電脳筆写『 心超臨界 』

知識の泉の水を飲む者もいれば、ただうがいする者もいる
( ロバート・アンソニー )

トービン税を考える――橋本努さん

2008-03-04 | 04-歴史・文化・社会
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[21世紀と文明――資本主義の倫理的課題]北海道大学准教授・橋本努
  [1] 「衝突」回避へ
  [2] 誤算の背景
  [3] 新保守主義の基盤
  [4] ネオリベラリズム
  [5] 民主化を促す取引
  [6] 関税で統治改善
  [7] 設計が重要に
  [8] トービン税


「資本主義の倫理的課題」[8] トービン税
【「やさしい経済学」08.03.03日経新聞(朝刊)】

私たちの資本主義文明をより倫理的なものへ鍛えて(強化して)いくための具体策として最後に、最近欧米で有力視されているトービン税について検討してみたい。同税はその発案者でノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ジェイムズ・トービンにちなんでそう呼ばれている。元来、変動相場制の安定のために提案された為替取引税だった。しかし、最近ではフランスの非政府組織(NGO)、アタック(ATTAC)の提唱などによって、グローバルな貧困対策や経済安定化のための新たな世界機構の財源という観点から、再び注目を集めるようになった。フランスやベルギーの下院のように、欧州連合諸国が合意すれば税を導入することが既に立法化されている国もある。

むろん現段階で、経済安定化のためのトービン税を世界同時に採用することは不可能だし、将来も実現の見込みは低いと言わざるを得ない。しかし、ある国が0.01%程度のトービン税を自国の財政を補うために導入したとしたらどうか。仮にどこかの国が徴税に成功すれば、他の国も現在の温暖化ガスの排出権取引と似た国際的枠組みを用いて、トービン税の共同導入を検討するようになる可能性は皆無とは言えないだろう。

税収の多くを貧困対策や経済安定化のための資金として国際通貨基金(IMF)や世界銀行のような国際機関に配分することにすれば、導入のインセンティブ(誘因)がより強まる可能性もある。主要国が1%の税を徴収すれば、年間約5千億ドル(55兆円)の税収を見込めるという。これはフランスの国家予算にも匹敵する規模の金額である。

もちろんただでさえ、収益を重視する市場参加者らは、課税を逃れるため、貨幣間取引を避け、金融派生商品による決済を進化させるかもしれない。それにそもそもドルやユーロの通貨圏が広がれば、おのずと課税も回避される。その場合、トービン税は有名無実化しかねない。

そうなれば私たちは他の方法も検討する必要が出てくる。具体的には徴税機能の一部を世界的な機関に委託し、石油取引額や通貨発行益(セニョリッジ)を勘案して徴税するような仕組みも検討課題になるかもしれない。大事なのは改革の難しさを論じることではなく、なぜ改革が必要かを考え、何が実現可能かを考え実行することである。

=おわり

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