内定率は上り、個人消費は拡大している。失敗したのは、本年4月の消費増税である。デフレ脱却がまだこれからという段階で増税を行ったことが、アベノミクスの効果を減少させているのである。税率を上げてなかったら、実質賃金は増え、個人消費がもっと伸びて、GDPは上昇したに違いない。安倍首相は、もともと積極的な消費増税論者ではない。財務省が誘導した自民・民主・公明の3党合意による消費増税法にしばられて、増税を実施した。その点において失敗したのである。ここでの次善策は、次の消費増税を先送りし、デフレ脱却を優先、そして完遂すること。これによって、財務省官僚の影響力を奪い、彼らに同調している政治家や御用学者等を駆逐することである。
安倍首相は、解散表明で消費増税の再延期はないと明言した。これは、消費税増税法の景気判断条項を削除するという意思である。同法は付則第18条に景気判断条項を設けているが、これは努力目標である。私は、これを実施条件とにして、名目3%程度、実質2%程度の経済成長率をきっちり実現しない限り、増税を実施しないといしたほうがよいと考える。単に景気判断条項を削除することにすると、内外の経済状況がどうであれ、2年半後には必ず税率を上げるという決定になる。単に一人の政治家の決意表明で済む話ではなく、国民が一致団結し、必ずデフレを脱却し、実質GDP2%を実現するという決死の覚悟が必要である。安倍首相は、単に増税先延ばしを問うのではなく、増税ではなくデフレ脱却を優先課題とし、国民的努力でデフレを脱却しようと国民に訴え、そのことについて信を問うべきである。
さて、今回の解散総選挙は、11月に入ってにわかに解散の風が吹き出し、中旬の首相外遊中に風速が増し、にわかに決まったかのように語ってきた評論家やジャーナリストが多いが、その見方は皮相である。ジャーナリストで作家の長谷川幸洋氏は、10月22日の時点で早くも解散総選挙の可能性を指摘していた。長谷川氏の記事によると、同日午後のニッポン放送『ザ・ボイス?そこまで言うか』で初めてその可能性を指摘した。その後、『現代ビジネス』や『週刊ポスト』、『たかじんのそこまで言って委員会』等のテレビ番組で一貫して「増税先送りから解散総選挙へ」というシナリオを、氏は強調してきた。
『現代ビジネス』10月24日の記事で、長谷川氏は次のように書いた。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40887?page=7
「増税凍結法案成立後、12月14日衆院総選挙も
自民党内は増税賛成派と反対派の双方が会合を開いて、騒がしくなってきたが、私は急速に悪化してきた景気の現状をみると、もはや増税先送りは必至とみる。そこで11月17日の速報値で判断するとなると、臨時国会は11月30日までなので会期中である。
国会が開かれているときに増税の判断をするとなると、これは大きな話になる。ずばり言おう。安倍政権は衆院解散を考え始めたのではないか。多くの人は『来年10月の再増税は決まった話』と思っているので、増税先送りならサプライズ、しかも前向きのサプライズになる。そこで衆院解散に打って出る。こういう話ではないか。
これから先の政治課題を考えると、原発再稼働とか集団的自衛権行使の法制化とか重たい話ばかりである。それも内閣支持率が上がる方向ではなく、どちらかといえば下がる方向の話だ。11月16日には厳しい戦いと伝えられる沖縄県知事選もある。明るい話はサプライズの増税先送りくらいなのだ。(略)
11月17日は先負、19日は大安、12月の日曜日はというと、7日が先勝、14日は友引、21日は先負、28日は大安である。となると増税凍結法案を成立させた後、11月19日の大安で解散、12月14日の友引あたりが投票日か。28日もありうるが、まさに年末で忙しい。14日なら、ぎりぎり来年度の予算編成作業にも間に合うだろう」と。
多くのメディアや政治評論家は、今回の総選挙は大義名分がなく、安倍首相の自己都合による選挙だという。だが、上記の長谷川氏の観測を踏まえると、「増税先送りとデフレ脱却の優先」について、国民の信を問う選挙となるだろう。自民党は、2年前の総選挙で、来年10月の消費増税を公約に掲げていたから、その公約を変える以上、選挙で民意を問うことは、総選挙の大義となり得る。安倍首相は、民主主義の基本として筋を通そうと考えているわけである。
長谷川氏は、『現代ビジネス』11月14日号で、次のように言う。
「なぜ安倍政権は増税を止めようとしているのか。これが政局の出発点である。それは景気が悪いからだ。景気が悪いのに増税すれば、景気は一層、悪くなる。それで法人税をはじめ税収が減る。すると、せっかく増税しても肝心の税収が増えず、財政再建という本来の目標は達成できない。それどころか、政権の大目標であるデフレ脱却も遠のいてしまう。だから増税先送りなのである」
