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人種・階級・性別などが混交する米国大衆音楽の歴史

2014-05-26 11:02:35 | 読書ノート
大和田俊之『アメリカ音楽史:ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』講談社選書メチエ, 講談社、2011.

  米国大衆音楽史。都市労働者階級向けの娯楽だったミンストレル・ショウから、ブルース、カントリー、ティンパンアレー、ビッグバンドジャズ、モダンジャズ、1950年代のロックンロール、ビートルズ米国上陸以前の1960年代初頭のポップシーン(フィルスペクターとフォーク)、R&B(モータウンからジェームズ・ブラウンやPファンクへ)、ヒップホップ、ラテンなどを扱っている。米国の音楽研究を踏まえたアカデミックな内容であるが、洋楽好きの読者ならば楽しめるものとなっている。

  本書が繰り返し強調するのは、各ジャンルが成立するその初期には人種的・民族的混交があったという点である。これは、ブルースやヒップホップなどが代表例だが、音楽的に同時代の他ジャンルの影響を受けているというだけでなく、作曲者・演奏者・リスナーが白人または黒人に偏ってはいなかったという事実とともに指摘される。新しいジャンルは、先行するジャンルから差異化・純化される過程で、「ロックは白人R&Bは黒人」というように人種化されるということのようだ。この他、商業主義との関係、フォーク音楽の階級偽装、黒人音楽のフューチャリズムなどが論じられている。

  一つの音楽ジャンルが起ち上がる際のエネルギーと混沌に焦点をあてているため、そのジャンルが確固となった後の展開の記述はあっさりしている。このためプレスリーの評価は高い一方、ビートルズはそれほどでもない。個人的には、ジャンルの純化・洗練にも何らかの意味がある──ジャンルの権威化と新規リスナーの開拓など──と思うのだが、そのあたりについての検証は今後の課題というところだろうか。とはいえ、音楽の聴き方を変えるような内容で、非常に面白かった。
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