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公共図書館についてちょっと触れている本

2008-05-13 10:59:37 | 読書ノート
J.ジェイコブズ『市場の倫理 統治の倫理』日経ビジネス人文庫, 香西泰訳, 日本経済新聞, 2003.

 市場の倫理と統治の倫理の違いを、仮想の6人の人物による討論形式で追求する。著者のJane Jacobsは都市問題のジャーナリストとしてその筋の方々には有名だそう。2006年に逝去している。

 1998年の最初の邦訳がでたときけっこう評判になった著作なので、全体の内容について知りたい方は他を当たられたい。僕の興味を引いたのは、第13章の、図書館の話が出てくる「公益が私利に従属する危険」という節(p392以下)。といっても、ほんのちょっと触れられるだけ。登場人物の一人が、ボランティアで公共図書館の諮問委員会を担当しており、その様子について他の登場人物に伝えるくだりがある。

諮問委員会で反対意見を出した一番最近の案件は、実は職員からの提案だった。図書館の理事会は──諮問委員会はこの理事会に付設されているのだが──児童部に漫画課を付け加えるかどうかで意見が分かれていた。賛成論は統計に基づいていた。図書館入館者を増やし、年次報告の見栄えが良くなるってわけだ。諮問委員会は、資金の不適切流用だとしてその案に反対意見を出した。機構拡大や昇進狙いの資金流用だとでも言っておけば、もっと相手をやっつけられただろうがね。(p394-5)


 この文章は、個人は商業と公共の業務の二つを同時にこなすことができ、なおかつ二つの倫理を区別することができることを例示する文脈で使われており、語られているエピソード自体は瑣末なことに属する。

 しかしながら、漫画のような「大衆的な表現」を使って図書館入館者数を増やすことがポジティヴに考えられていないこと、さらに諮問委員会が統計の提示を受けても納得しなかったことは、僕の目を引いた。

 上の話がどれだけ米国の公共図書館の実態を反映しているか不明だし、漫画に対する単純な割り切りも古色蒼然と思える。ただ、市場と公共事業の違いを峻別しようとするこの著作全体を読むと、利用数を多くするという目標設定が公共機関にふさわしくないということについては納得させられる。「多く利用されることを望むのは市場に期待すべき領域だ」というのがこの著作を読んで引き出される結論だ。

 では「統治の倫理」で公共図書館の目標を解釈すると、という話は・・・まだ考えてないです。
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