「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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きのこ散歩道⑨ マツタケ⑤

2011-01-06 | 島崎俊弘さんの きのこ散歩道

名人たち

 何事にも自称他称の名人がいる。全国で通用する公認の名人と言えば囲碁と将棋の名人である。すなわち、その道で技芸を極めた人を名人と呼ぶのだが、一般的には便宜上にも使われるので、釣り名人などはピンからキリまでと言うことになる。マツタケ探しもご多聞にもれず経験が少ないと容易ではないが、長年経験を積んできた人は名人芸と言うのか一家を成すものがある。タイプの違う3名を紹介しよう。

A氏・・・登山口の駐車場で見かけたその人は年の頃なら65歳あまりだろうか、蛇の道は蛇と言うのか、どうもマツタケ採りだなと直感した。遠慮がちに近寄り「マツタケですか?かまざったら見せてもらえませんか?」と控えめに言うと、黙ってあちこちのポケットから5本ほど取り出した。これがまた何とも立派なシロモノで、思わず感嘆の声を発すると、きわめてハスキーボイスで「車にまだある」とのたまう。ダンボール箱の中を覗くと大小30本もあろうかと思われるマツタケ、さすがに仰天した。丁度贈り物が必要だったので「売って貰えませんか?}と顔色を伺うと「1キロ3万円なら」と言う。手持ちは2万円、仲間は7千円しか持ってない。2万7千円で売ってもらうことになり、これぞと思う5本をより取りさせてもらうと、さらに2本追加したあと少考して小ぶりをもう一本、秤なしの目分量である。900gならピタリ賞だが、さて収支決算はと計ってみると920g、目分量も名人、恐れ入りました。

B氏・・・マツタケ山の登り口で、70過ぎくらいのおじさんが若者と一緒にベンチに腰をかけている。聞けば、歳をとったのでこの若者に場所と探し方を伝授するのだと言う。多くのマツタケ狩りたちはいそいそと登って行くのだが、悠揚迫らず泰然自若としておむすびを頬張っている。しばし探し方などの講釈をしてもらい、おまけに小ぶりのマツタケを一本貰った。お礼のしようもないのだが、手持ちのパンを差しあげると、何と、もう一本くれた。県外のことであり、二度と会うこともないであろう赤の他人に、採ったばかりのマツタケを気前よろしく惜しげもなくくれる人などめったにいるものではない。またまた、恐れ入りました。

C氏・・・マツタケを売っている店があると聞いて山登りの帰途に寄ってみた。雑貨店だが周囲にはあまり人家もなく、車での移動販売が主体らしき風情である。人の良さそうな中年のご夫婦で、発生条件や時季など親切に説明してくれる。二十年くらい前と比較すると発生量は十分の一ほどに激減したそうだが、人数が増えた上に気象の変化も影響していると言う。条件の良い場所なら、わずか50センチ四方に1キロものマツタケが束生するらしい。我々素人なら、シーズンオフに探索して傘を開いた物なら見つけられるでしょうか?と問うと、われ先にと土中の物まで根こそぎにする昨今、せめて名残のマツタケには子孫繁栄の胞子を落とさせてやりたいと説いた。いや、ごもっとも!

森ときのこを愛する会

島崎俊弘

 

島崎俊弘(森ときのこを愛する会会長) さんの記事 





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