6次産業化に関する提案を以前「大阪農業時報」に投稿したことがあります。実際の掲載内容はBLOGの「6次産業化への課題」からを短縮したものですが、加筆修正した内容全文を掲載します。6次産業化は現在農山漁村発イノベーション事業と名称変更されていますが、6次産業化の方が分かりやすいと思いますので、ここではそのまま6次産業化という言葉を使います。
「地域に雇用増をもたらす6次産業化について」
(1)少ない成功事例と成功の基準
農業に真剣に取り組む若者たちの姿を見るにつけ、何とか事業として成功することを祈り、少しでもその役に立てればと私は6次産業化の支援活動を続けています。
「6次産業化総合化事業」の認定事例は数多く発表されていますが、成功事例がまだまだ少ないのが現実です。
成功の基準は道の駅や産直市場で販売するのではなく、全国スーパーマーケット(以下SM)、百貨店は究極の販売先であるとしても、少なくとも「地場SM」、「地方SM」の定番商品になることにあります。なぜなら、地場SM、地方SMの売場に定番品として並ぶということは、「品質優×量産化に成功×コストダウンの実現×価格体系の設定×味が良い×原材料の安定確保×企業組織の確立」といったことが確立された証左であるからです。
6次産業化がなかなか成功という状態にならない理由を、今までの支援の経験から見ていくことにし、事業を成功に導く提案をしたいと思います。
そもそも6次産業化とは、農家や農業法人が1次産業としての農林水産物の生産、2次産業としての加工、3次産業としての販売までを行う一気通貫の体制を指しています。
農産物の生産に関してはプロであるのですが、なんといっても課題はその後の加工→販売の工程にあります。すべてを自ら行うのではなく、誰と組むか、どのようなビジネスモデルを選択・構築するかで、結果は大きく異なってくるのが経営というものです。
上に示したように成功の基準は明確になっています。ここに到達するのは至難のわざですが、これにチャレンジしているのが、6次産業化であるのです。地域にお土産品が一つ増えたという次元で喜ぶ人はいないと思います。雇用が増えてこそ、意義のある6次産業化であるといえるのです
(2)6次産業化への課題
6次産業化の課題としては次のものがあります。
①安全・安心なモノづくり→品質面において消費者が求める安心・安全な商品になっているか?
②加工場の衛生・工程管理→加工場が安心・安全なモノづくり対策が十分できているか?HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を行っているか?
③セグメンテーション→開発する商品が既存の商品に対して、差別化されているか?優れた特性を有しているか?
④流通チャネルの設計・設定→加工した商品を目指す流通チャネルに乗せることができるか、販路開拓ができているか?
⑤商品の出来栄え→ネーミング、パッケージ、ブランドなど流通に乗るレベルの商品になっているのか?
⑥商品の生産量→消費者やバイヤーに的確に商品や情報を届けることができるか?
⑦価格体系→流通に乗るコストであり、かつ価格体系を確立しているか?
⑧マーチャンダイジング→ブランド戦略、ネーミング、原材料の確保など商品づくりの手立てはできているか?
⑨そもそも「経営能力」を有しているのか?経営能力を養成しようとしているのか?
(3)経営課題と、その解決法
1)ものづくりについて
たとえば、農産物の規格外品を「もったいないから」という理由で、ジャムやジュースなどをつくっても、SMや百貨店では売れません。
売れない理由は
・(規格外のため)安定的な供給がむつかしい
・セグメンテーションを行って他の商品と差別化していない
・原価が高く、流通に乗らない
・味・香り・栄養素などを吟味していないから、消費者やバイヤーから支持を得られない
ということになってしまうのです。
食品にとって
・おいしいのは当たり前
・異物混入がないのは当たり前
・食品の材料、添加物、加工方法等が吟味され、安心・安全というのも当たり前
というのが、日本の消費者の現実です。
このような基本的なことができた上で、既存商品との差別化が必要とされているのです。
しかし、6次産業化農家のほとんどが、家内手工業的な加工場で細々と手作りで、加工品作りを行っているのです。保健所の許可を一応は得ていたとしても、一連の作業の中で、加工環境に心もとない場面を多々見てきました。加工については農業法人といえども例外ではありません。
重要なことは、顧客価値を意識したものづくりであるのです。6次産業化の推進を図るのなら、元の農産物の生産に対するこだわり(環境、土壌、水、農薬など)の上に立ったおいしい農産物、新鮮な農産物から加工品を作り、流通ルートに乗せるべきなのです。
加工場については、集塵機、無塵衣、エアーシャワーなどは当たり前のことです。密閉による外から虫よけ、常に頭巾やマスク、手洗いの励行、清潔な手ぬぐい、こうした心遣い、気遣いがどこまで行われているか、製造業でいわれる4S(整理、整頓、清潔、清掃)が、躾というよりも「習慣づけ」を加えて、5Sとして守られているでしょうか。そのうえでHACCPの考え方に基づく衛生管理が行われているか、データをきちっと取って生かしているかが重要です。
2)展示会について
展示会などのマッチング会を開いても
・希望する流通企業と商談が成立しない
・「また連絡します」とバイヤーに言われてただ待っている
という状態が多いのです。
農水省にフード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)という組織があり、そこが「ベーシック16」という考えを打ち出しています。それに基づいて商談会用のシート(FCPシート)が作成されています。しかし、6次産業化農家からすると、経験上当たり前だと思っているのか、このシートが未だに完全に作成されていないのです。自分では普通と思われている生産過程を見直して、しっかり記述をしてほしいものです。そこには実はバイヤーや消費者が知りたい情報が隠れていることがあるのです。
さらに商談会を開く側にも責任があります。ただ農家や農業法人を集め商談会を開き、いろいろな企業のバイヤーを呼んでも、どれほどのマッチング機会を生み出すことができるのか、流通の事情も分からないまま、展示会を開催するところがあります。やらなければならないからやっているということでいいものなのでしょうか?
