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発展途上国の不正に着目した開発経済学の啓蒙書

2014-11-05 20:25:22 | 読書ノート
レイモンド・フィスマン, エドワード・ミゲル『悪い奴ほど合理的:腐敗・暴力・貧困の経済学』田村勝省訳, NTT出版, 2014.

  開発経済学分野の一般書籍。行動経済学的な観点を取り入れた発展途上国の貧困の分析であり、バナジーとデュプロの『貧乏人の経済学』(参考)に近い印象。原題は"Economic Gangsters: Corruption, Violence, and the Poverty of Nations"である。

  全体として特に結論があるわけではなく、いくつかのトピックにおける著者らの分析を紹介するものである。最初に、インドネシアの大統領スハルトの体調の変化から彼の親族が関係する会社の株価の動きを調べ、「権力者のコネの値段」を推計する。続いて、香港と中国の公式貿易統計を調べ、嘘の申告で関税をすり抜ける輸入品の額を探っている。こうした不正には税関も関与しているとのことだ。三つ目のトピックが白眉で、外交特権のため駐車違反を罰されることのない外交官の、実際の駐車違反の数と出身国の政治的腐敗度に相関があることを突き止める。文化は経済合理性を超える(特権は使ったほうが得なのに、腐敗度の低い北欧や日本の外交官はそうしない)というわけだ。これは国連本部のあるニューヨークでの駐車違反を元にしており、著者らの着眼に思わず膝を打ってしまった。後半四つの章はアフリカ(わずかにベトナム)の話。旱魃が魔女狩りという名の殺人や、ひいては内戦を引き起こす可能性が高いということで、降雨が少ない年に農民の収入を保障する保険の設立を提唱している。

  切り口鮮やかな前半と、有効な貧困対策を地道に探ろうとする後半ではややトーンが異なる。解説によれば、領域としては前半はフィスマン、後半はミゲルとのこと。もっとネタを集めてそれぞれの単著にするという手もあったはずだが、共著にしてできるだけ早く両者の研究成果を一般書籍にして大衆に伝えようと意図したのだろうか。
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