1031ビジネス・コンサルティング

経営コンサルタントの目で、日々の出来事から、参考になるキーワードを取り上げて、解説したり、情報発信をします。

【6】ベンチマーキング

2021-01-27 16:10:55 | 独り言
 6次産業化にかかわらず1次産業に携わる皆さんの支援を行う際、必ず申し上げることがあります。
 それは競合相手を知るということです。マーケティングの中の言葉に3Ⅽ分析という用語があります。
 3C分析とは、外部環境である顧客(customer)とライバルである競合(competitor)の分析から事業を成功させるための要因を見つけ出し、自園・自社(company)の事業戦略に活かす分析を行うフレームワークのことです。
 自分勝手にモノづくりを行い、販路開拓を目指しても、なかなかうまくいきません。すでに多くのライバル(競合)が市場に出ています。新規参入を果たす場合には、必ずこの分析が必要ですし、販路を持っているとしても常にライバルを知ることは重要です。
 簡単にその重要性をお話しします。
①市場分析のポイント
むつかしく考えるのではなく、まずご自身が売りたい取引先をイメージします。商品を売りたいお店でも結構です。これは後述する商談会シート(FCPシート)の作成にも役に立ちます。
まず、どこで売りたいかを考えるわけですが、そのため自園の商品を、購買する意志のある潜在顧客をイメージしてみます。具体的には、販売したい店が百貨店なのか、高級スーパーなのか、高級食材専門店なのか、道の駅なのかなどです。専門書には市場規模(潜在顧客の数、地域構成など)や市場の成長性、ニーズ、購買決定プロセス、購買決定者といった観点から市場分析を行うなどとむつかしく表現されていますが、まずは売りたい店を自分の目で確かめることが重要です。そこでどのような販売方法がとられているのか、商品はどのような陳列がされ、いくらの価格幅で売られているかなどを確かめます。
製造業などでのモノづくりにおいては、ペルソナ像(ある特定の購買者像)を描きターゲットとして、顧客のライフスタイルを分析し、その生活シーンで開発する商品がどのように使われるのかイメージしながらモノづくりを行いますが、まずはそこまで分析しなくても、「どこで売りたいか」を考えるだけで、商品化に大きなアイデアを生み出すことが可能です。
FCPシートでもやっと第3版でターゲットの欄に「小売り」から変更して百貨店、スーパーの項目を加えていただきました。どこで売りたいかそれをまずは考え、ライバルを知ることです。売場で商品を見れば、自園での栽培から販売までいろいろなヒントを得ることができます。売場ではどのような「こだわり」でその商品を集め販売しているのか、新鮮さの追求なのか、味なのか、はたまた生産者の人柄やモノづくりへのこだわりなのか、栽培された地域の環境なのか、それも水なのか日光なのか、土壌なのか栽培方法なのかなど、季節によっても異なるかもしれません。商品を見れば多くのことを語ってくれます。それも見ないで、試食もしないで、そうしたライバルと競争してもなかなか勝つことはできません。見えない部分でのライバルの強みを知ることはむつかしいからです。
■S・T・P
栽培した商品をどこで販売するか考えるとき、マーケティング用語ではポジショニングの工夫をするといいますが、事業戦略を構築する際、S・T・Pというキーワードが使われます。
Sはセグメンテーション(segmentation)、Tはターゲティング(targeting)、Pはポジショニング(positioning)の頭文字をとったものです。
むつかしく考えないで、どこのどのような市場のどの売場で販売したいのか、まず考えそのために何をしなければならないか工夫をすることを指しているのです。そのためにもまずは「己を知る」ことが重要です。
少し整理してお話しすると、まず市場分析を行う中で、よくお願いするのはSWOT分析です。自園や自社の強み(strengths)をまずは把握してもらい、弱み(weaknesses)もいろいろと考えていただきます。さらには現状での環境を分析、環境といっても社会・経済環境のことで、いろいろな支援制度や税制面でのメリット等の機会(opportunities)及び経営を脅かすような脅威(threats)が何か把握を行います。中小規模の農園や農家では経営資源が豊かにあるわけではありませんから、市場や消費者を何らかの基準で区分しグループ化を図りそのどこを攻めるかをまず考えるのがセグメンテーションです。農業においては、SWOT分析を行った際の強みを生かし、その強みを生かすことのできる有望顧客がだれか、その顧客はどこで商品を買うのかを考えて、むしろ次のターゲティング及び、ポジショニングを工夫するのが良いと思います。
経営塾などでは使うSWOT分析ですが、個人の農家などを支援する中でSWOT分析などと難しい言葉を使わない場合が多々あります。というより強みと言ってもほとんどの方が、弱みは分かるが強みが何かわからないと話される農家の方が非常に多いのです。そうした場合には、何で儲けているのか、「めしの種」を聞くことにしています。売れているということはそれだけ顧客から支持を受けているわけですから、そこから解きほぐしていくのです。「種=強み」がどんどん出てくるのです。
FCPシートで問われるターゲット顧客はこの売りたい場所、百貨店なのか高級食材販売店なのかスーパーなのかなど、販売したいところを考えることがまず重要です。なぜなら、その考えに基づき、どのような商品をどのような価格で、どの流通や小売業と組んで、消費者に販売促進をかけ売上を確保するか、マーケティング・ミックスを工夫する必要があるからです

②競合分析のポイント
自園が存在する周囲の環境を見てみると、ライバルでもありまた仲間でもある隣近所の農家がどことすでに取引をしているのか、自然に分かってくるのではと思います。そうした競争状況や競争相手についても把握する必要があります。特に、競争相手からいかに市場を奪うか(守るか)という視点を持ちながら、競合の数、参入障壁、競合の戦略、経営資源や構造上の強みと弱み(営業人員数、生産能力など)、競合のパフォーマンス(売上高、市場シェア、利益、顧客数など)に着目する必要があります。
競合との比較は、自園の相対的な強みや弱みの把握に役立ちます。 新規参入を図った農家の方が、ベテランに何を栽培したらよいかよく聞くことがあります。気を付けなければならないのは、よく売れる商品を教えてくれるのですが、だからこそ価格競争に陥る可能性があります。なぜなら販売されている量も多く、競争も厳しいからです。むしろ市場を見ながら付加価値のある独自の農産物を栽培することが重要です。
大手の流通業のバイヤーは、全国の安全・安心でおいしい農産物を生産される農業法人や農家の情報をよく知っています。その理由はギフトショーのお手伝いをしているとき、大手製造業の担当バイヤーから教えてもらいました。トヨタや東芝など自動車や家電メーカーのバイヤーは、世界中の部品メーカーや中小企業の製造機器類の内容やデータ、技術を把握しているのだとか。したがって展示会などのマッチングなどに担当者がわざわざ出ていくことはむしろないのだそうです。彼らは現在何らかの理由で世界のベスト10に入る企業のうちライバルとの競合の中で、何社かの「下請け」企業と独自にまた競合もしながら取引を行っていますが、そうしたベスト10の中にまずは入ることができるほどの力を持っているかどうか、販路開拓を目指す企業の内容を実は相手は知っているのです。よほど既存の取引先企業にミスなどがなければ、新規参入は非常にむつかしいことなのです。しかもそのあとに続くであろう企業の内容もよく知っています。大手企業のバイヤーはそう豪語していました。確かにトヨタ生産方式など「系列の重要性」は、彼らのモノづくりの状況からも判断できます。不良品が1点混じるだけで安心・安全に問題が起こり、リコール対象になるわけですから、手を抜くわけにはいきません。食品の生産でも同様、安心・安全だけでなく、おいしさやそのほかのいろいろな条件を現代の消費者やバイヤーから求められているのが現状です。百貨店であれ、スーパーであれ、そこに陳列されている企業や農家の商品に、何で勝つことができるか、自園の強みをよく把握して、マッチングに挑む必要があります。最初から基売場(プロパー売場)への進出は考えないほうが良いのかもしれません。身の丈に合った販売方法の工夫・挑戦をしたいものです。
 最近はアマゾンや楽天、もしくは自園のHPなどで販売したいと思われる方が増えています。比較的容易に参加できますが、手数料、配送料、包装・梱包の手間、金銭の授受方法等よく検討してほしいものです。SEO対策(検索エンジンの1ページ目にいかに出るか)、リスティング広告等いろいろな手段がありますが、それなりに費用も掛かります。どのようにして利益を上げるか、HPなのかフェイスブックやインスタなどでまず情報発信するのか等、一層の工夫が必要です。

③自園分析のポイント
 ライバルを知るだけでなく、自園の強みを知り、モノづくりへのこだわりや努力をバイヤーやその先の消費者に知ってもらう必要があります。消費者は極端に言いますと「知ってる・知らない。好き・嫌い。」で購買の判断を行います。農家の皆さんや農業法人の皆さんご自身も消費者です。しかしモノ作りの段階ではそれを忘れて、自園都合の考えをして気を緩めてしまいがちです。もしくは知らない部分でライバルに負けてしまうのです。
そのためにも自園の経営資源や事業活動について、定性的・定量的に把握する必要があります。具体的には、売上高、利益、市場シェア、ブランドイメージ、技術力、組織のスキル、人的資源などを分析し、付加価値を生み出す機能や、間接費にかかる原価もできるだけ正確に計算できるような知識を得、事業としての確立を図る必要があります。
市場シェアなどとお話しすると驚かれる農家の方がいます。道の駅に行かれたら、自園の商品が同じ商品の棚や売場でどれくらいの面積を占めているか、そこからある程度ご自身が作られた商品が市場でどのくらい受け入れられているのかわかります。道の駅でも売上報告を月ごとに配布しているところもありますが、そうしたデータからも分析は可能です。今市場でどのくらい評価されているのか、ただ売れたかどうかの把握ではなく、よそと比較してどのような状況にあるのかを知ることが重要です。基本的な数字の把握を行う癖をつけていただきたいものです。

