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あくまでも実証研究を目指した政治学だが、古さもある

2015-03-06 13:23:47 | 読書ノート
ロバート A.ダール『ポリアーキー』高畠通敏, 前田脩訳, 岩波文庫, 岩波書店, 2014.

  比較政治学。原書は1971年で、最初の邦訳は1981年で三一書房から発行されている。その邦訳を収めたのが岩波文庫版。タイトルのpolyarchyというのは「多数の支配」を意味し、簡単に言えば民主制のことである。敢えて著者がこのような造語を作ったのは、民主主義国での事件なのに「こんなの民主主義ではない」という批判の仕方があるように、民主主義概念が規範として使用されることがあるためで、手垢にまみれていない分析用語が必要だったとのことだ。

  本書の内容はポリアーキーと相関する条件を探るというもの。その要因は七つ。第一に、歴史的に社会グループ間で政治の場における競争があり、特定の人物やグループが社会全体を統制し他を排除するということがないこと。第二に、軍や警察など秩序の統制手段へのアクセスの分散、および経済力の分散。第三に、相対的に高い一人当たりの国民所得。第四に高い平等度。第五に、民族・宗教などの社会的グループ間の分裂具合で、分裂がないことが望ましく、または仮に分裂があるならばどのグループも多数派にならないような細かい分裂が望ましい(例えばインド)。第六に、外国による支配の経験がまったくないかまたは一時的であること。第七に、選挙やそこにおける妥協などに対するその国の有権者の肯定的な感情、イデオロギーである。これらを、できるだけ実証的に、各国を比較したデータを用いながら論証している。ただし、あくまでも相関の検証であり、考察は加えられるものの因果関係まで証明しているわけではない。

  訳者あとがきや文庫版解説は、本書が実証研究であることを認めつつもその思想的側面での価値を見出そうとしている。でも、どうかな。データは古いし、挙げられた要因の妥当性もその後の検証待ちという状態で、実証研究としては古さがある。一方で、政治哲学の本としてはかなり禁欲的で物足りない。著者の試みを受け継いだ成果として、もっと後のレイプハルトによる研究(参考)のほう使えると思う。だが、まあ古典としての価値はあるだろう。
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