この城館ホテルは、ドイツの首都ベルリンのグリューネヴァルトと呼ばれる市域にある5つ星のデラックスホテルです。私がこのホテルの存在を知ったのは、2006年にサッカーの世界選手権がドイツで開催され、ドイツチームの宿舎になったときです。「へー、こんなホテルがあるのか。」と思ったのですが、格調が高そうで何となく気がひけて、泊まるのは見合わせていました。
そして10年以上経った2018年、私も年をとって厚顔になったのか、その高い敷居をこえてみよう、という気になったのです。ちょうど日独センターで講演をすることになったので、この機会を利用することにしました。
さて、グリューネヴァルトの城館ホテルとはどんなホテルなのでしょう。
2年間の建築期間を経て1914年に完成したイタリア・ルネサンス風の建築物です。本来の意味での城館ではなく、フォン・パンヴィッツ家が建てたのですが、個人の家屋としては莫大な費用をかけた建物だそうです。ところが6年後に戸主が他界し、その後約20年にわたって空き家の状態が続きました。そしてこの豪華な邸宅は第2次世界大戦中ドイツ国家に売却され、当時新しく出来たクロアチア国の大使館として使われるようになりました。戦後ソ連軍の略奪を逃れたため、元のままの華麗な内装を保つことが出来たそうです。1951年にゲールフスという人物がこの建物を賃借し、デラックスホテルを開業しました。そのホテルは1960年代と´70年代には名前と地位のある人々が集まる場所になり、映画の舞台になったこともあります。ところがゲールフス氏が1984年に亡くなって建物は腐朽して行きます。そして、54の客室をもつホテルが〈城館ホテル・四季〉という名前で再開業したのは1994年です。その後何回か名前が変わり、〈グリューネヴァルトの城館ホテル〉という名前になったのは2004年で、すでに述べたように、その2年後にはサッカーのドイツチームの宿舎になりました。2014年からは有名なルレ ・エ・ シャトーの会員になっています。ごく最近ホテルの名前が〈パトリック・ヘルマン・城館ホテル〉に変わったようですが、当ブログでは馴染みのある古い名前を使いました。
外観 ・ 廊下のうちのひとつ
立派な屋敷が立ち並ぶ高級住宅街に建つホテルにタクシーで乗り付けると、すぐにスタッフが駆け寄って来て荷物を持ってレセプションに案内してくれます。ロビーにはテーブルと椅子があって、そこでウェルカムドリンクを飲みながら、事務能力の高そうな若おばさんを相手にチャックインです。先ほどタクシーまで迎えてくれたスタッフが今度は客室まで案内して、設備の説明をしてくれます。よどみなくテキパキと事が進むのです。少し事務的で心がこもっていない気もしましたが、毎日同じ仕事なのでルーティーン化しているのでしょう。
ホール ・ バー
私の部屋
客室は重厚な感じの内装で年代を感じさせる家具が設えてあり、骨董風の絵が複数かかっています。キングサイズベッド、大きなバスタブ、床暖房の洗面所、そして質が良さそうなアメニティーグッズは良好な住環境を約束してくれそうです。冷蔵庫に入っているビールとジュースと水は無料です。もちろん宿泊料にあらかじめ入っているのでしょう。完璧に思える部屋ですが、自分でお茶を沸かす設備が無いのです。近年客室にお茶を沸かすポットや電動のコーヒーメーカーを置くホテルが増えている中で、稀有なことですね。温かい心遣いを感じるのは、私個人に宛てたあいさつ文を机上に置いていること、テレビのプログラム冊子は当日のページを開いていること、連泊なのに2日目の朝にタオルもシーツも全部替えてくれたこと、そして外出から帰るとドアマンが「お帰りなさい。」と迎えてくれることですね。
ベルリンの日独センターで講演をするのは10回目ですが、今度初めて講演後の夕食に誘ってくれなかったのでホテルに帰りました。疲れていたのでルームサーヴィスにしたのですが、量の判断を間違って2つ、つまり二人分頼んでしまいました。
ひとつはニューヨーク・サンドイッチ。鶏の胸肉、ベーコン、ゆで卵、キュウリ、トマト、チーズがはさまっています。その横にはフライドポテトです。簡単な食べ物だけど美味しい。
サンドイッチ ・ サラダ