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ちょっと古い記事ですが、6次産業化について

2021-01-26 17:05:50 | 独り言
6次産業化に関する提案を平成28年3月10日号の「大阪農業時報」に投稿したことがあります。5年たちましたが、どこまで6次化が進みましたでしょうか。
実際の掲載内容はブログ「6次産業化への課題」からを短縮したものですが、加筆修正した内容全文を次に掲載します。
現在はコロナ禍で展示会や商談会もウエブで開催されたりしています。
当時とどのように変化しているのか、振り返ってみるといろいろと気づきもあるのですが・・・・

「地域に雇用増をもたらす6次産業化について」
(1)少ない成功事例と成功の基準
農業に真剣に取り組む若者たちの姿を見るにつけ、何とか事業として成功することを祈り、少しでもその役に立てればと私は6次産業化の支援活動を続けています。
 「6次産業化総合化事業」の認定事例は数多く発表されていますが、成功事例が少ないのが現実です。
 成功の基準は道の駅や産直市場で販売するのではなく、全国スーパーマーケット(以下SM)、百貨店は究極の販売先であるとしても、少なくとも「地場SM」、「地方SM」の定番商品になることにあります。なぜなら、地場SM、地方SMの売場に定番品として並ぶということは、「品質優×量産化に成功×コストダウンの実現×価格体系の設定×味が良い×原材料の安定確保×企業組織の確立」といったことが確立された証左であるからです。
 6次産業化がなかなか成功という状態にならない理由を、今までの支援の経験から見ていくことにし、事業を成功に導く提案をしたいと思います。
 そもそも6次産業化とは、農家や農業法人が1次産業としての農林水産物の生産、2次産業としての加工、3次産業としての販売までを行う一気通貫の体制を指しています。
 農産物の生産に関してはプロであるのですが、なんといっても課題はその後の加工→販売の工程にあります。すべてを自ら行うのではなく、誰と組むか、どのようなビジネスモデルを選択・構築するかで、結果は大きく異なってくるのが経営というものです。
 上に示したように成功の基準は明確になっています。ここに到達するのは至難のわざですが、これにチャレンジしているのが、6次産業化であるのです。地域にお土産品が一つ増えたという次元で喜ぶ人はいないと思います。雇用が増えてこそ、意義のある6次産業化であるといえるのです

(2)6次産業化への課題
 6次産業化の課題としては次のものがあります。
①安全・安心なモノづくり→品質面において消費者が求める安心・安全な商品になっているか?
②加工場の衛生・工程管理→加工場が安心・安全なモノづくり対策が十分できているか?
③セグメンテーション→開発する商品が既存の商品に対して、差別化されているか?優れた特性を有しているか?
④流通チャネルの設計・設定→加工した商品を目指す流通チャネルに乗せることができるか、販路開拓ができているか?
⑤商品の出来栄え→ネーミング、パッケージ、ブランドなど流通に乗るレベルの商品になっているのか?
⑥商品の生産量→消費者やバイヤーに的確に商品や情報を届けることができるか?
⑦価格体系→流通に乗るコストであり、かつ価格体系を確立しているか?
⑧マーチャンダイジング→ブランド戦略、ネーミング、原材料の確保など商品づくりの手立てはできているか?
⑨そもそも「経営能力」を有しているのか?経営能力を養成しようとしているのか?

(3)経営課題と、その解決法
1)ものづくりについて
たとえば、農産物の規格外品を「もったいないから」という理由で、ジャムやジュースなどをつくっても、SMや百貨店では売れません。
売れない理由は
・セグメンテーションを行って他の商品と差別化していない
・原価が高く、流通に乗らない
・味・香り・栄養素などを吟味していないから、消費者やバイヤーから支持を得られない
ということになってしまうのです。
食品にとって
・おいしいのは当たり前
・異物混入がないのは当たり前
・食品の材料、添加物、加工方法などが吟味され、安心・安全というのも当たり前
というのが、日本の消費者の現実です。
 このような基本的なことができた上で、既存商品との差別化が必要とされているのです。
 しかし、6次産業化農家のほとんどが、家内手工業的な加工場で細々と手作りで、加工品作りを行っているのです。保健所の許可を一応は得ていたとしても、一連の作業の中で、加工環境に心もとない場面を私は多々見てきました。加工については農業法人といえども例外ではありません。
重要なことは、顧客価値を意識したものづくりであるのです。6次産業化の推進を図るのなら、元の農産物の生産に対するこだわり(環境、土壌、水、農薬など)の上に立ったおいしい農産物、新鮮な農産物から加工品を作り、流通ルートに乗せるべきなのです。
 加工場については、集塵機、無塵衣、エアーシャワーなどは当たり前のことです。密閉による外から虫よけ、常に頭巾やマスク、手洗いの励行、清潔な手ぬぐい、こうした心遣い、気遣いがどこまで行われているか、製造業でいわれる4S(整理、整頓、清潔、清掃)が、躾というよりも「習慣づけ」を加えて、5Sとして守られているでしょうか。

2)展示会について
 展示会などのマッチング会を開いても
・希望する流通企業と商談が成立しない
・「また連絡します」とバイヤーに言われてただ待っている
という状態が多いのです。
農水省にフード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)という組織があり、そこが「ベーシック16」という考えを打ち出しています。それに基づいて商談会用のシートが作成されています。しかし、6次産業化農家からすると、経験上当たり前だと思っているのか、このシートが完全に作成されていないのです。自分では普通と思われている生産過程を見直して、しっかり記述をしてほしいものです。そこには実はバイヤーや消費者が知りたい情報が隠れていることがあるのです。
 さらに商談会を開く側にも責任があります。ただ農家や農業法人を集め商談会を開き、いろいろな企業のバイヤーを呼んでも、どれほどのマッチング機会を生み出すことができるのか、流通の事情も分からないまま、展示会を開催するところがあります。やらなければならないからやっているということでいいものなのでしょうか?

3)流通事情
 百貨店とSMのバイヤーの行動は違います。
百貨店のバイヤーは、長年の経験から、いつどこでどのような農産物や加工品等が作られ市場に出てくるかを知っています。このため、旬を売場に反映すること、珍しい商品などに眼目を置いています。一方、SMのバイヤーは、季節ごとに売場基本レイアウト図を変更して、品揃えを刷新し、売上の最大化を図っています。
バイヤーが忙しいのは、限りある自店の棚を最大限に効果的に活用するために、天候・温度・湿度などを想定しながら、超稼ぎ筋、超売れ筋、特売品、新商品などを組み合わせて、売場に表現しているからです。
SMや百貨店では、よく見られる農産物直売所や道の駅のように、午後になると空きスペースが出てくるようなことは許されないのです。年間20億円以上販売する直売所や、それ以上の売上高を獲得しているSM、百貨店などは、常に商品の品出しを行って、売場を維持・充実させています。
 朝商品を納め夕方引き取りに来るような取引では集客や売上には限界があり、運営方法等の見直しが必要なのです。
6次産業化に挑戦する場合、欠品を起こさない、ロスを出さないというものづくりの原点からの意識改革が必要です。
 開発商品はどこでどのような顧客にどのように食べて欲しいのか、しっかり考えたうえで、生鮮品の販売、加工品の販売について工夫し、集客方法についても努力していただきたいところです。

4)6次産業化を成功させるために
 6次産業化事業を成功させるためには、次の対策が必要とされています。
①既存商品に対する差別化点を明確にする
②土、苗や種、農薬、肥料等元となる生産物のものづくりへのこだわりをもつて、「おいしさ」を追求する
③消費者・バイヤーがなるほどと思う展開ストーリーが必要である
④徹底して「安心・安全」の加工品を作る
⑤セグメンテーションを行い、既存商品とは異なる特長をもっている
⑥将来の取引拡大を意識した加工場への設備や機器の整備・投資を考慮する
⑦ネットワークを生かす
⑧まず顧客をイメージし、どのような顧客にどこでどのような商品について食べてほしいか、買ってほしいかを考える→使用場面
⑨商品のネーミング、パッケージ、シール、チラシに至るまで、総合的な基本計画を作成したうえで、挑戦していく

