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文春新書の元商社マンによる石油解説本二点

2016-08-10 09:41:58 | 読書ノート
岩瀬昇『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? :エネルギー情報学入門』文春新書, 文藝春秋, 2014.
岩瀬昇『原油暴落の謎を解く』文春新書, 文藝春秋, 2016.

  原油市場のレポート。著者は三井物産で原油ビジネスに関わってきた元商社マンで、取引経験や海外駐在経験をもとにした小ネタもけっこう挟まれる。2014年の『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? 』では、原発停止中という足元を見られて高値でLNGガスが日本で売り払われているのか、シェールオイルとは?、原油開発の仕組みとコスト、石油を「商品化」した歴史、日本のエネルギー戦略などが語られている。油田開発は探索から商品として販売するまで10年かかるビジネスであり、投資のリスクは大きい。その供給をコントロールすることは難しいので、先物取引でヘッジするということである。日本に対しては、石油備蓄をもっと増やせと提言している。

  2016年の『原油暴落の謎を解く』は、現在の原油価格が安い理由を、サウジとイランの対立、ロシアの苦境、中国の不況、米国のシェールオイル開発などをまくらに探ってゆく内容。結局、需要ー供給によって価格は決まるというのが大まかな結論である。需要については、実需ではなく、需要の「予測」であるといったほうが正確かもしれない。政治外交系のニュースに石油価格が反応するのは需要の予測に影響するためである。ニューヨークとロンドンに原油の先物市場があってそれぞれ相場を決めているが、それぞれ十分な参加者がいるため、価格を左右できる「黒幕」など存在しないとも。現在需要が一時的に落ちているために価格は下がっているが、長期的な石油需要は底堅く、2018年には価格が上昇するだろう、と著者は予想している。

  知らない話が多くて面白かったが、こまごまとしている印象もありそんなにわかりやすいという感じでもない。とはいえ、わりと市場が重要なのが意外なこと(もっと国家がしゃしゃり出てくるのかと思ったが、そういうのは産油国側だけで、力も弱い)で、興味深いものだった。それにしても、最近の文春新書のラインナップはよいと思う。
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