太陽光発電シニア

太陽光発電一筋、40年をはるかに過ぎたが何時までも興味のつきない厄介なものに関わってしまった。

専門外も勉強を

2023-06-11 07:06:26 | 日記

 昨日は市民講座で「水素エネルギーの社会実装化」という講義だった。講師は現役の大学教授である。燃料電池に関することが多かったが多少齧ったこともあり殆どが知っている内容であった。水素の製造方法で化石燃料(石炭や天然ガス)から作るものでCO₂を排出するものを「グレー水素」、そのCO₂を回収・貯留・利用するものを「ブルー水素」、再エネで水を電気分解してつくるものを「グリーン水素」と呼ぶそうだが水素の製造過程で出て来るCO₂に着目した分類である。化石燃料には炭素Cが含まれているから当然CO₂が副生される。水の電気分解では2H₂O→2H₂+O₂で酸素しか出てこない。勿論CO₂を排出しない製造方法が理想だがこの時の説明で気になる発言があった。再エネの代表である太陽電池は中国製が主流であることが問題、また日本には平地が少ないから量的には限界がある、と。日本製の太陽電池パネルは高いと言っているのだが聴講生は多分教授の言う事だからと信じる(ハロー効果)だろう。日本製が未熟で高いと思われては困る。パネルは世界中ほぼ同じ材料で構成され材料原価は同じ、製造工程は殆ど自動化され人件費の差も出難い。もし中国製が性能、品質、コストで優れているなら中国メーカーが日本に工場を建設して製造したら日本製より安く作れるか、否である。殆ど同じだろう。間接コスト(建屋や設備を含めた税制や償却、補助金の有無、一部物流コスト)の違いである。これらは社会制度であり文化の違いがコストに反映されていると言っても良い(実際パネル原価自体は世界中あまり変わらないという調査結果もある)。

日本には利用できる平地が少ない、あるいは平地あたりの設置量では先進ドイツを既に抜いていると言う話もある。環境省が何度か報告書を出しているが太陽電池設置賦存量のデータを見ると良い。設置可能な場所(平地に限らず工場の屋根や道路や鉄道の法面、内水面など)を使い切ったらどれくらい太陽電池パネルが設置できるかを試算したものである。平地が少ないという誰かが仕掛けたアンチ再エネキャンペーンに同調するマスコミを信じた話である。もうこれ以上設置する場所がありませんとなってから言うべきだ。大学の先生も専門外になると意外に受け売りを信じるものだと思った。最後のQ&Aで少し意地悪な質問をした。

製造方法や貯蔵・輸送方法、利用分野開発のことはよく分りました。しかし水素で一番必要なことは市場開拓ではないでしょうか。水素がこれ位の価格になればこういう用途が拡がるといった目標設定ではないでしょうか、と。Aは意味不明のモゴモゴだった。理系学者の一番弱い所は市場に関することだ。もしタダの水素があったら何に使いますかが出発点だろう。嫌な聴講生だ。

因みに燃料電池の価格は幾らなら普及するだろうかと20年以上前試算したことがある。燃料電池は原料ガス(水素や都市ガス)を投入して成果物である熱や電気を得るエネルギー変換器である。原料ガスの価格は分かっている。電気や熱の価格は想定できる。ならば変換器の寿命と変換効率を加味すればINとOUTの差額が変換器にかけられる費用である。20年くらい前は熱+電気の総合効率は70%くらいだった(今は80%くらい)。勿論これはアウトプットをバランスよく使えば話でやたら電気を使う家とか風呂ばかり入る家では熱か電気に偏って総合効率は下がる(エネファームに限らず)。試算結果は当時KWあたり30万円くらいだった(実力はまだ100万円程度だったが)。太陽電池もエネルギー変換器(太陽光→電気)の一種である。原料である太陽光はタダ、成果物の電気は価格が分っている。寿命を30年、変換効率は15%くらい。変換器(太陽電池)にかけられる費用はKWあたり30万円くらい(今の実勢はそれより安い)だった。偶然にも燃料電池の30万と一致した。エネルギー変換器KW30万円説という自説に酔ったものだ。

水素価格が幾らで周辺機器である変換器が幾らなら市場性が出て来るか、難しい計算ではない。用途開発には周辺機器のコスト目標を設定する必要がある。学者は金勘定をあまり好まない。技術開発が優先でコストは後からついて来るという考えが多い。両方向からのアプローチが必要と思うが。つくづく嫌な聴講生だろう。