5)支援センターや行政への提案
支援センターや行政等、事業の認定側も以上述べてきましたように
・商品のセグメンテーション・ストリー性
・異物混入を防ぐ方法の確立
・材料の安定的な確保
・商品の特長・こだわりの明確化
・販路・販売チャネルの設定
・継続的な取引が可能な安定的な製造
といった点まで支援しながら認定にもっていき、事業を成功させてほしいものです。 
単に「自分で生産し、加工し、販売しなさい」ではなく、どのようなものづくりをし、どのような販路で販売するように工夫するかまで、支援センターがあり6次産業化プランナーがいるのですから、そうした支援の工夫を行った上で認定にもっていっていただきたいものです。
 6次産業化への農家等の挑戦を成功させるためには、いろいろな方法はあると思われますが、行政もいかに日本の農業の活性化を進めるか、支援活動を行っていくか、6次産業化(農商工連携等も含め)の認定方法や推進方法に対してより一層の工夫をしてほしいと思います。
 それは、単に生産者の支援だけではなく、食や観光等との総合的な連携も必要となります。個人や企業等、点で支援を行うだけでなく、今後はもっと面的な支援の必要性もあるのではないでしょうか。地域資源の活用は本当にできているのか、単に認定に終わっていないか、そのまま認定して放置されていないか、いろいろな県や市町村と仕事をするたびに、単なる制度ありきの支援を感じるのは歳を取ったせいでしょうか。
6次産業化は、日本の農業生産に経営そのもののあり方、ビジネスプランの策定、マーケティングなどの知識を据えないと6次産業化は成功しないと思います。

以上内容的には本ブログの各項目と内容的にダブっているところが多いのですが、平成28年3月時点での原稿です。
現在かなり時間がたっていますが、どこまで実現されているでしょうか。
6次産業化の支援内容も変化してきており、国は成果を求めています。
経営継続補助金の支援をしていますが、いわゆる農業マーケティングを理解した経営を行っている農家の皆さんがどれほど全国にいらっしゃるのか、支援のたびに少しでもその考えを理解し実践される農家が広がることを望まずにはいられません。

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【5】6次産業化と農商工連携

2021-01-25 10:08:54 | 独り言
6次産業化総合化事業を推進するにあたり、いつもお話することがあります。事業で成功するためには、まず1次産品の生産に成功する必要があります。成功とは、消費者が求める安心安全でおいしい農産物がまずできていることです。そこに「ストーリー」がないと1次産品は売れません。もったいないからB級品をジュースやジャムにという発想は全国にありますが、一農家でそうした商品を加工しても成功するでしょうか。毎年どれほどB級品のジュースやジャムが生産できるというのでしょうか。1次産品の生産効率が良い年はどうなるでしょう。そうしたB級品である商品をブランド化するのは至難の業です。消費者が「B級品で作ったジャムですが」とか、「ジュースですがいかがですか」と言われて購入するでしょうか。さらには、家内手工業的な「工場」で衛生管理の行き届いた安心安全の確保は本当にできるのでしょうか。小さな虫や埃など、さらには髪の毛1本混入しない設備になっているのでしょうか。道の駅でオリジナル加工食品をレストランの厨房などで作っているところがあります。ドアは1枚扉、「虫さんいらっしゃい」の状況で、百貨店やスーパーなどのバイヤーがその商品を購入するとは思えません。もし小さな虫が入っていたら、クレームの元、バイヤーはそうした状況は事前に防ぎたくなるものです。
 6次産業化を進めるためには、何度も申し上げますがまず1次産品である農産物をしっかり栽培する必要があります。そこに「ストーリー」があり、「ブランド化」ができれば、2次加工品についても、販路開拓は比較的行いやすくなります。ただし、家内手工業的な環境ではいくら保健所の認可を受けても、簡単ではありません。都道府県やJAの方に提案するのですが、いろいろな農家の味はおいしくても商品化できない1次産品を集め、しっかりと衛生管理等がされた加工場で2次産品への加工を行うことをなぜしないのでしょうか。現在6次産業化では加工を自園でなく安心・安全な加工場に委託することも許されていますが、「餅は餅屋」という言葉があるように、しっかりした管理下で製造することのほうが重要です。しかも、供給量をまとめることで、販路の拡大が見込めます。2021年6月からHACCPが義務化にもなりますので、いずれにしても加工が発生すれば、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を実践する必要があります。
6次産業化を推進するため加工品を作りたい場合は、
①同じ加工品づくりを近所の農家と連携し共同で行う
②その際、「加工場」としての環境を整備すること、もしくは安心安全管理の行き届いた専門の加工場に委託すること
③連携や共同でできない場合は、単独で委託できる安心安全な衛生管理のできた「加工場」に依頼すること
④資金的にゆとりがある場合には、自園で身の丈に合った、将来の拡張を考慮した「加工場」を設置すること
などが、選択肢として考えられます。
6次産業化に挑戦する場合、最初のハードルはここにあります。消費者目線で、受け入れられる商品づくりになっているのか、よく判断する必要があります。
 2次加工においても、キーワードは「連携」です。それなりの圃場の広さを持たない農家では、自園で残ったB級品や1次産品を処理するのではなく、栽培方法の似通った近隣の農家といかに連携して、売れる2次産品の加工を行うか、そのほうがブランド化を図りやすく、知名度の向上にもつながり、販路開拓も進めやすくなります。自己完結型で行う場合は、1次産品にも優れ、しかもその一定の割合を2次加工に回すくらいでないと成功しません。B級品では供給量も限られ、販路開拓もむつかしくなります。
しかしもったいないのですから、その処分の方法について、工夫が必要となります。自園のみで考えないことが大切です。もちろん資金的にも余裕があり、広い栽培面積を誇り、それなりに2次加工品としての供給量が確保できるのであれば、ぜひ直接加工から販売まで挑戦していただきたいものです。そうした場合に、6次産業化に関わる補助金は、農商工連携も含め大いに活用の仕方があります。では小さな圃場でB級品の取り扱いはどうすればよいでしょうか。それはそれで方法があります。例えば、しっかりとした衛生管理の下、ジャムやジュースに加工して、自園訪問者や取引先に販売したりギフトとして配布したり、道の駅などに出荷するなどの方法があります。その際、出来上がる量で工夫する必要があります。
 ここで注意していただきたいのは、農商工連携といっても、国が支援するものと都道府県で行うものがあるということです。国の支援を受ける場合はかなりハードルが高く、商品は国内で初めて生産されるような新規性が求められます。現状国内初の新規性ある商品開発はむつかしくなっていると思われ、中小機構の担当者に問い合わせをしたところ、最近は新規性についてはあまり問わないとの話ではありました。確かに直近の認定結果を見てみると、新規性のない案件が認定されているケースも見られるようになってきています。
 少し詳しく申し上げますと、農商工連携は6次産業化の一形態ですが、農業者が生産・加工・販売を一体的に行う狭義の6次産業化とは内容が異なります。
 6次産業化の目的は、農業者が生産・加工・販売を一体化し、所得を増やすことにあり、当初農業者と商工業者がお互いの技術やノウハウを持ち寄り、新商品開発などを行う農商工連携は含まれていませんでした。 
農水省の説明によると、『「6次産業化」とは、農業者が生産(1次産業)だけでなく、加工(2次産業)、流通・販売等(3次産業)に主体的、総合的に関わることで、付加価値を得ようとする取り組みのことで、「農商工連携」とは、農林水産業者と商工業者がそれぞれの経営資源を持ち寄り、新商品・新サービスの開発等に取り組み、それぞれの収益拡大、消費者の便益向上、さらには地域経済の活性化や食料自給率の向上を目指す』というものです。
両者の大きな違いは「6次産業化」が農林水産業者を支援対象としていることに対し、「農商工連携」は商工業者と農林水産業者の「連携体」を支援対象としているということです。またハード(設備等)に対する補助金に対しても、「6次産業化」はハードとソフト(試作開発・販路開拓等)の両方を補助金の対象としていますが、「農商工連携」は基本的にはソフトに対する補助金であるということです。
また、農商工連携といっても、都道府県、独立行政法人中小企業基盤整備機構、地元金融機関、農業団体等が出資した「農商工連携応援ファンド」があります。国の支援と比較すると金額的には少なくなりますが、考え方によっては申請のハードルはやや低いといってもよいかもしれません。
さらには地域資源活用事業などを利用してハードにかかわる事業に関しても、国の支援があります。小生はその支援実績で、中小企業診断士として弁護士や税理士と並び経産省の経営革新等支援機関に認定され、事業再生やモノづくり・商業・サービス補助金などの支援活動が可能となっています。
しかし最近、6次産業化総合化事業の申請支援に携わることがありますが、以前に比べ、ハードルが高くなってきた感じがします。農家や農業法人の方でも申請書の記述がむつかしくなってきています。安心・安全に対する要求が高くなり、また申請後の事業の成果を厳しく問われることが原因かもしれません。ハード事業を行う際には当たり前ではありますが、申請前の事前準備にしっかり取り組んでおく必要があります。国や県の少しでも認定しようという気持ちは感じられますが、認定に至るハードルの高さを超える努力が求められるようになっています。ここ数年、年に1件は6次産業化事業への申請のお手伝いをしていますが、最近の申請に当たっては農政局の担当の方から非常に丁寧な申請書に対する支援を行っていただいています。申請を受理するためには細かな気が付かない点の指摘などもありますが、何度かやり取りをする中で認定に向けた申請書の「完成」に至り、農家の方に喜んでいただくことが増えてきました。
6次産業化について書き加える必要が現在出てきたのは、支援内容が変化し、経営支援にシフトしてきたことです。最近の依頼はほとんどが5か年計画の作成とそのための実践についての支援が多く、より農業経営に関わる仕事が増えています。この件については別の機会に、詳しく触れようと思います。
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サービスデザインとデザイン思考

