29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

サイクス本二冊は片方読めば十分か?

2010-01-15 11:26:42 | 読書ノート
ブライアン・サイクス『イヴの七人の娘たち』大野晶子訳, ソニーマガジンズ, 2001.
ブライアン・サイクス『アダムの呪い』大野晶子訳, ソニーマガジンズ, 2004.

  科学ノンフィクション。著者はイギリスの遺伝学者で、DNAから人類史を描きだそうと試みている。数年前の話題作だが、昨年末に文庫版を安く入手できたので読んでみた。文庫版は、どちらも2006年にヴィレッジブックスから発行されている。

  父母の遺伝子は、それぞれをミックスした状態で子どもに受け継がれる。子どもの内で、遺伝子のどの部分が父からなのかまたは母からなのかは特定しがたいらしい。ところが、父由来であること、母由来であることがはっきりしているDNAがそれぞれあるという。

 『イヴの七人の娘たち』は、母親から必ず引き渡されるミトコンドリアDNAを扱う。そしてミトコンドリアDNAの地理的分布と、突然変異をもとにした年代測定によって新しい人類史を描き出す。ヨーロッパでは、氷河期から居た狩猟採集民の末裔が大きな人口を占めているのか、それとも中東から移動してきた農民の末裔が栄えているのか、議論になってきたらしい。著者の研究は、それまで主流の説だった後者を否定し、前者を支持するものとなった。この結論にたどり着くまでの著者の個人的な研究過程だけでなく、学会がそれを受容するまでの部分もスリリングである。

  一方『アダムの呪い』は、父親から必ず引き渡されるY遺伝子を対象としている。それによれば、男性の場合、女性のように安定的な系譜を描くことは難しく、繁殖の成功度にかなりのバラつきがあるようだ。その理由として、多くの富と権力を有する男性とその息子は多くの子孫を残すことができただろうことと、もう一つ、男の子をより多く産む遺伝的要因(逆に女の子をより多く産む家系もある)の存在が示唆されている。最終章の男性滅亡論は全然説得力が無いが、ご愛敬だろう。この本も著者の個人的興味の変遷を辿りながらの記述だが、前半のかなりの部分が性の由来についての思弁に割かれており、そこがやや冗長。

  『イヴの七人の娘たち』の方がまとまっており面白いが、冗長な部分と最後を除けば『アダムの呪い』に捨てがたい知見もある。というわけで二冊読んでも時間の無駄にはならないだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シュトックハウゼンの弟子が... | トップ | さようなら駿河ビーフカレー »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事