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方向性は分かるものの現状認識に疑問

2009-06-07 20:43:02 | 読書ノート
国米欣明『その子育ては科学的に間違っています』三一書房, 2007.

  子どもが0歳児の頃から忍耐を覚える訓練をさせるべしと説く育児書。本書は、日本の現在の主流の育児思想を「子ども中心主義」と定義する。「子ども中心主義」は幼い頃の子どもの要求にできるだけ応えることを求めるもので、それが普及した結果、日本の子どもはスポイルされ、我慢のできない・キレやすい大人が増えてしまったという。これに対して著者は、脳科学の見地から、乳児の頃から耐性をつけるトレーニングを薦める。

  ただし、本書の示す現状認識は全体の説得力を損ねているように見える。過剰な甘やかしに対する批判は著者の言うとおりなのだろうけど、それが日本の育児で支配的なのだろうか? 以前のエントリで言及した書籍によれば、日本では子どもに我慢ばかりさせているということだった。また、子ども中心主義が普及する以前の育児と以後の育児に分け、後者によって育った人物は人格的な問題が多く犯罪を起こしやすいかのように書いている。だが、裏付けとなる調査が無く、にわかに首肯し難い。国際調査でいい成績を上げていない米国の教育を理想としているのも問題である。

  育児に対する医学的見地からの興味深い提言もあるのだから、余計な疑問を引き起こすような議論をわざわざ取り合わせて説く必要は無かった。「我慢強い子を育てるのにはこうしたら良いです」程度のつつましさで良かったと思う。論争的な内容のため、参考文献リスト無しでは不満が残る。著者は育児書だと考えて省いたのだろうけれども。
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