「いくら首相でも法律で決まっている増税を『私はやめます』と言ってみたって、凍結法案を可決成立させなければ、増税は止まらない。しかも、そもそも増税を決めたのは自民党を含めた3党合意だった。だから解散なのだ。3党合意で決めた増税を安倍政権がチャラにするために、あらためて国民の声を聞く。(略)いまの自民・公明連立政権は3党合意による増税路線を訴えて前回総選挙で勝った。同じ連立政権が増税路線を修正するなら、もう一度、国民の声を聞かなければおかしい」と。
なお、長谷川氏は、債務賞を批判し、増税による財政再建に反対している。「財務省は国の財政を家計になぞらえて『月収40万円の家計の毎月の借金が35万円』などと危機をあおる。だが、国と家計には決定的な違いがある。(略)国は永遠に続くので、借金が永遠に続いても何も問題はない。問題は借金の規模なのだ。国の大きさに比べて借金が年々膨らみ続けていれば、財政は健全といえない。逆に減っていれば、健全と判断する」(週刊ポスト2012年2月10日号)というのが持論である。財政についてこのような理解を以て、安倍首相の政策判断を観測しているから、上記のような分析をなし得るものと思う。
安倍首相は、18日自公で過半数を取れなかったら退陣すると公言した。国民は、選挙における選択において、単に経済政策だけでなく、安倍政権がこの2年進めてきた外交・安全保障・教育再建等を含めて、総合的に評価・判断する必要がある。選択肢は、安倍政権か民主党中心の政権しかない。安倍氏を日本の指導者として信任するか、鳩山氏・菅氏・野田氏を継ぐ海江田氏に国を委ねるかの選択になる。
今回の衆院総選挙について、最も早く予測記事を出したのは、週刊文春である。文春は11月13日号で、「12・14総選挙緊急予測」と題して結果を予測した。「解散の大義名分は消費増税の先送りだ」と書いている。その点が、長谷川氏の見方と一致する。こういう見方をしていたから、早期に予測記事を打ったのだろう。
その予測内容については、次回書く。
安倍首相は、11月18日、衆議院を21日に解散する意向を表明した。来年10月に予定された消費税率10%への再引き上げを先送りする判断について、国民の信を問う。首相は平成29年(2017)4月まで「18カ月間延期する」と表明するとともに、「18カ月後さらに延期することはないとはっきり断言する」とも述べた。衆院選は、12月2日公示、14日投開票の日程で行われる。
解散総選挙を決めた最終的な判断材料は、内閣府が11月17日発表した今年7~9月期のGDP速報値だろう。実質で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減となった。マイナス成長は2四半期連続で、民間予測平均の年率2%前後の増加を大きく下回った。安倍首相はこの結果を見て、「残念ながらいい数字ではない。デフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」と述べた。そして、これを最後の判断材料として、衆院解散総選挙を決めたものと見られる。
GDP1.6%減という数字について、アベノミクスそのものの失敗と批判する見方があるが、これは、正しくない。アベノミクスは株価を大幅に押し上げているように、確かな効果を生んでいる。マイナス成長からプラスに転じた。失業率は3%台に下がり、大卒・高卒の就職内定率は上り、個人消費は拡大している。失敗したのは、本年4月の消費増税である。デフレ脱却がまだこれからという段階で増税を行ったことが、アベノミクスの効果を減少させているのである。税率を上げてなかったら、実質賃金は増え、個人消費がもっと伸びて、GDPは上昇したに違いない。安倍首相は、もともと積極的な消費増税論者ではない。財務省が誘導した自民・民主・公明の3党合意による消費増税法にしばられて、増税を実施した。その点において失敗したのである。ここでの次善策は、次の消費増税を先送りし、デフレ脱却を優先、そして完遂すること。これによって、財務省官僚の影響力を奪い、彼らに同調している政治家や御用学者等を駆逐することである。
安倍首相は、解散表明で消費増税の再延期はないと明言した。これは、消費税増税法の景気判断条項を削除するという意思である。同法は付則第18条に景気判断条項を設けているが、これは努力目標である。私は、これを実施条件とにして、名目3%程度、実質2%程度の経済成長率をきっちり実現しない限り、増税を実施しないといしたほうがよいと考える。単に景気判断条項を削除することにすると、内外の経済状況がどうであれ、2年半後には必ず税率を上げるという決定になる。単に一人の政治家の決意表明で済む話ではなく、国民が一致団結し、必ずデフレを脱却し、実質GDP2%を実現するという決死の覚悟が必要である。安倍首相は、単に増税先延ばしを問うのではなく、増税ではなくデフレ脱却を優先課題とし、国民的努力でデフレを脱却しようと国民に訴え、そのことについて信を問うべきである。
