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相互監視と制裁は協力行為を進化させる

2011-05-13 20:41:31 | 読書ノート
大浦宏邦『人間行動に潜むジレンマ:自分勝手はやめられない?』DOJIN選書, 化学同人, 2007.

  進化ゲーム理論を使って協調行動がどう成立するかを解説した書籍。図表は用いられるものの、難しい数式は出てこないので、文系の大学生にもわかりやすいだろう。

  著者によれば、利他的な個体が協力行動を選んでも、利己的な個体に搾取されて終わる。この場合、得点が高くなるのは利己的に振る舞う個体なので、利他的な個体は子孫を残せず駆逐され、集団の中は利己的な個体ばかりになる。彼らは協力すればもっと良い成果が得られるのに、相対的に悪い状態に陥ってしまうのである。こうした結果を避け、協調行動によってパレート最適な状態を生み出すためには、結局「サンクション(制裁)」が必要だということである。

  サンクションが、利己的にふるまった場合の利益を、協力行動を採った場合の利益より少なくなるまで減少させるならば、社会的協調は成立する。したがって、他人に対する攻撃行為は、いつも必ず悪というわけではなく、良い意義を持つこともあるというわけである。もっとも、著者は協力行動がいつでもどこでも善だとは言っておらず、お互い利己的に振る舞った場合の方がパレート最適なケースもあるという。過剰なサンクションはそれを阻害してしまうことがあるので、避けるようにしなければならない。

  こうして、一見ネガティブである概念「相互監視」と「制裁」の肯定的意味が取り出された。協力行動の議論の中で、性善説の出る幕が完全に無くなってしまったと考えていいのだろうか?とにかく面白い。
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