英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

竜王戦 勝負を分けたもの(渡辺竜王の強さ)

2008-12-20 23:51:00 | 将棋
 渡辺竜王は強かった。
 佐藤棋王を2年連続退けた時も強いと思ったが、まさか羽生名人が、しかも、3連勝の後、4連敗するとは思わなかった。
 第五局、第六局は羽生名人の出来が悪かったせいもあったが、第四局、最終局は恐ろしいほどの強さを感じさせた。

 渡辺竜王の強さは
①詰みや寄せの有無などの読みが深い
②最新戦法や定跡などの研究や情報に明るい
③「勝ちにくい(易い)形」とか「堅さを優先」とかパターンを考慮し、手の取捨し差し手を選択し組み立てる
④封じ手をするかさせるかどちらの方が得かを考えて、考慮時間を調節するなど、戦略的に勝負を考える
⑤精神的に強い

というようなものが考えられる。特に③と④は特徴的なので、そこに目が行きがちになっていた。
 しかし、やはり①が一番の強さの要素だと感じた。それについて考えていきたいが、その前に大きな疑問がある。

 この七番勝負で渡辺竜王の強さが絶大に証明されたが、順位戦のB1組で停滞している。また、他のタイトル戦に登場するどころか挑戦者決定戦に進出することもままならない。なぜか?
 その大きな要素に、持ち時間の長さが上げられる。もちろん、短時間の将棋でもその強さは発揮されているが、渡辺竜王の真価は二日制タイトル戦によって発揮される。
 しかし、それだけではない。佐藤棋王との竜王戦、そして今期の竜王戦とギリギリに追い込まれないと彼の強さが目覚めないのではないか。
 だとすると、今後もA級に昇級することも、タイトル戦に登場するのも困難のように思える。しかし、今期の竜王戦の経験で、一皮むけて、通常状態に於いてもその強さを発揮できるようになる。または、強さ自体が1ランク上のものになり、フルパワーにならなくとも勝ち抜いていけるということも大いに考えられる。
 羽生ファンとしては後者は特に困るが、渡辺竜王の強さを見てみたい。渡辺×深浦戦も見たい。

 さて、今期の竜王戦で感じた渡辺竜王の強さに話を戻そう。
 今回は③、④はそれほど感じられなかった。逆に、敢えて真正面から羽生名人に挑んでいるように感じた。
 ②については、第六局、第七局に窺えた。第六局の新手△3一玉、第七局の新手△3三銀がそれ。
 最近の渡辺竜王は後手番、特に矢倉戦に苦労をしていた。しかし、竜王戦を迎えて、その課題を克服するよう研究を重ねていたと考えられる。その答が急戦矢倉だった。
 羽生名人は、第六局ではその研究に踏み込みを躊躇し完敗を喫した。第七局はさすがに対応し互角以上の将棋を展開した。

 そして将棋の強さの根幹となる①読みの深さ。特に終盤は鬼神(この場合は棋神と言うべきか)のごときだった。
 第七局に絞って考えると、渡辺新手より未知の局面に突入し、捻り合いが展開された。第四局同様、中盤力(大局観)において優位な羽生名人がリードして終盤に突入した。
 終盤に入ると羽生名人の足取りがほんの少しよろける。これは、渡辺竜王の終盤力を感じている羽生名人がそれを意識して読みが鈍るのか、終盤になる前に優位に立っておくために消耗していたのかもしれない。その両方かも。
 特に最終局は、渡辺竜王の新手も出て、その研究の網を食い破るのにかなりの精力を注いだのではないだろうか。

 終盤は際どく難解で、凄まじい勝負を繰り広げた。秒読みとなり形勢が二転三転した。お互い勝が見えそうな局面もあったが、決めきれない。決めきれないと言うより劣勢になったほうが踏みとどまったと言った方がいいだろう。
 結局、羽生名人の方が力尽きたという気がする。終盤、▲2四飛が敗着となり、代わりに▲4八飛なら羽生名人の勝ちだったというのが結論とされているが、BSのご本人の解説によると、勝ちがあると思うが、まだまだ大変とのこと。
 ▲4八飛と指したとしても、渡辺竜王がややこしい手をひねり出して、最後には渡辺竜王が勝ってしまうような気がする、今回は。
 永世竜王を懸けた大きな勝負であった今棋の七番勝負であるが、タイトルを失うと「ただの九段」になってしまう渡辺竜王のほうが、執念が強かったのではないか。

 執念の差が、最後の最後で勝敗を分けたような気がする。
コメント (2)
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