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リオ五輪開会式に登場した二人の黒人音楽家についてあれこれ

2016-08-16 11:04:32 | 音盤ノート
Jorge Ben "Jorge Ben" Philips, 1969.

  MPB。改名後のJorge Ben Jor名義でリオ五輪の開会式に出てきたそうで(テレビを持っていないので実際の映像を見ていない)。関連記事を読む限りでは、開会式でもっとも重鎮扱いされていたのがGilberto Gil。ジョルジ・ベンはリオ出身であるが、一方のジルはサルバトール出身であり活動の本拠地においたのはサンパウロである。二人とも黒人でキャリアの長さも国際的名声も似たようなものだが、大卒+大臣の経験は「リオとの関わりの薄さ」を超えるということなんだろう。

  本作は、サンバとR&Bをブレンドした独特のスタイルに移行する、音楽的には過渡期の作品である。これ以前のジャズサンバ路線を止めて、ピアノとストリングスとホーンがバック演奏の中心となるサンバ・ロックとなっている。一方で、アコギは薄めに配されており、以降の作品ほど内省的ではない。同時期のトロピカリア運動に触発されて(参考)、音響面でエコーを用いたりストリングスが不協和を奏でたりとサイケデリックロック風味も少々ある。念入りに作られているはずだが、投げやりで適当に歌唱しているかのような印象もあって、安っぽくかつ親しみやすい。開会式でも演奏された代表曲'Pais Tropical'が収録されている。

  次の"Força Bruta"(1970)からもっとアコギがサウンドの前面に出てきて、以降”Solta o Pavão”(1975)まであまりスタイルの変化がない。この時期が彼の全盛期だろう。しかしジルベルト・ジルとの共作"Gil e Jorge"(1975)あたりから庶民臭さが抜けて、力強く逞しい音と歌唱になってしまう。インテリのジルから「黒人の誇り」みたいなものを吹き込まれたのだろう、たぶん。影響関係からいうと、やはりジルのほうが上ということになるんだろうか。ジョルジ・ベンのほうが、後々まで歌い継がれる曲を作っていると思うのだが。