共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はレスピーギの祥月命日〜斬新な響きの《5声の協奏曲 ニ短調》

2024年04月18日 17時17分17秒 | 音楽
昨日は夏日に迫る暑さでしたが、今日は朝から曇り空の広がる陽気となりました。それでも、湿度が若干高めのためか、屋外で長袖シャツで動いていると少し暑く感じることもありました。

ところで、今日4月18日はレスピーギの祥月命日です。



オットリーノ・レスピーギ(1879〜1936)は、イタリアの作曲家・音楽学者・指揮者として活躍した人物です。ボローニャ出身で、1908年までは演奏家、とりわけヴァイオリン奏者やヴィオラ奏者として活動しましたが、1913年からはローマに出て教育者としても活動しました。

近代イタリア音楽における器楽曲の指導的な開拓者の一人としてつとに名高く、『ローマ三部作』と呼ばれる一連の交響詩〜《ローマの噴水》《ローマの松》《ローマの祭り》〜は広く知られています。また、16世紀から18世紀の音楽に対する関心から、《リュートのための古典舞曲とアリア》組曲のような古楽に基づく作品も多く遺しました。

晩年のレスピーギは国内外で自作の上演のため何度も演奏旅行に出ていて、指揮者を務めたり、ピアニストとして声楽家であるエルザ夫人の伴奏を務めたりしていました。レスピーギの作品は当時ムッソリーニ率いるファシスト党政権にも非常に好評でしたが、レスピーギ自身はファシズムに深入りするようなことはなかったようです。

『ローマ三部作』のひとつ《ローマの祭り》の初演は、1929年にアルトゥーロ・トスカニーニ(1867〜1957)の指揮するニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団によって行われました。初録音は1942年にフィラデルフィア管弦楽団、再録音は1949年にNBC交響楽団によって行われ、いずれもトスカニーニの指揮でした。

レスピーギの作品は、特にアメリカ合衆国でかなりの成功を収めていました。ピアノと管弦楽のための『トッカータ』は1928年11月にカーネギーホールにおいて、作曲者自身のピアノ独奏とウィレム・メンゲルベルク(1871〜1951)の指揮、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されましたし、大規模な変奏曲《メタモルフォーゼ》はボストン交響楽団創立50周年記念の依嘱作品でした。

1936年1月までは作曲を続けていたレスピーギでしたが、その後は次第に病に蝕まれてもはや新作を完成させることができなくなり、同年4月18日に心臓病のため亡くなりました(享年56)。遺体はローマに埋葬されましたが、翌1937年にはレスピーギの郷里であるボローニャに移葬されました。

そんなレスピーギの祥月命日である今日は、《5声の協奏曲 ニ短調》をご紹介しようと思います。《5声の協奏曲 ニ短調》は、レスピーギ晩年の1933年に発表された作品です。

バロック時代、ヴィヴァルディやテレマンといった作曲家は多声部の協奏曲を多く遺していますが、それ以降の古典派からロマン派までの協奏曲はピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲といった一種類の独奏楽器とオーケストラが組み合わされるものがほとんどです。例外としてはモーツァルトの《フルートとハープのための協奏曲》、ベートーヴェンの《ピアノとヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲》、ブラームスの《ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲》などが有名ですが、その数は決して多くはありません。

このレスピーギの《5声の協奏曲 ニ短調》ではピアノ・オーボエ・トランペット・ヴァイオリン・コントラバスという、特殊な組み合わせの5種類の楽器が独奏に設定されています。曲の構成はバロック時代に完成された協奏曲の特徴である三楽章構成にのっとっていて、中庸なテンポの序奏から徐々に速度を上げていく第1楽章、ゆっくりなアダージョの第2楽章、付点の弾むようなリズムと16分音符の駆け巡るようなバッセージが印象的な第3楽章で締めくくられる構成も、オーソドックスな協奏曲の形式ということができます。

この《5声の協奏曲 ニ短調》は全体を通して聴くと、それまでのレスピーギ作品の明朗快活・絢爛豪華なオーケストレーション作品の響きとはかなり趣の違う作品です。形式こそ古典的ですが、むしろドイツの作曲家マックス・レーガー(1873〜1916)やパウル・ヒンデミット(1895〜1963)らの作品に見られるような近代音楽的なメロディや和声が随所に聴かれ、特にコントラバスによる高音域での独奏は独特な響きを放っています。

この作品において、5つの異なる楽器とオーケストラがどのように組み合わされているか、それによってどのような聴こえ方になっているのか、一曲の中における聴きどころはたくさんあります。バロックや古典の伝統を大切にしつつ、イタリア近代音楽で試みられたレスピーギ晩年の挑戦のかたちを楽しんでいただける、隠れた名作だと思います。

そんなわけで、今日はレスピーギの《5声の協奏曲 ニ短調》をお聴きいただきたいと思います。イギリス室内管弦楽団の演奏で、レスピーギ晩年の意欲作をお楽しみください。


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