もうひとつはシーザー・サラダ(ミニ・ローマのサラダ)です。白菜、トマト、ラディッシュ、パルメザンの薄切りとドレッシング、アボカド、ニンニク風味のサイコロ状カリカリパンで構成されていて、大量のパンが付いています。サラダとパンに味付けするために、練りチーズ、オリーブ油、バター、トマトケチャップ、マヨネーズ、塩と胡椒がお盆にのっていますが、サラダは薄味で美味しいのでさらなる味付けは必要ありません。パンにも要りません。
朝食時にレストランに行くとスタッフの女性が立っていて、朝の挨拶をして中に導き入れてくれます。
朝食のビュッフェの一部
朝食 I の1 ・ 朝食 I の2
給仕係の背の高いスマートな男性二人は黒のスーツを着ていて、ていねいな物腰です。テーブルの上の砂糖壺を探す素振りを一瞬した時に、サッと飛んで来ようとしたのには驚きました。コーヒーも頻繁に注ぎ足してくれます。でも、いつも見られているようで少々落ち着かないですね。BGMはジャズ風音楽ですが、私はこの部屋の雰囲気にはクラッシックの方が合うと思います。最近はレストランやホテルでクラッシック音楽のBGM を聴く機会がめっきり減りました。ビュッフェにはありとあらゆる食品が並んでいます。朝食代金は別払いで勘定書きにサインをするのですが、しっかりとチップの金額を書く欄があります。
部屋に帰るときに、入り口の女性がまた挨拶をします。
「ありがとうございました。良い日をお過ごしください。」
さて、朝食を食べたレストランで夕食です。5品のメニューに興味があるのですが、オヒョウ(カレイ科の海水魚)の料理を抜いて4品、またはオヒョウの料理とイエウサギ肉の料理を抜いて3品にもできるようです。私は特別に、イエウサギ肉の料理を抜いて4品にしてもらいました。
レストランの入り口 ・ その内部
まずパンとオリーブ油とバターが出てきました。バターに塩の結晶を振りかけています。最近歯の調子が悪いので、堅いパンの縁に苦労しました。
パン と オリーブ油 と バター ・ 突き出し
シェフの挨拶としての突き出しは、海老のすり身を丸めて揚げたもの、すりつぶしたオリーブ、イチゴジャムです。ジャムはまぁ普通。私にはオリーブは癖がありすぎて、海老のすり身が一番口に合います。
4品メニューの最初は、オヒョウ(カレイ科の海水魚)の燻製、カボチャ、ベーコン、クリームなどです。残念ながらオヒョウの量が少ない。
オヒョウの料理 ・ スープ
次はメキャベツ・クリームスープで、キジの肉、ベーコン、メース(乾燥させたニクズクの仮種皮で、香辛料・薬用にする)が真ん中に置いてあります。メキャベツの味が濃厚で、他の食材の存在がかすんでいますが美味しい。
メインの料理はノロ鹿の背肉で、カリフラワーと円柱形の揚げたマッシュポテトとトウモロコシなどが添えられています。肉にかかっているのはビャクシン(ジンの原料)から作ったソースです。見た目も良く旨い料理で、たいへん柔らかい肉に特に感心しました。
ノロ鹿の料理 ・ デザート
カラフルなデザートは栗きんとんを抹茶入りのきんとんで被っていて、イチゴのムースと丸い白チョコレートと各種のイチゴが彩りを添えています。抹茶を使っている上に栗きんとんが日本の白あんを思わせる味だし、その上に日本の小豆を砂糖で固めた菓子がのっていて、何だか和風だな、と感じていましたが、後でパティシエが日本人であることを知って納得しました。
朝食 IIの1 ・ 朝食 IIの2
今朝の朝食場ではビジネスウーマン風の女性がてきぱきとサーヴィスをしています。昨日はコーヒーを注ぎ足してくれましたが、今朝はコーヒーのおかわりを頼むと新しいカップに入れて新しいミルク壺を添えて持ってきます。私が食事を終えて出て行くときは、
「良い一日をお過ごし下さい、・・・様。」
と、わざわざ私の名前を添えての挨拶です。客の名前を覚えているんですねー。感心しました。
チェックアウト時のレセプションで、
「ご滞在はいかがでしたか。」
「貴ホテルはプロのサーヴィスをしてくれますね。」
「ありがとうございます。この辺は夏、たいへんきれいなので、次回はぜひ夏にいらっしゃってください。」
「ありがとう。そうします。」
〔2018年2月〕〔2023年11月 加筆・修正〕