休暇を北イタリアで過ごした帰路、ミュンヘンの南のテゲルン湖畔にあるホテルに一泊しました。
ホテルの玄関に車で乗りつけると、男性スタッフが車を地下ガレージに駐車してくれた後でスーツケースなどの荷物を部屋まで届けてくれます。ロビーではピアノの生演奏をしています。
ホテルのロビー ・ 廊下 と ソファー
廊下は広くその突き当りにはソファーを置いてあり、湖を望むことが出来ます。
立派な家具が備え付けられた私たちの部屋はたいへんに豪華で、湖が見えるバルコニーがあります。そして歓迎の意味でしょうか、テーブルには菓子と果物とミネラルウオーターを置いてあります。
バルコニーから湖を望む ・ 菓子 と 果物
我々が旅装を解いて汗を流した後、夕食に行っている間に部屋係のスタッフが一度使ったタオルを全部取り替え、すぐ寝られるように寝具を整え、部屋を片付けてゴミを捨ててくれていました。まさに超一流といえるホテルです。
さて、私たちはなぜこのホテルに宿泊したのでしょうか。
なぜならここにはミシュランの3つ星を保持するレストランがあるからです。このレストランは 「ミシュランガイド」 だけではなく、他の良く知られたガイド本「ファインシュメッカー」、 「シュレマー・アトラス」、 「ファルタ・フューラー」、 そして 「グスト」 でも最高の評価を得ているのです。ただ、「ゴ・エ・ミヨ」 では20点満点のうち19,5点にとどまっています。いずれにせよ、このレストランのシェフは現在のドイツの料理界で最も評価の高い料理人でしょう。
レストランの評価
実は私たちはここのシェフが若い頃、つまり他のホテルのレストランでまだミシュラン2つ星の頃に彼の料理を食したことがあるのです。興味がある方は過去の投稿の 「ヴェルンベルク城塞」 を参照してください。
さあ夕食です。
レストランの入り口
アペリティフとして一種のミックスジュースを頼んだのですが、これは失敗でした。まるでお子様用であるかのように甘ったるいのです。
テーブルセッティング ・ パンなど
定番のパン、バター、オリーヴオイル、そして岩塩が出てきました。パンは何もつけなくてもふわふわでコクがあり旨い。
最初のアミューズブーシュは木材のブロックにのせて供されました。前面にシェフの頭文字 CJ をくっつけています。ニンニクとハーブが入ったオリーブ油を塗ったパンとキノコとカイワレみたいな植物。それに、マグロのタルタルだったと思うのですが忘れました。
アミューズブーシュ 1 & 2
二つ目のアミューズブーシュは白身だけ固まって黄身が生の卵を使っていますが、残念ながら何だったか忘れたのです。
あるレベル以上のレストランでは料理を持って来たときに何であるのか言ってくれるのですが、すぐに記録しないと食事が終わるころには忘れてしまいますね。
どちらも結構大がかりなアミューズブーシュで、どちらも旨い。
コースメニューは5種類の料理で、そのうちの3つは複数の料理の中から選べます。
料理 1: 私が選んだのはヨーロッパチョウザメのムースです。中にほとんど凍った小さなキュウリの玉が入っており、カクテルのジンフィズを少しかけていて、上に本物のキャビアが20グラムのっています。いやー、感心しました。この料理は言葉で表せない程美味しい。
チョウザメのムース ・ 魚の冷菜
妻は魚の冷菜を選びました。シイラ、キュウリ、タイ国産のアスパラガス、ハーブを使った料理です。残念ながら少し酸っぱ過ぎでした。酸っぱさが直接的でまろやかさがないのです。氷の塊を使って供されるのですが、その下に板状のスイッチを敷いているので重さでランプが付き氷塊が赤く光ります。私の好みで言うと明らかに凝り過ぎですね。