2021-01-23 10:36:04 | 独り言
最近でもないですが、気になっていることの一つに自動車の安心・安全機能についてです。
自動運転だけではなく、意外と付帯するその他の技術にも興味があります。
➀サービスデザイン
ベンツやBMWのヘッドライトが対向車や追い抜きの際に相手のまぶしさを減少させ、運転者側に対しては遠目に明かりが行くような機能が工夫されています。
こうした安心・安全に対する機能開発が海外の自動車から行われ始め、日本の企業も機能を追加しだしています。
こうしたサービスデザインも「デザイン思考」からくる発想なのかもしれません。
ベンツにはドイツのコンサル企業SASが色々な支援を行っています。
今後安心・安全をテーマにした自動運転技術に加え、さらに機能の充実が図られてくると思われます。
➁IT(VR)の活用
カナダには国産の自動車がなく、海外の自動車メーカーがしのぎを削っています。
アメリカのフォードも大きな規模での販売拠点を設けていますが、100台近くにもなる試乗車をどのように顧客に提供しているか、興味が沸きます。
ディーラーの店舗に行くとヘッドセットの眼鏡をかけて試乗体験をまず行い、気に入った試乗車を選択して試乗するなど、いろいろな工夫が行われています。
気になったのはそのサービス機能をどこが開発しているのか。
フォードの提携先はサムソンでした。
海外に出るとこうしたIT技術を活用したサービス機能がどんどん活用されています。
農業に関しても同様、さて日本のメーカーはどこまで進んでいるのでしょうか。

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【4】スマート・アグリ(農業)とICTについて

2021-01-19 16:40:48 | 独り言
最近統計学が見直され、ビッグデータの活用などデータ・サイエンティストの存在がクローズアップされています。
 最近はITよりもICTという言葉が使われるようになっていますが、ITを「総合的な情報技術」ととらえ、ICTは「情報伝達技術」ととらえると、情報は伝達するだけではなく、蓄積された情報の分析も必要と考え、むしろそちらへの重きを置いてICTとここでは触れていきます。
 小生もある漬物屋さんの支援を行うとき、当時健康志向の強い消費者がどのような言葉を検索用語としてみているのか調べたことがあります。ヨーグルト、ポリフェノール、乳酸菌など健康志向の消費者が毎月どのようなキーワードで検索しているのか研究し、トマト農家が摘果したミニトマトを漬物にして販売したことがあります。農家と漬物屋さんがコラボし、新たな商品づくりを行った例でもあります。漬物屋さんは別の商品ではありますが、漬物大賞を受賞された経験をお持ちです。最近はデータ・サイエンティストという職業にスポットが当たっていますが、興味ある方はぜひ勉強して、農業分野にも生かしてほしいものです。
 これからの農業において、オランダなどの農業先進国に追いつき追い越すためには、ICTの技術を農業にも生かす必要があります。

*****************************コラム********************************
 実は製造業の方を中心にデザイン・シンキング(思考)のセミナーを開きワークショップなども担当いたしましたが、ふとある怖さに気が付きました。
 ある時のワークショップで受講生に課題を出した際、参加した皆さんが一斉に作業を開始します。その際にパソコンやモバイル端末など自由に使うことを許可していました。作業開始にあたっての最初の動きはまず「検索」から始まります。
驚いたのはその時の参加者の画面です。同じキーワードの入力、同じ画面での情報収集、個性のある検索画面を見ている人は全く見当たりませんでした。「知識のコモディティ化」という言葉が頭をよぎりました。
 デジタル社会になって、韓国がとりわけサムソンなどが日本の電機メーカーを凌駕していった「失われた20年」を振り返らざるを得ません。
 すでに彼ら韓国企業はアメリカのIDEO社やfrog(フロッグ・デザイン)社などのデザイン会社というよりも「デザイン・シンキング(デザイン思考)」をツールとして事業戦略を構築するデザイン・コンサル企業と連携し、ものづくりを行い、事業戦略においても、そのデザインにおいても日本企業を凌駕していったのではと思われます。実際IDEO社はスタンフォード大学で、frog(フロッグ・デザイン)社はハーバード・ビジネススクールで授業を持っています。デザインを教える芸術系大学ではない大学で授業を持ち、ツールとしての「デザイン・シンキング」を教えているわけです。遅まきながら気が付いた電通や博報堂などの日本企業も彼らと連携し、今では出資や業務提携等をしているやに聞いていますが、その後の彼らの海外HPも昔の情報発信内容が制限され、つまらなくなっていました。以前はどのような考えに基づいてクライアント企業の商品づくりを行ってきたのか、それぞれの事例が非常に面白く拝見できたものです。デザイン・シンキングをツールとして教えても活用方法がまずい日本の企業で、これがその結果という成功事例にはまだお目に掛かっていません。商品的にアップル社のiphoneのような成功事例が生まれているでしょうか。ある企業の若手デザイナーに聞いた話ですが、デザイン系の大学では10年以上前から「デザイン思考」の授業はあったようです。しかし先輩デザイナーは勉強しておらず、言えなかったり使えなかったりしたと話していました。
********************************************************************
 話を戻しますが、デジタル化社会におけるデータの活用方法、コミュニケーション能力は非常に求められているはずなのに、まだまだ活用されているとは言えないのが日本の現状ではないでしょうか。これから農業や製造業等に就職される若い方達には、いかにそうしたツールやデータを活用するか、また活用しながら学びを深くしてほしいと切に願わざるを得ません。
 実は、自動車に興味があり、次に買い替えるときは安心・安全にこだわった車にしようといろいろと勉強していると、ドイツのdSPACE社のTargetlinkというソフトウエアの存在を知りました。実はこのソフトはドイツの農機具メーカーであるCLAAS社のコンバイン収穫機などに採用されているのですが、機械が収穫の最適な状況を判断して人間よりも的確に自動で行うというものです。航空宇宙産業向けなどにも開発されているこのソフトは、いろいろな分野に応用されているようで、自動車における「サービス・デザイン」の進化同様、いろいろな分野に影響をもたらすかもしれません。頼もしくもあり、日本のメーカーには頑張ってほしいとしか言わざるを得ません。最近、こうした海外の先進事例に良くぶつかるケースが増えてきました。気のせいなのか、歳のせいなのでしょうか。
 こうしたドイツのソフトウエアだけではなく、オランダやイスラエル等の環境に合ったものづくり技術にも追いつきぜひ追い越して、食料自給率を上げ、安心・安全でおいしい野菜や果物などを生産し、輸出するまでにもっていっていただきたいものです。
 またそうした生産の際に、筋力ではなく知力を使う努力をしてほしいものです。女性の農業への進出、若年層の農業への進出、そのためには農業も働きやすい環境の下での仕事場に変える必要があります。ICTの活用だけではなく、最新のロボットやAI、ドローンなどの活用が必要になってきます。自動化できる部分やロボットの着用や活用による軽作業化など、農業実務の課題解決に関してまだまだ課題も多いと言わざるを得ない状況です。オランダのハウス栽培の現場を見て、その大きさや天井高に驚くのではなく、なぜヨーロッパへの食品工場になっているのか、生産効率が高くなぜ輸出国になっているのか、根本的な部分を学び違いを理解しながら超えていってほしいものです。オランダの栽培方法と日本の大きな違いは、データを活かした病害虫対策だと思っています。日本では病害虫の発生後の対策に優れていますが、オランダではむしろ予防対策が進んでいるといわれています。リスクを最小限に抑えるデータの活用方法は日本でも学びたいものではないでしょうか。
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【3】植物工場とスマートアグリ(農業)について (ちょっと長いです)

