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詳細を究める米国プラグマティズム思想の成立史

2014-06-30 12:43:22 | 読書ノート
ルイ・メナンド『メタフィジカル・クラブ:米国の100年の精神史』野口良平, 那須耕介, 石井素子訳, みすず書房, 2011.

  19世紀から20世紀初頭にかけての米国思想史。南北戦争前夜から、ウィリアム・ジェームズ、チャールズ・サンダース・パース、ジョン・デューイに至る、プラグマティズムの成立の歴史を追っている。上下二段で500頁ほどある大著で、上記思想家の名前をあらかじめ知っていないと読み進められないレベルの内容である。

  著者の見立てでは、プラグマティズム思想は南北戦争における経験を端緒とする。この戦争はイデオロギー対立を暴力によって解決しようとするものだった。南北戦争は世界最初の総力戦と言われるだけあって、結果として多数の犠牲者をもたらした。北軍に従軍した後の連邦最高裁判事オリヴァー・ウェンデル・ホームズ(阿川尚之の『『憲法で読むアメリカ史(全)』にも出てくる)はこの戦争に強い衝撃を受けた。彼を導きの糸にして、プラグマティズムの思想形成の紆余曲折をたどっている。19世紀後半に概念化されるまでの影響関係や、思想家間の異同を詳細に記した点が、この本の魅力だろう。

  プラグマティズムは、南北戦争の悲劇を克服しようとして、形而上学やイデオロギーを嫌い、寛容な世界を目指す。この点は20世紀的なリベラル思想に大きな影響を与えたところだろう。ただし、著者も指摘するように、間違った意見に対してまでも寛容であることは、不正とみなしうる現実を変える力を持たない。この点で、プラグマティズムは20世紀後半に影響力を失っていたのだが、米国では最近再評価されつつあるという。こうした潮流は、米国の外交における迷走に何か関係があるだろうか。
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