料理 2: このウミザリガニ科のエビと胡麻とハーブを使った料理には 「香港風ザリガニ茶」 と名前が付いています。また出方が面白く、改造したコーヒー用のサイホンを使っています。アルコールランプを点けると液体が上にのぼり食材のエキスを吸って、消すと下に降りてくる仕掛けです。
エビ料理の演出 ビフォア & アフター
凝った演出ですが効率は悪いと思われます。料理はグッとくる濃い味で、生のエビがプリプリで旨い。
エビの料理
料理 3: 私の次の選択は 「オーストラリアの黒と金」 という名前です。オーストラリア産のトリュフ (セイヨウシュウロ) 15グラムを細かく削って、中に生の卵黄を埋め込み、全体に金粉を振りかけています。味付けにハーブも使っているようです。トリュフの香りがたいへん強い、今まで食べたことがない料理です。
「オーストラリアの黒と金」 ・ アミガサタケの料理
妻が選んだのは乳飲み子豚のハムを尖ったアミガサタケに詰めて、エストラゴンとシェリー風味の煮出し汁で味付けした料理です。乳飲み子豚のハムは初めてなのですが、味が濃くて旨いのです。
料理 4: 4番目の料理の食材はノロジカの背肉、大根、クレソンです。鹿の肉にはクランベリー・胡椒ソースがかかっています。肉の焼き具合が良く、美味です。
鹿肉の料理
料理 5: 私のデザートはマスカルポーネ (生チーズの一種)、イタリアン・アイスクリーム、サクランボ、ピスタチオから成ります。米のポップコーンも入っていて、そのポリポリ感がいいですね。重くなくて美味しい。
マスカルポーネなど ・ ラズベリーの菓子
妻のには「ユルゲンス (シェフの名前) のおばあちゃんの温かいラズベリー菓子」 という長い名前が付いています。彼の思い出の甘味なのでしょうか。特注だと思われる小さなケーキを焼く用具で供されました。アミューズブーシュで一度使った木材のブロックがまた出て来たのは残念。温かいラズベリーと冷たいアイスクリームのバランスが絶妙です。ラズベリーが酸っぱい、と思いきや、まろやかなのです。ここにもポリポリ感の食材があります。何でしょう。
擬似コルク栓
食後のコーヒーは頼みませんでしたが、シャンペンのコルク栓に似せたチョコレートが出てきました。
こうして3時間のディナータイムが終わったのです。
ところで食事環境ですが、テーブルに着くときには椅子を引いてくれる、洗面所に行ったらナプキンを新しいのにかえてくれる、など、客の扱いが丁重です。ただBGMが軽いポップスで、周囲の雰囲気に合っていないような気がしました。
今夜の食事で大変気になったことがあります。一部の料理の提供の仕方が凝り過ぎていることです。そしてそれに深い意味が感じられなく、単なるアトラクションに過ぎない気がするのです。
和食は古い中国の哲学 「陰陽五行」 の考えを取り入れた料理であるに留まらず、食器や盛り付けで、さらに木の葉や木材、あるいは石や竹を使うことで季節感を出したり、何か精神的なものを表現していると思います。部屋の装飾やそこに流れる音楽も大事な役割を担う 「総合芸術」、 というと言い過ぎでしょうか。
以前ヨーロッパのレストランで鹿の肉を使った料理を食べたとき、キノコを立てたりして皿の上を森に見立てた盛り付けをしているのを面白いと思いました。
最近西洋料理が食材において和食の影響を受けていることは明らかですが、今後その他の点においても同じ流れになってくるのでしょうか。私個人的にはそれを期待しています。
翌朝の朝食は別のレストランでとりました。ビュッフェの規模がたいへんに大きく、ありとあらゆる食物が提供されます。
朝食会場 ・ ビュッフェの一部
私の朝食 1 & 2
ヨーロッパのアルプス地方はわりと頻繁に行くので、またこのホテルに立ち寄ろうと思います。次回が楽しみです。
〔2019年8月〕〔2025年3月 加筆・修正〕