2021-01-18 12:07:21 | 独り言
ここでどうしても触れておきたいのが植物工場についてです。植物工場での生産が始まってずいぶん時間が経ちますが、日本ではどれほどの成果を上げているのでしょうか。簡単なハウス栽培とは違って、今はやりのICTを使った栽培方法ですが、ハウス内外の環境・温度湿度や水、肥料、栽培状況などいろいろなデータ管理が行われているようです。しかし投資のし過ぎで失敗するケースも見られます。単価幾らの野菜をどれだけの投資で回収するというのか、素人が判断してもできそうな事業なのに過大投資をし、失敗するケースも見られます。
■オランダ・イスラエルと植物工場
 大手企業が植物工場に進出、と言っても仕組みを売る企業もあれば、実際に葉物野菜などを生産し販売する企業などいろいろ存在します。「みらい(現MIRAI㈱)」の動向に注目していましたが、投資額と栽培する葉物野菜の金額、数量を考えると、巨額投資の経営に疑問符が付くのは当初から思われていたことではないでしょうか。その後のリカバリー状況はいかがでしょう。しかし最近は成功事例も見られるようになってきました。何事も身の丈経営から始め、しっかり利益を計算しながら進めていくことが大切です。確実な販路を持ちながら栽培量を増やしていかなければ、投資に見合う回収はなかなか進みません。損益分岐点の把握も重要ですが、実は植物工場で危惧していることは他にもあります。
 農家の中にもオランダのハウス栽培を見学した方が増えてきましたが、天井高の高いハウスの中で、ICTを使った非常に高度な栽培を行って、ヨーロッパの食材を賄っています。実際オランダの食料輸出量は世界2位と言われる食糧輸出国ですが、国土面積は日本の50分の1、ほぼ九州と同じ面積で、耕地面積は日本の4分の1(185万ha)です。農業者の総人口に占める割合は2.5%と日本と同じですが、日本の農業人口は305万人、オランダは43万人と日本の7分の1、しかし輸出金額は農水省の平成28年度10月発表のデータによると909億ドルとアメリカに次ぐ数字で日本の30倍ほどです(実際のデータは2014年度に該当)。なぜここまで収穫量が高く、輸出ができているのでしょうか。ICTテクノロジーによる高度な栽培ノウハウの蓄積が日本の比ではないということ、アプリケーションの数が一説には1,000項目近くあるとか。日本の栽培現場でどれくらいの項目数、管理が行われているでしょうか。
 ただこうした技術的に優れたオランダのノウハウですが、システムを導入すると発生したデータはそのままオランダにも流れます。世界中のデータが集まり、さらなるビッグデータの分析や研究がされるのはよいのですが、日本が技術的に追いつくのはいつになることやら、心配になってきます。
 またオランダ農業でもう一つ注目しているのは、高効率高収益率のある栽培方法ですが、品種ごとに栽培方法が決まっており、品種による付加価値生産の差が見られないという点です。日本の農業とはその点が違うのではと思います。
現在ほとんどの日本の植物工場でも、ハウス内で栽培している野菜等の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等)をパソコンなどのシステムで制御し、生育状況のモニタリングを行っています。日本はオランダなどと比較して日当たりの良い環境にあるので、LEDや蛍光灯などの光に頼るよりも、自然光を利用した太陽光利用型の施設園芸のほうが、コスト的にも野菜の味の面などでも適しているのではと思われます。実際オランダでも太陽光利用型が多いようです。こうして日本でも、野菜等の栽培において比較的高度な環境制御と生育予測を並行して行い、周年・計画生産を可能にするような栽培を行っているところが増えてきたと思います。そうした経験を活かし、日本でも早くいろいろなノウハウを蓄積し活用する体制に持って行ってほしいものですが、なかでもデータ管理とその応用についての栽培技術ノウハウは、オランダやイスラエルなどの先進国に早く追いつき追い越してほしいものです。
以前担当した滋賀県の農業経営塾で、コメンテーターの「浅恋トマト」で有名な浅小井農園の松村社長(現会長)から話を聞きました。現在は滋賀県の少量土壌培地耕作システムでの栽培に独自性を加え、土壌の改良や害虫対策などを行っていますが、実はオランダのコンサルタントに来てもらっていたとのこと。さらにおいしいトマトの栽培を目指しておられますが、ハウスでの栽培状況を公開されており、これからのハウス栽培に挑戦する方や、現状でいろいろな悩みを抱えている方には非常に良い相談役だと思います。
 ところで花卉の世界への輸出国はオランダがダントツだと思っていました。実際世界シェア60%以上といわれています。しかしイスラエルの花卉のヨーロッパへの輸出が多いことにも最近気が付きました。イスラエルは軍需産業が盛んでその技術を応用したデジタル印刷機などの開発に関して、デザイン会社を運営した経験から知っていましたが、6次産業化プランナーとして農業の知識を学んでいると、イスラエルの新たな面を知ることになりました。砂漠の中で水資源の少ない国のはずなのに野菜や果物の自給率は95%とか。驚くほかありません。ハウス内での点滴潅水技術は、水利用の効率で世界1ともいわれています。イスラエルのデジタル印刷機はアメリカのヒューレットパッカード社が導入していましたが、インクをパイプで送り込む方式で10年ほど前はとても色鮮やかだったことを覚えています。ただ当時、機構的に各インクパイプの制御の難しさやメンテナンスが頻繁に発生するため導入をあきらめた記憶があります。ハウス栽培の現場ではどのようになっているのか、農水省の平成28年度発表のイスラエル農業のデータを見るまでもなく、砂漠における施設栽培の現状を実際に目で確かめたいものですが、興味を覚えながら現状ではイスラエルとなると見学などちょっと難しいかもしれません。
 また、栽培で気になるのが、熟成度を色で判断しようとする試みです。カメラで写したRGB(光の色の3原色)による色のモニター上への再現は、個々のモニターのカラーマネジメントに優れていない中で、非常に難しいやり方です。自分自身印刷会社を経営していた時、スタジオの現場で撮影したモデルの顔や服の色を印刷のCMYK(4色)に変換することのむつかしさは、ジャパンカラーの範囲では目視して色の違いが分かるくらいであり、色の再現がいかに難しいか実感しています。そのためカメラの目だけで、野菜や果物の生育状況を判断するシステムがどれほど実務に応用できていくのか勉強したいとは思っています。
最近はかなり農作業に応用されてきたと聞いていますが、効果などさらに研究したいと思っています。
 ところでオランダのスマートアグリに関する技術は学ぶとしても、栽培品種においてどのように考えていけばよいか、日本ではむしろ異なる考え方を採用するべきだと思っています。理由は前述しましたが農水省の平成28年度10月更新、「オランダの農林水産業の概況」でも書かれているように、オランダの施設野菜の栽培面積の8割をトマト、パプリカ、キュウリの3品目が占めています。これらは世界的に見て輸出平均価格が高い品目、つまり需要が大きい品目に絞られていることが分かります。オランダの選択と集中における輸出方式は確かに付加価値生産、加工貿易として見習う点もありますが、そのまま日本が導入する必要はないと思われます。日本では全国いろいろな地域で多品種少量ながらいろいろな農産物がそれぞれ付加価値生産に近い方式で栽培されているわけですから、一部コモディティ化する商品があるとしても、消費者ニーズを考えると、オランダのようにそこまでの選択と集中が必要なのかは疑問です。国内需要に応じながら、輸出できるものと輸入で対応するべきものを区別する必要はあると思いますが、安心・安全だけではなく、「味」にもうるさい舌の肥えた日本の消費者に対応しながら、アジア地域の市場開発等に工夫を凝らしてほしいと思います。最近では東南アジアの国々の現地市場のスーパー等を見て回ると、多種類の野菜が並んでおり、果物なども生食を好む地域として、今後の市場開拓先としての輸出戦略はもっと工夫を凝らしてほしいと思います。
 そうした中、いかにハウスの中で効率よく安心・安全でおいしい農産物を栽培し、販売することができるのか、AIが進んできた日本の農業でその活用にもっと取り組んでほしい課題の一つではと思っています。台風や地震など自然災害や天変地異などいろいろな自然現象のリスクが増加してきている中で、露地栽培と比較してハウス内栽培は今後非常に重要になってきます。そうした中、いかに消費者のニーズに応えた、また現状の課題に応えた農産物を提供していくか、食糧の自給自足問題にも関係することでもあり、「工場」とは言わずに簡易型であってもいろいろな栽培技術を高めて、生産に見合った販売や数量にもっていってほしいものです。
 滋賀県の少量土壌培地耕システムを農業技術振興センターで拝見したことがあります。いかにハウス内で農産物を栽培するか非常によく考えられたシステムではありましたが、よりおいしい「味」を追求し、より高度な収穫を目指して、完成度を高めてほしいシステムの一つでした。ハウス内栽培が可能になった段階で研究が終わっているようでしたが残念でなりません。さらなる「味」への追求など、消費者目線での研究を加えてほしいと思ったものです。
東北の震災後、こうした栽培システムが採用されると、トマトなどはすぐにでも栽培が可能と思われたのですが、最近のニュースで、農業生産法人「やまもとファームみらい野」が東日本大震災の津波被害を受けた宮城県山元町高瀬に建設されたトマトの「水耕栽培ハウス」で出荷式を迎えたニュースが流れほっとしました。(平成29年5月12日河北新報)遅かったとはいえ、非常に喜ばしいニュースでした。
実は水産資源保護協会から東北の漁業者の方の販路開拓の支援を依頼され、2016年、ちょうど天皇陛下(現上皇陛下)が岩手県の上閉伊郡大槌町吉里吉里にある『三陸花ホテルはまぎく』に宿泊され、そのホテルから出てこられる時間に遭遇いたしました。なぜ、このホテルなのか、支援先訪問の際東北大学の方にお聞きしました。1997年、ちょうど20年ほど前にこのホテルの前身「浪板観光ホテル」にお泊りになられ、部屋から眺めた窓の外の「はまぎく」に目をお留になられたのがきっかけで、亡くなられた経営者の山崎龍太郎さんが宮内庁にその花を届けられたことがあったそうです。山崎龍太郎さんは今でも行方が分からないそうですが、宿泊された方を避難誘導し津波に巻き込まれたそうです。宮内庁の思いやりなのか、天皇陛下(現上皇陛下)のお考えなのかはわかりませんが、そのお話を聞いた瞬間涙がこぼれ出たのを覚えています。
現場を離れながら、海岸沿いにそびえたつ防波堤、万里の長城ほど長くはありませんが、海が見えない景観、隙間から見る港に船がいない風景、住宅があったであろう内陸は何もない状況、加工場は港から離れた遠い山の中、働き手がいないとの悩みは申し訳ないのですが当たり前に思えました。一律平等公平な東北の港の再開発の姿を見て、現場を見ることの大切さを実感し、ショックを受けました。ただ、元に戻すのが支援ではなく、今後の日本の漁業をどうすればよいか、再考する機会ではないかと思われたからです。
ある大きな冷凍庫を持つ工場では、細々と加工品づくりを行っていました。その横には配達する軽自動車がそのまま置いてあり、ほこりや虫対策など全くできていない状況の再開でした。食の安心・安全を考えるとそこは工場ではなく、広い「体育館」の片隅で作業を行っている状況でした。何とかしてあげたい。でもこのままでは商品を、首都圏や関西圏の消費者に届けることはできない。そんな板挟みの中で、プレハブとは言わなくても蚊帳でもよいから二重にして虫などが来ない安心・安全な衛生管理に努めた状況つくりを提案したのを覚えています。しかし、天井には昔のハエ取り紙が無数にぶら下がっており、それには虫だらけの状況、軽自動車が作業場の横にあるわけですから、外部の埃もそのまま入ってきます。蚊帳では埃除けにはなりません。国や県の支援で、せっかくおいしい食品づくりのノウハウを持った企業の支援をしてほしいと切に願ったものです。こうした「工場」の課題や問題点を持ったまま「再開」している企業が多いのにも驚きました。衛生管理をそれぞれの企業に依頼したのは言うまでもありませんが、個々の企業に対する身の丈支援がまずは必要だと思った次第です。
 話を戻しますが、小生の地元奈良市に「あずま―植物工場株式会社」があります。一部上場企業である株式会社バイテックホールディングスとともに石川県に植物工場を稼働させたり着工したりしています。石川県は植物工場の集積地のようになっていますが、電力コストが安いというメリットを生かした進出です。ここ数年福井県の産業振興センターで福井県内の企業のモノづくりや販路開拓の支援を行って参りましたが、福井県でも原発立地地域などでは電気料金の大幅な優遇制度があります。こうした植物工場にかかる経費のうち、電気代などでコストダウンにつながる優遇制度のある地域では、こうした活動が活発になるかもしれません。そうした優遇制度が薄れたときでも、首都圏や関西圏に近い立地での運営が販路の近さなどから有利になると思われます。いずれにしても、植物工場を成功させるためには、運営にかかる総額のコストダウンと経費に見合う量の生産、そのための販路確保が重要です。最近、上述した石川県に進出の2社は配送面で連携し運送コストの削減などを図っているようです。
6次産業化がうたわれて久しくなりますが、そうした事業を成功させるためにも、基である農産物の栽培から国としての研究を進めて、技術の確立を図っていただきたいものです。全国で環境が違うとはいえ、ハウス栽培なら、一定条件を保持しながら、安定供給ができる仕組み作りができるはずです。都道府県や企業、農家それぞれの個別研究ではなく、国としてより高みに技術を持っていく仕組みができないものでしょうか。県別にまた農家別に栽培技術などの知識が暗黙知となっている気がします。暗黙知の形式知化こそが、これからの日本の農業に求められていることではないでしょうか。そのノウハウがアジアをはじめ発展途上の国々で求められてもいるだと思われます。
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農業で儲ける つづき

