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著者は訓練で自制心を高めるられると強調するけれども

2015-06-12 21:21:08 | 読書ノート
ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト:成功する子・しない子』柴田裕之訳, 早川書房, 2015.

  自制心の心理学についての一般向け書籍。マシュマロテストとは、幼児の目の前にマシュマロを一つ置き、数分間一人にして食べないで我慢できたらご褒美に倍のマシュマロをもらえるというものだ。その後の追跡調査で、このとき我慢できなかった子は、10代半ばになった頃には成績が低く、生活も荒れていることが多いというのが明らかになった。欲求の実現を先に延ばす我慢強さは、人生を成功させる重要なスキルだというのだ。

  以上は様々な書籍でくどいほど語られている話。本書は実験を設計した本人が、その詳細とその後の研究の展開を詳しく解説するというものである。実験は幼少時の自制心から将来が分かるというものだから、遺伝的能力を測っているように見える。だが、著者はそうではないと繰り返し強調し、自制心は訓練によって鍛えられるという。そして、そのコツについては本書参照というわけだ。

  個人的には、この書き方は誤解を招く、と思った。訓練すれば以前の自分より忍耐強くなれるというのは確かだろう。しかし、自制が利くかどうかはビッグファイヴの勤勉性(sincerity)の要素であり(参考)、遺伝も影響していると考えるのが妥当だ。したがって我慢強さを鍛えるにしても、コストのかかる人とそうでない人がいると推測される。本書では、そういう個人差については言及がまったく無く、終盤はチャータースクールで忍耐強くなった貧困家庭の子どもが勉学で成功しているというエピソードに話が収斂してしまっている。部分的には、以前取り上げたポール・タフ著(参考)とよく似た話だ。うーん、自制心に影響する要因の分析が無いのは片手落ちだという気がする。

  というわけで少々不満。一方で、現在米国の教育トレンドがよく分かるとも言える。20年くらい前は「自尊心」がやたら連呼されていたが、現在は「自制心」というわけだ。しかし、教育制度に自制心育成プログラムが取り入れられ、全米の生徒の自制心が向上してしまえば、チャータースクールのアドバンテージは無くなるだろう。その先はむき出しの能力差競争になるはずで、その頃のトレンドは何だろうと僕は考えてしまうな。

  
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