崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

良い質問

2012年12月03日 04時24分27秒 | エッセイ

 先週「楽しい韓国文化論」の最終講義で田中(姜)氏から拙著『恨の人類学』と映画「西便制」と合わて質問があった。たとえば映画でパンソリが高い境地へ至るために父が娘の目が見えないようにさせるのはどうであろうか。それはフィクションであるとは前提にしても、私はより根本的な問題として質問を受け取った。つまり恨みという否定的な感情を生き方にプラスの感情となるような恨(ハン)としてエネルギーになるのかという疑問に立たされたように感じたからであった。私の研究をはじめ多くの研究者が賛同しているテーマであるが、恨みという否定的な感情を肯定的なハンに変えるということは実に有効であろうかという質問として受け取ったのである。それは科学的に証明することは難しいが、経験哲学的には説明できると思う。高度な芸術や学問への創造的な総力を発揮させるためには無我、没我という仏教的なニルヴァーナ(涅槃)の状況を通して人は生まれ変わることができる。キリスト教的に言うならば悔い改めであろう。それを近代科学で説明することはできない、否それをはるかに超越した問題であろう。私の答えが窮屈な弁明のように思われたかもしれない、理解してくれたかはまだ分からない。良い質問であった。