2021-01-11 13:02:49 | 独り言
また忘れないでほしいことは、資金繰りについてです。税理士の方に資金繰り表の作成まで依頼するとなると別途料金を要求されるかもしれませんので、ほとんどの農家の方はそこまでされる方はいません。兼業農家が多い地域などでは、裕福な方が多く、そうした資金繰りの必要はないのかもしれません。しかしいろいろな農家を訪問していると、親の代から過剰な投資で大きな負債を抱え、生活に四苦八苦されている方もいます。非常に高い料率のカードローンの支払いや多額の借入金の返済、農協のリボ払いのような借り入れ等々、料率変更や支払いの減額交渉すらできずに、寝ることもままならない日々の業務に追われ、支援の時間すらハウスの中での立ち話のような方もいました。
税理士の皆さんや普及員の方にお願いしたいのは、帳簿を付けたり栽培の支援を行うだけではなく、農家が期待している生活全般のコンサルティングをお願いしたいということです。現状で何に気を付けなければならないのか、農業を通して豊かな生活を送るための方法を、訪問の都度支援してほしいものです。6次産業化プランナーのように訪問回数が制限されているよりは、毎月のように訪問できる税理士や普及員の方などのほうが、より身近で相談相手になれるのではないでしょうか。
⑤決算書をどう見るか 数字は簡単に把握し活用したいもの
事業を行う以上決算書の提出が義務付けられていますが、税理士さんに頼むだけで、いくら今季利益があり税金はどれくらい収めたのか、もしくはどれくらい返ってくるのか、皆さんは興味をまずどこに持たれるでしょうか。
コンサルタントが事業経営を見る場合にどこに目を付けるのか少し考えてみたいのですが、大手コンサル会社のように細かく細部にわたって検討していくのではなく、瞬間的にどの項目を見て、状況把握をしているかを考えてみたいと思います。
我々が知りたいのは農家の皆さんが現在どのような状況になっているのか、それはどのような流れからきているのか、せめて3期分の内容把握を行い比較します。
損益計算書の売上高、売上原価、販売管理費の内容、減価償却費、人件費、営業利益、それに貸借対照表では短期・長期の借入金などの項目を見ます。
 つまり、いくら経費を掛けてその事業を行い、どれくらいの売上を上げ、いくら儲けているのか、その事業を行う上でいくら借金をしているのか、そこのところを知りたいわけです。それをだいたい3期分、決算ごとの流れを見ていくことで、どこに良い理由、悪い理由があるのかを判断していきます。流れを読むことは必ず行ってほしい作業の一つです。そのうえで、毎期ごとに売上総利益率など自らパーセントで把握すべき項目を出して比較してほしいと思います。
その比較を行うことが絶対額を見るよりも大切かもしれません。つまり粗利益率とも言いますが、売上総利益率がどのように変化しているのか、増減を見ながら取引相手との交渉、経費率の変化を見ることによる、経費削減項目の見直しなど、経営者としての目も養ってほしいと思います。大切なのはポイントを押さえて経営判断を行うことです。
本来なら月次決算を行いながら、事業にいそしんでいただきたいのですが、農業に関しては月中での数字把握はむつかしいと思います。しかし営業するということは月半ばで、その月の終わりの結果がどのようになるのか、売上動向を把握しながら次の手を考える必要があるのです。近隣スーパーなどでの催事販売などに参加したり、軽トラ市に参加するなど自ら売りに出るなど工夫が必要です。せっかく努力し栽培した農産物を残さず、売り切るためには栽培の途中途中で、つまりは月の半ば半ばで販売の状況を把握しながらいろいろな手段を講じる必要があるということです。観光農園などの支援でも、期間が短い場合などでも期中管理をすることで、追加の集客対策を練ることなどを提案しています。

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農業読本 【2】農業で儲ける・成功する

2021-01-07 10:13:39 | 独り言
①売上公式の深さを知る
 いろいろなセミナーや農家での支援を行う際、売上公式を必ず説明することにしています。農業で成功するためにはこの公式を忘れては、ご自身の事業を考えることができません。
売上公式とは、
売上=販売価格×販売数量
のことです。
いつ頃に学んだ公式でしょうか。しかし、この基本公式をしっかり頭に入れて商売を行っている方のなんと少ないことでしょう。
商品を販売することによって売上が上がり、初めて利益を生むわけですが、商品の一つ一つにつけた値段が販売価格であり、その売上が利益に結び付き、そこに農家の儲けが含まれていること、そして数量は販売した数量であり、生産した数量ではないということ、当たり前のことですが、この関係をつい忘れて農家の皆さんはものづくりにのみこだわりがちです。結果、値付けが分からない、ロスが多いなどと悩む方が多く存在します。
お蔭で小生のような者でも仕事がいただけるわけですが、儲けるためにはこの基本を押さえていただきたいと思います。
 納品先が道の駅であろうとスーパーであろうと、顧客に買ってもらうためには、良い品質の商品を「お値段以上」の価値があると判断して買ってもらう必要があります。
 しかし、値段を勝手に上げるだけでは販売につながりません。そこに付加価値、「ストーリー」が無いと顧客の買おうという共感を得ることはできません。
 次の項で詳しく述べますが、価格設定で、直接生産に掛かった経費しか計算しないで値段設定をする方がいます。ご自身の時間給はいくらに設定しているのでしょうか。儲けることが悪いことではないといつもお話ししています。
「儲」の字を分解すると「信者」となります。事業を成功させるためには自らのフアンを作らないと売上は上がらず、利益にはつながらないわけですから、儲けることが悪いことではありません。年齢の高い方や女性の経営者の中には儲けることに対する罪悪感を持つ方がおられますが、そうした説明を行い理解してもらうことにしています。
では皆さんが努力して生産した商品を、どのように販売すればよいのでしょうか。
②価格設定について
競争が激しい中で勝手に値段を上げるわけにはいきませんが、最近は道の駅でもそれなりの価格設定でしっかりと新鮮な商品を販売して、利益を上げているところが増えてきました。むしろ安い価格では売っていないところが多いのではないでしょうか。生産者の名前を明示しながら、POPなどで、新鮮さやおいしさを訴求しています。
朝採りであったり、水のおいしい環境であったり、無農薬(特別栽培の表示)であったり、有機栽培であったり、いろいろな情報を提供しながら販売していることに気が付きます。生産への努力をそうした情報発信で付加価値を顧客が感じる価値つまり「顧客価値」として考えて販売しているのです。
値付けをする場合に積み上げ方式もあれば、競合農家への同調価格の設定もあります。儲けるためには、努力に見合う価格設定をしなければ利益を生み出すことはできません。そのためにはその努力を販売する商品を見れば分かるようにし、情報発信のツールなどを活用し説明する必要があります。多くの消費者・顧客にフアンを作ることで自然に販売数量が増え、売上が上がります。そのための努力をどのように商品や情報提供で行うか、それがものづくりの課題です。
ではどのように値付けをしていけばよいのでしょうか。
■販売価格を上げる
販売価格の設定について農家の方の多くが悩みを持っておられます。自ら直接小売業を営む方は少なく、道の駅に出品したり農協や仲介業者を通じて販売したりするやり方が多いと思います。農協では集荷した農産物に対して一定の金額を支払う方法を採っていますが、取り扱い量も多いため、農産物の等級など一定の基準で一律に価格を決め支払いを起こします。そのため、優良農家などは流通業者が直接取引を行い、囲い込むことで少々高めに仕入れを行うケースが見られます。
店頭で農家の固有名詞(名前)を使いながら販売し、農家の名前がブランドになっている事例があります。コメの販売では最近、直接農家から購入する個人客が増加しています。郵送料を支払って購入しても、生産者が分かるおいしくて安全なお米が直接手元に届くから非常に便利で、わざわざスーパーなどで買う必要がなくなります。この方式に対抗するために、流通業の店頭では小分けにしたりパッケージを変えたり、涙ぐましい努力が行われています。百貨店やスーパーなどの食品売場だけではなく、インテリアショップなど思わぬ店舗での販売がお米だけではなく、最近はいろいろな加工食品にもみられるようになってきました。