さて、今回の解散総選挙は、11月に入ってにわかに解散の風が吹き出し、中旬の首相外遊中に風速が増し、にわかに決まったかのように語ってきた評論家やジャーナリストが多いが、その見方は皮相である。ジャーナリストで作家の長谷川幸洋氏は、10月22日の時点で早くも解散総選挙の可能性を指摘していた。長谷川氏の記事によると、同日午後のニッポン放送『ザ・ボイス?そこまで言うか』で初めてその可能性を指摘した。その後、『現代ビジネス』や『週刊ポスト』、『たかじんのそこまで言って委員会』等のテレビ番組で一貫して「増税先送りから解散総選挙へ」というシナリオを、氏は強調してきた。
『現代ビジネス』10月24日の記事で、長谷川氏は次のように書いた。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40887?page=7
「増税凍結法案成立後、12月14日衆院総選挙も
自民党内は増税賛成派と反対派の双方が会合を開いて、騒がしくなってきたが、私は急速に悪化してきた景気の現状をみると、もはや増税先送りは必至とみる。そこで11月17日の速報値で判断するとなると、臨時国会は11月30日までなので会期中である。
国会が開かれているときに増税の判断をするとなると、これは大きな話になる。ずばり言おう。安倍政権は衆院解散を考え始めたのではないか。多くの人は『来年10月の再増税は決まった話』と思っているので、増税先送りならサプライズ、しかも前向きのサプライズになる。そこで衆院解散に打って出る。こういう話ではないか。
これから先の政治課題を考えると、原発再稼働とか集団的自衛権行使の法制化とか重たい話ばかりである。それも内閣支持率が上がる方向ではなく、どちらかといえば下がる方向の話だ。11月16日には厳しい戦いと伝えられる沖縄県知事選もある。明るい話はサプライズの増税先送りくらいなのだ。(略)
11月17日は先負、19日は大安、12月の日曜日はというと、7日が先勝、14日は友引、21日は先負、28日は大安である。となると増税凍結法案を成立させた後、11月19日の大安で解散、12月14日の友引あたりが投票日か。28日もありうるが、まさに年末で忙しい。14日なら、ぎりぎり来年度の予算編成作業にも間に合うだろう」と。
多くのメディアや政治評論家は、今回の総選挙は大義名分がなく、安倍首相の自己都合による選挙だという。だが、上記の長谷川氏の観測を踏まえると、「増税先送りとデフレ脱却の優先」について、国民の信を問う選挙となるだろう。自民党は、2年前の総選挙で、来年10月の消費増税を公約に掲げていたから、その公約を変える以上、選挙で民意を問うことは、総選挙の大義となり得る。安倍首相は、民主主義の基本として筋を通そうと考えているわけである。
長谷川氏は、『現代ビジネス』11月14日号で、次のように言う。
「なぜ安倍政権は増税を止めようとしているのか。これが政局の出発点である。それは景気が悪いからだ。景気が悪いのに増税すれば、景気は一層、悪くなる。それで法人税をはじめ税収が減る。すると、せっかく増税しても肝心の税収が増えず、財政再建という本来の目標は達成できない。それどころか、政権の大目標であるデフレ脱却も遠のいてしまう。だから増税先送りなのである」
「いくら首相でも法律で決まっている増税を『私はやめます』と言ってみたって、凍結法案を可決成立させなければ、増税は止まらない。しかも、そもそも増税を決めたのは自民党を含めた3党合意だった。だから解散なのだ。3党合意で決めた増税を安倍政権がチャラにするために、あらためて国民の声を聞く。(略)いまの自民・公明連立政権は3党合意による増税路線を訴えて前回総選挙で勝った。同じ連立政権が増税路線を修正するなら、もう一度、国民の声を聞かなければおかしい」と。
なお、長谷川氏は、債務賞を批判し、増税による財政再建に反対している。「財務省は国の財政を家計になぞらえて『月収40万円の家計の毎月の借金が35万円』などと危機をあおる。だが、国と家計には決定的な違いがある。(略)国は永遠に続くので、借金が永遠に続いても何も問題はない。問題は借金の規模なのだ。国の大きさに比べて借金が年々膨らみ続けていれば、財政は健全といえない。逆に減っていれば、健全と判断する」(週刊ポスト2012年2月10日号)というのが持論である。財政についてこのような理解を以て、安倍首相の政策判断を観測しているから、上記のような分析をなし得るものと思う。
安倍首相は、18日自公で過半数を取れなかったら退陣すると公言した。国民は、選挙における選択において、単に経済政策だけでなく、安倍政権がこの2年進めてきた外交・安全保障・教育再建等を含めて、総合的に評価・判断する必要がある。選択肢は、安倍政権か民主党中心の政権しかない。安倍氏を日本の指導者として信任するか、鳩山氏・菅氏・野田氏を継ぐ海江田氏に国を委ねるかの選択になる。
今回の衆院総選挙について、最も早く予測記事を出したのは、週刊文春である。文春は11月13日号で、「12・14総選挙緊急予測」と題して結果を予測した。「解散の大義名分は消費増税の先送りだ」と書いている。その点が、長谷川氏の見方と一致する。こういう見方をしていたから、早期に予測記事を打ったのだろう。
その予測内容については、次回書く。
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