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個々の戦闘で負けても強固な同盟があれば戦争に勝てる、と

2017-05-05 20:57:31 | 読書ノート
エドワード・ルトワック『中国4.0:暴発する中華帝国』奥山真司訳, 文春新書, 文藝春秋, 2016.
エドワード・ルトワック『戦争にチャンスを与えよ』奥山真司訳, 文春新書, 文藝春秋, 2017.

  二著とも日本の安全保障についてのインタビュー本。文章はインタビュアーの存在を隠しての「語り下ろし本」となっている。著者(?)のエドワード・ルトワックは、ルーマニア出身の在野の軍事研究家で、イスラエルや米国の軍のアドバイザーをやっているという人である。『エドワード・ルトワックの戦略論』(毎日新聞社, 原著は1987年)が代表作で、「逆説的論理」というのがキーコンセプトであるらしい。が未読。

  『中国4.0』は、タイトル通り対中国の国防論である。普通の国ならば国防方針の変更には30年以上かかるはずであるが、中国は2000年以降の15年程度で3度も方針を変えているという。中国政府には、そもそも意思決定方式や組織内の情報伝達能力に難があり、合理的な外交を期待できない。漢民族は歴史的にしばしば異民族の侵入を許しており、世間でイメージされているほど外交上手ではないという。日本に対して、外交的に中国を「封じ込め」ることを進めている。

  『戦争にチャンスを与えよ』はジョン・レノンの名曲'Give Peace A Chance'をもじったタイトルを持つ1999年の論文を下敷きとしたもの。元となる論文はユーゴ内戦をネタにしたもので、内戦に外国が介入することを批判し、戦争が続くに任せたほうが短期で損害も小さいと説く。このほか自身の思想、対中国・対北朝鮮の防衛、同盟で勝った徳川家康やビザンティン帝国への評価などを解説している。

  後者によれば、内戦に外国が介入して無理矢理和平をもたらすのは正しくないという。平和というのは、十分に戦闘が行われ、どちらかが疲れ切って敗北することによってもたらされる。外国による介入はこのプロセスを断ち切ってしまい、敗北するはずの側に余力と憎しみを残して、武力対立を長期化させることになる。NGOや国連は、難民を永続化させ、地域的不安定を固定化させるのでタチが悪い、というわけである。

  豊富な知識に裏打ちされていると推測する(最後の文化論を除く)が、新書の分量では著者が断定的に主張するところの根拠がよくわからず、素直に納得していいものかどうか迷ってしまう。外国の介入あるなしでの人命のコスト計算という、これまた不道徳なことを誰かやってくれれば、その主張の正しさがわかるのだろう。
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