売上公式で分かるのは、みずからの栽培面積が決まっているわけですから、収量が実は決まっているということ。したがって面積を見れば栽培している品種などで、年間売上はある程度決まってしまうということです。販売数量が決まっているのなら、売上を上げ利益を確保するためには、付加価値のある商品を作り、販売しなければ、毎年同じ売上か、むしろ少なくなりかねません。価格設定で今よりも高く販売したければ、いかに商品に付加価値をつけるか、工夫やそのための努力が求められます。
 徳島のいちご農家では大阪の中央卸市場で一粒1,000円のいちごを販売しています。「幻のいちご」として数量は少なくとも、付加価値生産をうまく生かした販売を行っているわけです。さらには少数の農家でその上を行くイチゴを栽培、その名は「さくらももいちご」です。いちごに関しては日本国内のいろいろな場所で本当に多種多数のおいしいいちごの栽培がおこなわれていますが、岐阜県羽島市の奥田農園では「美人姫」という一粒5万円もするいちごを開発販売しています。
 すべての農産物にこだわりを持って付加価値生産を行うのは、実は体力的にも費用的にも負担やコストがかかるものです。一つの畝、ある部分の果樹、努力できる範囲での付加価値生産をお勧めしています。その部分の収穫した商品に対しては、それなりの価格設定を行い、商品構成の価格帯を「松・竹・梅」などのランク付けをして販売するわけです。いわゆる「松竹梅の法則」の活用です。
 工夫し努力した分、付加価値を乗せた価格での販売を目指す一つの方法ではないでしょうか。そのランクに応じて販売先を変えることも可能ですし、一つの売場で少し高額なものから比較的価格のこなれた商品まで、いろいろな顧客を集客し販売することもできます。
③生産・販売数量について
 限られた圃場での生産数量は限られています。だからといって勝手に価格を上げても売上は上がりません。販売の現場には競争相手がいます。ではどうすれば価格を維持したり、上げながら、生産数量を増やすことができるでしょうか。
 最近では植物工場でも、例えばほうれん草の収穫が年19回ほどになっているなどとの報道があります。長野県のH園芸はオリックスとの合弁で平成26年10月から出荷を開始しており、その成果に期待しています。豪雪被害など再度受けないことを祈っています。
面積を広げたり収穫量の拡大を目指したり、収穫効率を上げる方法はそれなりにありますが、身の丈に合った運営をしないと、人手不足で苦労したり、人件費倒れになったりします。そのうえで、生産数量=販売数量に近づけるためには、売れ残りをなくし、B級品を抑える必要があります。B級品を少なくして販売に持っていけるか、また「もったいない」からB級品をいかに活用するかも課題になります。すぐに6次産業化を頭に浮かべ、B級品を加工品にしようとするのは問題です。これに関しては後述します。

■販売数量を上げる
販売数量を上げるためには、面積を増やして収穫数量を上げるか、収穫効率を高めるしかありません。売上公式はシンプルですが、自らの事業をどのように維持し、拡大していくのか、事業推進の基本となるものです。
最近は販売数量を上げるために海外に進出している企業も少なくありません。
事例を挙げると、銀座農園、ジャパン・ファーム・プロダクツ等シンガポールやカンボジアなどに進出し、地元のスーパーやイオンなどの日系スーパーに販売、さらにはまたそうした地域で現地の方に農業を教える人たちが出てきています。地元で栽培したものを地元のスーパーや日系スーパーなどで販売するだけでなく、日本からも農産物や果物を輸出しています。東南アジアでは日本の商品は好評で、日本の倍くらいの価格でも販売されています。加工品においてもしかり、現地に対応した独自の加工品ブランドで販売を行う企業もあれば、世界中同じブランドで販売している日本企業があります。ビジネスモデルとしてどのような形態で販売するか、進出するかは、それぞれの企業などの事情にもよると思われますが、大いに農業の事業化を推進していただきたいものです。
 また後述しますが、ICTなどを活用した「スマート農業」などへの挑戦も行い、オランダに負けない生産効率の高いおいしい農産物作りによる収量の拡大などにもトライしていただきたいものです。

④損益分岐点の必要性を知る
 農業生産や販売・販路開拓などいろいろなセミナーを担当する機会がありますが、農家の皆さんが課題とされるなかで価格設定の問題があります。
 よく言われるのが、「こだわりの農業を進めるたびに経費が掛かり儲からない。」「人材も不足している。」「積み上げ方式の価格設定では、競争相手に勝てない。」「取引先からはコストダウンを要求される。」などの言葉です。
あるコンサルタントの「農業で成功するためのセミナー」では固定費と変動費について学び、損益分岐点の把握の必要性について教えています。しかし農家の皆さんが、経営に関してどこまでいろいろな数値の把握をされているでしょうか。そもそも固定費や変動費をわざわざ算出して経営を見る時間はあるのでしょうか。少なくとも掛った経費は把握していると思いますから、売上からその経費を引けば、いくら儲けたかくらいは把握できます。そうすればザックリとしたご自身の売上に対する利益と儲けた利益率の把握ができます。ご自身の生活費をどれくらいほしいか目標を立てれば、それも経費に含み、その利益率で割れば、必要な年間売上が算出できます。
 仮に売上が500万円あり、掛けた経費が350万円とすれば、粗利益は150万円あったわけですが、生活費はそれで足りるでしょうか。兼業農家の多い地域では、別途収入がありますが、専業農家の皆さんは、その利益金額が年収ですから、それで生活する必要があります。売上がいくら多くても経費がそれ以上なら赤字で生活できません。倒産企業の多くが赤字補てんの借金をし、払えなくなり事業をたたむケースが見られます。計数はシンプルに把握する必要があります。
どれくらい儲けたいから、いくら販売する必要があるか、そのためには年間何をどれくらい栽培し、販売しなければならないか、それをどこで販売するか、しっかりと計画し、販路を持つことが求められます。さらにはリスク管理が求められます。最近のように自然災害が多発すると、大きな負担を強いられることになります。手元準備金も必要です。こうしたことに、先ずは計画を立て、着実に実行していく姿勢が必要です。毎日の苦労をその努力に見合う収益とするためにも、基本公式を理解し、そのために目標設定を行い、どのように事業を進めていくか、後述する農業経営におけるマーケティングの基礎知識だけは持つようにしたいものです。しかし日々の忙しさを考えると、経営に必要な数字だけでも把握する必要があります。経営をむつかしくしないことが重要です。
 
