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CCCによる海老名市立図書館のための選書リストを見て

2015-09-23 11:57:01 | 図書館・情報学
  このブログで7月始めに新小牧市立図書館計画に対するお気楽な記事を書いた。その直後の8月に武雄市図書館での選書問題(参考 1 / 2)が持ち上がり、小牧の新図書館にも関わるCCCの姿勢が疑われた。そういうわけで、故郷の図書館の動向を注視していたが、反対派が計画白紙化を訴え、これを争点に住民投票が実施されることになったようだ1)。それでも「TRCも噛んでいるのだし、武雄のようなことにはならないのではないか」と僕は楽天的に考えていたのだが、甘かった。

  小牧市と同じくTRCとCCCの共同事業体による海老名市立図書館について報告した数日前のハフポの記事2)によると、“海老名市議会で明らかとなったCCCの選書リストは約8300冊におよぶが、現在は流通していない古い雑誌や通常では選書基準の対象外となる書籍が一部含まれていた”という。CCCだけで中央館向けの選書をしたわけね。で、武雄と同じようにネットオフ経由で売れ残りの中古本を掴ませようとしているのに市議会が気づいて、選書のやり直しを求めている、と。

  市会議員によって海老名の選書リストも公開されている3)。その議員曰く“ほとんどが料理法(グルメ紹介)、旅行本、おしゃれの本ばかりです。子供たちやお年寄りが楽しみにしていた児童書(絵本・おとぎ話)や文学書(小説・歴史書)などは見当たりません”。加えると、生活・趣味系の本も多い。数冊ばかり「記号論」系の本も入っているが、今さらだな。全体として「古書店でプレミア価格が付かない本が大量にある」という印象。古さよりも偏りの方に驚くが、既存の蔵書に少ない領域の穴埋めというスタンスなのだろうか。とはいえ、リニュアル時にわざわざ買い足したのがこれらか、という失望感を感じる人がいるのはわかる。あと、本表中の「本体価格」とはこれら中古本購入の際の評価額なのか?だとしたら高すぎるだろう。

  こうした惨状から指定管理者悪玉論みたいな論調も見られる。気持ちはわかるが、常に指定管理者が酷いわけでもないだろう。TRCだって「不要な本を押し付けてくる」という批判がないわけではないが、一応「適正な公費の使用の範囲内である」と言い訳できるレベルの本を納入してくるようである(ただし要検証)。一方、CCCはもっと基本的な面で問題がある。まず、選書能力に欠ける(ビッグデータはあれど分析能力がない)ように見えること。次に、一見さん相手の搾取ビジネスのように振る舞い、長期的な信頼関係を構築するつもりがないように見えること。これは公共図書館の目的とか、公的機関の取引相手としての適性云々以前の段階の話であって、通常のビジネスにおいても警戒すべき取引相手ということである。そういうわけでCCCには短期にも長期にも選書に関与させないほうがよいと今は考えている。

  また、自治体の直営館に過大な幻想を持つのも禁物である。貴重な資料を捨ててしまう可能性があるというのは、日本の図書館一般にある危険である。また、公共図書館にあまり知的な本が無いように見えるというのも同様。これらは1960年代の図書館思想に遡る問題で、CCCが引き起こした一連の騒動を扱うには問題のサイズが大きすぎる。もちろん、図書館思想に関心を持ってもらう機会として歓迎したいところだが。

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1) 小牧市 / 新図書館建設計画を白紙にすることに関する住民投票条例制定請求について
  http://www.city.komaki.aichi.jp/14544/014545.html

2) Chika Igaya / 海老名市立図書館、選書やり直しへ 武雄市図書館問題が「飛び火」
  http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/18/ebinashi-library_n_8157396.html

3) 海老名市議会議員 山口良樹 / 議会リポート
  http://www.yoshiki-yamaguchi.com/report7sokuho.html
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