3)流通事情
百貨店とSMのバイヤーの行動は違います。
百貨店のバイヤーは、長年の経験から、いつどこでどのような農産物や加工品等が作られ市場に出てくるかを知っています。このため、旬を売場に反映すること、珍しい商品などに眼目を置いています。一方、SMのバイヤーは、季節ごとに売場基本レイアウト図を変更して、品揃えを刷新し、売上の最大化を図っています。
バイヤーが忙しいのは、限りある自店の棚を最大限に効果的に活用するために、天候・温度・湿度などを想定しながら、超稼ぎ筋、超売れ筋、特売品、新商品などを組み合わせて、売場に表現しているからです。
SMや百貨店では、よく見られる農産物直売所や道の駅のように、午後になると空きスペースが出てくるようなことは許されないのです。年間20億円以上販売する直売所や、それ以上の売上高を獲得しているSM、百貨店などは、常に商品の品出しを行って、売場を維持・充実させています。
朝商品を納め夕方引き取りに来るような取引では集客や売上には限界があり、運営方法等の見直しが必要なのです。
6次産業化に挑戦する場合、欠品を起こさない、ロスを出さないというものづくりの原点からの意識改革が必要です。
開発商品はどこでどのような顧客にどのように食べて欲しいのか、しっかり考えたうえで、生鮮品の販売、加工品の販売について工夫し、集客方法についても努力していただきたいところです。
4)6次産業化を成功させるために
6次産業化事業を成功させるためには、次の対策が必要とされています。
①既存商品に対する差別化点を明確にする
②土、苗や種、農薬、肥料等元となる生産物のものづくりへのこだわりをもつて、「おいしさ」を追求する
③消費者・バイヤーがなるほどと思う展開ストーリーが必要である
④徹底してHACCPの考え方に基づく衛生管理を行い「安心・安全」の加工品を作る
⑤セグメンテーションを行い、既存商品とは異なる特長をもっている
⑥将来の取引拡大を意識した加工場への設備や機器の整備・投資を考慮する
⑦ネットワークを生かす
⑧まず顧客をイメージし、どのような顧客にどこでどのような商品について食べてほしいか、買ってほしいかを考える→使用場面
⑨商品のネーミング、パッケージ、シール、チラシに至るまで、総合的な基本計画を作成したうえで、情報発信を心掛け挑戦していく
5)支援センター(サポートセンター)や行政への提案
支援センターや行政等、事業の認定側も以上述べてきましたように
・商品のセグメンテーション・ストリー性
・異物混入を防ぐ方法の確立、HACCP支援
・材料の安定的な確保
・商品の特長・こだわりの明確化
・販路・販売チャネルの設定
・継続的な取引が可能な安定的な製造
といった点まで支援しながら認定にもっていき、事業を成功させてほしいものです。
単に「自分で生産し、加工し、販売しなさい」ではなく、どのようなものづくりをし、どのような販路で販売するように工夫するかまで、支援センターがあり農山漁村発イノベーションプランナー(旧6次産業化プランナー)がいるのですから、そうした支援の工夫を行った上で認定にもっていっていただきたいものです。
6次産業化への農家等の挑戦を成功させるためには、いろいろな方法はあると思われますが、行政もいかに日本の農業の活性化を進めるか、支援活動を行っていくか、6次産業化(農商工連携等も含め)の認定方法や推進方法に対してより一層の工夫をしてほしいと思います。
それは、単に生産者の支援だけではなく、食や観光等との総合的な連携も必要となります。個人や企業等、点で支援を行うだけでなく、今後はもっと面的な支援の必要性もあるのではないでしょうか。地域資源の活用は本当にできているのか、単に認定に終わっていないか、そのまま認定して放置されていないか、いろいろな県や市町村と仕事をするたびにアフターフォローの重要さを感じます。
6次産業化は、日本の農業生産に経営そのもののあり方、ビジネスプランの策定、マーケティングなどの知識を据えないと6次産業化は成功しないと思います。
前回でふれましたが、事業再構築補助金のように加工場などにも補助金が出る支援は限られています。行政の皆さんに対しても企業の加工場支援のための補助金はありますが、何といってもせっかく農山漁村発イノベーション事業として名称変更されたのですから、加工場等への投資に関して前年度に計画をヒアリングし、次年度に予算化するのではなく、毎年申請に対しての認定を行う事業再構築補助金のような内容に制度変更していただきたいと切にお願いする次第です。今のままでは応募はしりすぼみで終わるのではないかと危惧します。