29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

日本的雇用慣行と少子化の関係を外国と比較しながら整理する

2015-06-03 13:43:41 | 読書ノート
筒井淳也『仕事と家族:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』中公新書, 中央公論, 2015.

  日本における少子化と女性労働(というか日本的雇用慣行)の関係を整理する新書。著者は社会学者で、データを積み上げての論証が実に手堅い。どう対応すべきかの提言部分については、データから導ける範囲の、方向性レベルの話に留まっており、あまり具体的ではない。しかしこの種の主題の本では、日本の現状に対する怒りの故の大改革の提案(たいていは多くの人の支持を得なさそうなものだ)か、または少子化の趨勢は変わらないという諦めの言葉を読まされることがしばしば。なので、議論すべき方向がわかるだけでもありがたい。

  理論的枠組みはエスピン=アンデルセンからだ。世界的には、女性の雇用労働への参加が少子化をもたらすのは明らかなことだった、1970年代までは。しかし、それ以降、女性の高い労働参加率と相対的に高い特殊合計出生率を両立させる国がでてきた。米国とスウェーデンである。米国は徹底した雇用差別の撤廃と雇用市場の流動化でそれを達成した。スウェーデンは公的セクター(特にケア労働)に女性労働者を雇い入れることで達成した。(ちなみにエスピン=アンデルセンだと、育児・介護の商品化/脱商品化という概念を使って発展段階を描いて見せている1)──市場主義つまり商品化段階の米国より公共部門で取り組む北欧の方が進んでいるとする──が、この本にはそういう臭みがなくて、二つの国が対等に提示されている。そこがまたよろしい)。

  しかしながら、メンバーシップ型(参考)で採用する日本的雇用慣行は、ジョブ型の米欧と大きく異なり、上の二国の制度を取り入れることは容易ではない。勤務地や勤務時間、および職そのものが無限定になりがちな日本の総合職型労働は、家庭を顧みることを困難にするもので、女性の参入を阻害してきた。未だ日本の女性の労働はパートタイム中心であり、米国やスウェーデンにおけるカップル形成の要因の一つが、夫婦のダブルインカムによって失業リスクに備えることだったようにはなっていない。日本では、女性が継続して高い所得を得られる見込みに欠けるので、男性の収入に対する期待が高まってしまい、それがカップル形成を阻害している。したがって、そうした期待を下げる政策──女性の「継続的な」雇用労働を可能にする制度設計──が必要だと提言している。

  以上。現状認識部分はかなり説得力のあるものだと思う。議論も平易で図表もそんなに難しいものはないし、現在の日本がよくわかる良書として万人にお奨めしたい。

---------------------------

1) G. エスピン‐アンデルセン『ポスト工業経済の社会的基礎:市場・福祉国家・家族の政治経済学』渡辺雅男, 渡辺景子訳, 桜井書店, 2000.
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« JSLISには「論文」以外の投稿... | トップ | ピアニストは叙情派ながらあ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事