FLクレイジークライミング(CRAZY CLIMBING)は、1981年にバンダイより発売されたFL(蛍光表示管)ゲームです。バンダイは、この少し前にFLパックリモンスター、FLチェンジマン、FLフリスキートム、FLアタックモグラを発売しており、FLフリスキートムに続いての日本物産からの移植ものになります。この辺りまでは、まだゲームに関しての著作権があいまいで、玩具メーカー各社とも、ギャラクシアンや、パックマン風のゲームを発売していました。しかしパックマン辺りで問題になったようで、このFLクレイジークライミングでは、バンダイ、ニチブツの共同開発になってるようです。この辺りを境にして、正式な権利を取った移植作が電子ゲームの世界にも増えてゆくことになります。正式な共同開発ということからなのか、夜の摩天楼をバックにしたパッケージ絵も、パチもの臭さがなくどこかスマートです。また、この当時のオーディオの広告(クラリオンとか)などに、このような摩天楼の写真がよく使われており、そこはかとなく80年代を感じさせるところがまたいいです。
パッケージ絵が、摩天楼の夜景をイメージさせるものになっているのは、FL(蛍光表示管)ゲームの仕様上、ゲーム画面が夜のビルを連想させるものになっているからでしょう。蛍光表示管の画面が、ある種のネオン管のように暗闇に浮かび上がる様は、子供心にときめいたものです。ゲームの筐体自体も、どこか高層ビルをイメージさせるものになっており、非常にクールです。ゲーム内容は、業務用の
クレイジークライマーをほぼ再現しており、クライマーを操って49階建てのビルを登るというものです。窓からイジワルおじさんが植木鉢を落としてきたり、ときおりシラケ鳥が登場して糞を落としてきます。これらは両手で踏ん張っている時には、耐えることができます。さすがにオリジナルの“キングコング”や、ボーナスの風船、屋上のヘリコプターは再現されていませんが、電子ゲームとしては非常にまとまっており、当時としても熱中できる出来だったと思います。もちろん窓の開閉も再現されており、ミスした場合には落下のアニメーション処理がされています。
またこのゲームを語る場合に外せないのは、ツインスティックを再現しているところでしょう。ゲーム内容と本体が一体となっている、この時期の電子ゲームならではです。
写真を撮る都合上、片手になっていますが、ゲームは(アーケード版と同じように)両手を使って行ないます。説明書には、図解入りでツインスティックの使い方(ビルの登り方)が解説されており、これがこのゲーム機の肝だったという事がわかります。オークション等に出品されているものは、このレバーのところが擦れて塗装が剥げているものが多く、当時の熱さが伝わってきます。私は当時、これは所有していませんでしたが、友達に借りて遊んだ記憶があります。高価だったFL機の例にもれず8,200円もの値段が付いてましたので、お正月だったと思います(多分お年玉で手に入れてたはず)。借りて帰ったら、家の子犬が上にうんちをしてしまい、あわてて分解掃除したという思い出が残っています。
クレイジークライマーは、非常に人気のある息の長い作品のため、PC(X68、Windows)、FC、SFC、PS、WS、Wiiなど、様々な機種に移植されています。電子ゲームにも、ヒステリックママ(タカトク)という亜種や、海外のENTEX製クレイジークライマー、株式会社JIM製のfighting climberなどがあり、90年代にはバンダイよりパックマン、ギャラクシアンとともに豆ゲームとして再登場してました。
SFのニチブツアーケードクラッシック版とバンダイのWS版。
現在、手に入れやすいのは、昨年エポック社より発売された“EL-SPIRITS”版でしょうか。このエポック版は、液晶とFL(蛍光表示管)の違いはありますが、基本的に“クレイジークライミング”の内容を踏襲しており、
ほぼ同じような感覚で遊べます。動きもスムーズで、屋上のヘリコプターまで再現していますので、これを遊んだ後に“クレイジークライミング”を遊ぶと、物足りない感じまでしてしまうほどです。また携帯版としては
WS版もイカシてます。
クレイジークライマーは、1980年の発表ですから、当然ゲームセンターあらしにも登場しています(意外、トンメン大王の謎の巻、天国を救えの巻)。FLクレイジークライミングは作中には登場しませんが、FLアタックモグラ、FLパックリモンスターにはあらしが挑戦しています。特にFLアタックモグラは、かあちゃんとの勝負で、炎のコマ、エレクトリックサンダー、グレートタイフーンと必殺技を使いまくっています(壊れるよなぁ)。クレイジークライミングは81年ですから、このあたりから作中にアーケードゲームだけではなく、ゲーム電卓、ゲームウォッチなど、電子ゲームも登場するようになりましたので、この頃があらし的にも一番面白かった時期だったのかも知れませんね。
参考:帰ってきた電子ゲーム、復刻版ゲームセンターあらし・すがやみつる著/太田出版