電脳筆写『 心超臨界 』

人生は歎き悲しむよりも
笑いとばすほうが人には合っている
( セネカ )

指標の順位の高い国の関税率を相対的に優遇するのである――橋本努さん

2008-03-01 | 04-歴史・文化・社会
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[21世紀と文明――資本主義の倫理的課題]北海道大学准教授・橋本努
  [1] 「衝突」回避へ
  [2] 誤算の背景
  [3] 新保守主義の基盤
  [4] ネオリベラリズム
  [5] 民主化を促す取引
  [6] 関税で統治改善
  [7] 設計が重要に
  [8] トービン税


「資本主義の倫理的課題」[7] 設計が重要に
【「やさしい経済学」08.02.29日経新聞(朝刊)】

関税率のインセンティブ(誘因)をうまく設計することで、各国の統治を改良することが可能になる。しかし、それにはインセンティブが機能を発揮するための最新の制度設計が必須となる。

そのための具体的な指標として、筆者が構想しているのが人間開発指標、民主化指標、人間的貧困率、ジェンダーエンパワーメント指標、難民受け入れ数、インターネット利用者数で構成される総合指標である。簡単に説明すると、識字率や学力達成度、民主化の実態や国内所得格差の是正、女性の社会的活躍度や、あるいは情報アクセス環境の整備といったもろもろの観点から、各国の統治能力を調べてみるのである。

今、この総合指標を用いて各国を順位づけてみると、第1位は米国、以下ドイツ、英国、スウェーデンと続く。日本は18位で先進国の間では低いほうに属する。この指標を用いて、順位の高い国の関税率を相対的に優遇するのである。こうしたルールを施行すると、各国は自国の順位を上げるため、各種の国内政策により真剣に取り組むようになることが予想される。

むろん、関税率設定の基本は相互主義である。相手国が高い税率を課せば、自国も同様に高率の税を課す。しかし実際には、完全な相互主義を実現することはできず、さまざまな軋轢(あつれき)が生じている。従って関税率も詳細に設計しないとうまくいかない。そこでこの指標が役に立つ。例えばフィリピンが56位、タイが40位の場合、輸入品の関税率について、日本はできるだけタイを優先すればよいということになるし、対外的にもそう説明すればよいのである。

私たちは一消費者としても、この指標を用いて消費連動を展開することができる。少し高いと感じても、順位の高い国の商品を買う。すると市場のシグナルを通じて低い国に対し統治改善を促すことができる。一方当該国政府は低賃金で商品を安く輸出するよりも、公的資金を教育に投資して、人的資本を高めたほうが有利なことに気づくだろう。

こうした関税構想のほか、最近、貧困を解決したりグローバル経済を安定させたりするための世界的な賃金のプール作りも検討されている。資本主義の倫理面を強化するには、共同資金が必要だからである。しかしその仕組み作りは容易でない。この仕組み作りを進めるにはどういうインセンティブが必要なのか、最終回ではこの問題を展望してみたい。

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