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憲法におけるリベラリズムを徹底すると、国は右にも左にも向く

2013-06-14 20:07:00 | 読書ノート
松井茂記『日本国憲法』有斐閣, 1999.

 「プロセス的憲法観」に沿った日本国憲法解説の書。司法試験対策用の憲法教科書とは異なり、憲法各条の正統な説の解説に留まらず、異論も数多く併記されているのが特徴だろう。本書はむしろ異論の立場に立っており、憲法に関連して主張されている雑多な権利に優先順位をつけてみせる。著者は京大出身の法学者で、現在ブリティッシュコロンビア大学教授であるとのこと。なお2007年に第三版が出ているが、僕が読んだのは初版である。

  プロセス的憲法観とは、憲法とは統治の手続きを定めたものであり、憲法は価値にコミットしないとする考えである。価値が関わってくる社会問題については、国会等の民主的意思決定に委ねられるべきだとする。通説において憲法とは、人権として示される至高の価値を守るために、統治機構の権力を制限しようするものである。しかしながら、プロセス的憲法観は、国民の平等な政治参加をで確実に保障しはするけれども、その他の権利についてはあまり重視しない。プロセス的権利として参政権や表現の自由は重視される。一方で、生存権や教育を受ける権利、財産権などは、政治参加に無関係な非プロセス的権利として劣位に置かれる。それらの範囲は政治の場で判定されるべきものであり、憲法にわざわざ明記するものではないというニュアンスまで伝わってくる。

  すなわち、プロセス的憲法観とは、通説に残余していた価値観を完全に排除する、リベラリズムを徹底した憲法観である、と解釈できる。憲法から価値を廃した代わりに、価値判断は民主的意思決定に任される。その決定次第で、国家は資本主義体制にも社会主義体制にも、高福祉社会にも低福祉社会にもなりうる。こうした憲法が良いのか悪いのか僕には判断できないが、筋としては通っており理論構成も洗練されている。憲法入門書には向かないが、通説の説明に飽き足らない人には刺激になると思われる。
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