 農家の支援を行っていると、最近は県によっては普及員の方が「農業簿記」を教えるところも出てきています。ほとんどの農家が仕分けや記帳などの煩わしいことを嫌い、税理士さん任せにされています。それはそれで自分の事業を把握していただいておればよいのですが、自分が時給いくらで働いたことになるのか、儲けはいくらくらいになるのかなど、あいまいな方や把握していない方が多いのに驚きます。
 トラクター1台は幾らとか、米1表は何キロでいくらくらいかは、把握されていますが、事業の結果いくら儲けたのか、なかなか把握していないのに驚きます。
農業にはいろいろな支援制度があり活用することで、逆に真の利益がどれくらいになるのか、把握できない状況なのかもしれません。
 最低限自分の事業のコストがどれくらい掛っており、年間売上からそれを引くといくらになり、自分の時給は幾らと計算できるのか。生活するためには本来幾らの原価でいくら最低限儲ける必要があるのかなど把握したうえで、だからどのように自らのビジネスモデルを構築していくのか、工夫をしてもらいたいものです。
 農家の支援を行う際、農産物別に月別の生産から収穫までのガントチャート(表)を作ってもらい、それぞれの農産物ごとに販売先を数量や売上ごとに記述し、それぞれの合計から年間売上や目標設定を行うよう提案をしています。
 参考に簡単な表を載せておきますので、自らの目標設定などに自らの表の制作を行い、事業推進の参考にしてください。その際作物別の合計、販売先別の合計なども忘れないようにすることです。
 作物別の季節別生産チャートは商談会等で役に立ちます。バイヤーに年間を通じてどれほどの量が供給できるのか一目瞭然で理解してもらえます。仲間を募って、地域としての出展の際などにも役に立ちます。この表こそご自身のビジネスモデルを表しています。青色申告をされている方は、その記帳にも連動していることがお分かりになると思います。できることなら各月別・品目別に労働時間を集計しておくと、雇用やアルバイト・パートの方をどのように採用する必要があるかも把握できます。
(つづく)
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農業読本 【1】農業の基本

2021-01-06 15:00:15 | 独り言
①食へのこだわり 
 農業に携わる皆さんは生産者であり、また消費者でもあります。私も歳を取るにつれ食に対するこだわりが増し、おいしい食を探し求めていろいろなお店で自慢のメニューを味わって楽しんでいます。
皆さんがちょっとこだわった食事を楽しもうと思い、レストランに行ったとします。その店のシェフやオーナーは、どのようなこだわりを持って、その店のメニューを提供しているでしょうか。
 お店のメニューやHPなどで、どのような言葉でそのこだわりを表現しているのか、そして写真やパンフレットなどで、どのようにその「味」を表現しているのか。一流のお店になると、丁寧にそのこだわりを表現してくれていますし、最近の「食べログ」などの情報提供ネットのグルメサイトなどで店舗検索すると、メニューだけでなく部屋の内部やトイレの様子まで店舗内情報を細かく教えてくれます。
 ミシュランで三ッ星を受けているレストランのHPなどを見ると、地元産の食材、生産者の紹介、おかれた環境の中でのものづくりへのこだわり、農薬や肥料、水に対してまでも、提供する「味」に対してのこだわりを表現しています。   皆さんは客としてどのような部分に共鳴しその店を利用しているでしょうか。提供されたお店の調理法、メニューの味付け、食材に対するおいしさはもちろん、その食材の栽培環境、加工の安心・安全、提供される器や盛り付け、部屋の雰囲気などいろいろな部分にこだわりを持って訪問していないでしょうか。
 若い方たちは、ネット検索し、その店を探すことを楽しみ、お店での食事の時間や空間、そして味、会話等を楽しみます。さらには食後の感想や写真をインスタグラムにあげSNSなどでシェアするなど、多種多様な食事の楽しみ方があり、その楽しみ方も時代とともに変化しています。そうした変化に気づいて、食や情報を提供しているお店こそ、多くのフアンを集めているのです。
②どこで食べる
 辻調理師学校の先生に教えていただきましたが、ミシュランのフランスでの星の数と日本の数は実は総数で日本の数が多いとのこと。
 それだけおいしいレストランに恵まれている日本、それならそうした店でどのような食材がどのようなこだわりで使われ、どのように提供されているのか、
学ばない手はありません。そこに多くのヒントが隠されている気がします。
地元○○さんの旬野菜、水がおいしい、農薬不使用、それこそシェフが消費者に訴えるキーワードが並んでいます。消費者がその言葉に共感し、おいしさにリピーターとなってその店を有名にしていきます。そうした連鎖を生むキーワードは何か、それを理解し実現することが生産現場に最も必要なことではないでしょうか。
 展示会や商談会などでFCP商談会シートを拝見する機会が非常に多いのですが、展示会会場でほとんどの農家はただおいしいから食べてほしい、買ってほしいとバイヤーに話し、ご自身が努力して生産したモノづくりの「ストーリー」についての話はほとんどありません。
 農家の皆さんは農業生産やものづくりの現場でどのようなこだわりを持って、日々の生産にいそしんでいるでしょうか。
 消費者目線で生産する必要性をどこまで感じているかによって、販売の店頭での売上に差が出ます。生鮮品でも加工品でも、そこに「顧客価値」を意識した「ものづくりのストーリー」が無ければ、消費者に受け入れてもらうことができません。後述しますが、この本では一貫して「顧客価値」への認識と、「ものづくりのストーリー」の重要性を説明して参ります。
 しかし結果として農業も経営ですから利益を生む必要があります。過剰な投資や出資が首を絞めてはせっかくの努力が水の泡となります。
6次産業化への挑戦に際し、コンサルから販路を約束してもらい700万円という費用を請求された農家があります。商品のブランド化、チラシ、パッケージなどデザイン的には優れた提案であっても、商品の価格が1,000円未満の商材で、資金の回収だけで何年かかるというのでしょうか。
 身の丈投資の必要があります。かっこいい提案に金額の多寡も忘れ飛びついて苦労をする農家が小生だけでなく、知り合いのプランナーの支援先にもありました。
 農業マーケティングとういう言葉があるのか分かりませんが、難しいことは分からずとも、商売の基本は押さえておきたいものです。
 では、どのようにして農業で儲けることができるのか、先ずはそのあたりから話を進めていこうと思います。
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農業読本 はじめに2

2021-01-05 10:34:45 | 独り言
現在セミナーで一番話題に取り上げていることからお話ししたいと思います。
皆さんはアマゾンがなぜアメリカの自然食品スーパーマーケット「ホールフーズ」を買収したと思われますか。ネットの企業がなぜリアルな店舗を買収したのか。セミナーではいつもこの話題から始めます。本文の中でホールフーズの内部の写真などもご紹介しますが、アマゾンの怖さを知る必要があるというより、アマゾンの事業戦略を見続けることがこれからの流通の変化に対応できる手段になると考えられます。すでに多くのアマゾンについて語られた本が出版されており、小生のような素人が話すべきものではありませんが、流通の変化、アマゾン効果(エフェクト)などの影響を見聞きするにつれ、これからのいろいろな変化にどのように対応していくべきかを知る手掛かりになるのではと思うからです。ニューヨークやハワイ、ロスアンゼルス、サンフランシスコ、さらにはカナダのバンクーバーなどでホールフーズだけでなく有名百貨店をはじめウォルマート、コストコ、セーフウエイ、シアーズなどのスーパーを見てきましたが、世界一の小売業ウォルマートでさえ、ストアーズの名前を消し、店舗だけでなくネットでの販売で対抗せざるを得なくなった「アマゾン・エフェクト」。
日本では物流量の多さ等からクロネコヤマトの値上げをアマゾンが飲まざるを得ないような言われ方をしていますが、海外の動きを見ていると日本の物流もいつかまた変化していくのだと思わずにはいられません。アマゾンがジャンボ輸送機を何機保有しているか。ドイツなどの空港入札で空港自身を手に入れようとしていたか、実際には中国企業に入札で負けたりもしていますが、世界「地図」をにらんだ戦略は日本の物流をあっという間に変えていくと思われます。ドローンや倉庫の中などでのロボットの活用、2018年⒑月には関西の茨木市に大型センターが開設され、2019年4月から本格的な稼働が始まりました。そうした表面的な部分の変化だけではなく、アマゾンフレッシュの動き、今後の生鮮品などの販売など、現在はスーパーのライフやクックパッドなどと連携、ネットで販売するために月額4,800円の手数料で可能にするなどいろいろな生鮮品などの販売に力を入れようとしています。ホールフーズは売上1兆円以上の自然食品取り扱いの大型スーパーですでにネット販売のノウハウを持ち、しかもMBAのケーススタディなどにも使用される話題の豊富な企業ですが、日本のスーパーでも行われているように、店頭を倉庫代わりとして販売できるようにし、受注商品を直接店頭から新鮮なまま配達するシステムはどこでも考えていること。配達内容というより、購買内容のビッグデータをアマゾンでは蓄積し分析、個人のライフスタイルを分析することで、リコメンド(お勧め)商品を提案したり、事前に届けたりいろいろなシステム上の特許を取得していることの怖さを知る必要があります。カナダのホールフーズで初めてアマゾンの「アレクサAIスピーカー」の販売されているのを見て気が付きました。アマゾンは顧客の囲い込みを目指している。そのために生鮮食品スーパーでAIスピーカーを販売、顧客のすべてのライフスタイルを把握しり利便性を訴えチャーンレート(解約率)を低め、顧客の囲い込みを目指しているのだと。消費者としてうまく活用するのか、ライバルとしてどのようにそうしたアマゾンの戦略に対応していくのか、アマゾンのいろいろな「サ-ビス」を知る必要があります。プライム会員になって、サービスを活用しながら、いつの間にか彼らの「思うツボ」顧客になってしまう「怖さ」。アマゾンと組んでそのシステムを活用する農家も今後はたくさん出てくると思われます。お互いにデータをうまく活用し、どのようなWIN-WINの関係を作っていくか。アマゾンの怖さを知りその「プラットフォーム」をいかに使ってビジネスとして成功していくか。どのようにアマゾンというネット企業と、リアルな店舗を生活の中で利用していくか、我々の生活自体にも課題を投げかけられていると思われます。
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