29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

リベラルアプローチによる価値相対主義の不可能さ

2010-12-09 21:08:48 | 読書ノート
マイケル・J. サンデル『民主政の不満:公共哲学を求めるアメリカ〈上〉/ 手続き的共和国の憲法』金原恭子, 小林正弥監訳, 勁草書房, 2010.

  ハーバード大学での講義のTV中継で有名になったサンデルの主著。個人的には初めて読む著者だが、「コミュニタリアン」というキーワード付きで紹介されている文章を他で読んだことがある。この本の原著は1996年発行で、邦訳は現時点では上巻しか発行されていない。

  上巻は、米国における憲法解釈の変化を批判する内容である。20世紀半ばまで、裁判所は公共的な「善」を基準に判断した。ところが、20世紀後半になると、「個人の選択」であることが最大の価値とされるようになり、何が善であるかは裁判所では判断されなくなった。この、民族・人種・宗教・性別ほかさまざまな属性に先行し・価値の源泉たる「個人」を、著者は「負荷なき自己」と呼んでいる。こうした個人主義の優先と、「個人をとりまく諸属性こそが源泉となっている諸価値」に対する政治的判断の回避こそが、アメリカの民主制におけるロールズ的なリベラリズムの勝利を表しているというわけである。

  ところが、個人主義を徹底することは完全な価値相対主義をもたらさなかった。その結果は、これまで個人に尊厳を与えてきた諸属性──「黒人である」「女性である」など──から来る価値を、政治的に貶めて冷遇することになっている。結局、現在の米国に蔓延するリベラリズムは、さまざまな価値を守ることができていないのではないか、というのである。

  以上が上巻の簡単な要約である。ここまででは、リベラル批判はあるものの、代わりにどのような概念を提出して上の問題を解決するのかは不明である。それは下巻でということになるのだろうか? 早く読みたいところである。

  また、訳がいいのか原文がそうなのか知らないが、この種の哲学的な内容の書籍にしては非常に平明で分かりやすい。一方で、邦訳付録のインタビューの方が、予備知識の要求される難解な内容になっている。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ボーカルラインはオリジナル... | トップ | 我慢して聴かなくてよいとい... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事