その日の事件は子どもを保育園に送りに行く玄関で起きた。
とにかく急いでいた。
缶ビンの日。ゴミを捨てなくてはいけなかった。
コートに腕を通し、
手には鍵と、缶びんのゴミが入ったビニール袋を持つ。
そして子どもに靴を履くように言う。
そこで、
ここ最近白いコートを着すぎていて
薄汚れてきているな
と感じたもので、
黒いダウンジャケットに着替えていると
子どもの運動靴の底が抜けていて砂が入ってくる
という話を思い出す。
そこから
今日は年末最後の缶びんゴミの日だわ
捨て忘れているものはないかしら
と、
冷蔵庫に捨てていない醤油瓶があるのを思い出す。
大急ぎで
台所に戻り、
醤油瓶のビニール製のふたを手で苦労しながらちぎってとり、
中をあらって、
ああ、
なんとか…
とここで気がついた。
あれ?
鍵はどこに行ったっけ?
自分の服が持つ全部のポケットを漁ってみてもない。
ざっと見渡してもない。
おかしい。
コートを着る前には持っていたはずなのに
今は手に醤油瓶とビニール袋しか持っていない。
たったの3分くらいの間に
狭い範囲で
鍵をなくしてしまった。
しかたなく
合い鍵を持って、
家をでたが、
さて
鍵はいったいどこに消えたのか。
まず、帰ってきて
ゴミが入ってたビニール袋を見ました。
焦った拍子に入れたんではないか
と。
ない。
つぎに、台所回りです。
醤油瓶をこじ開けたときに
両手を使っているわけですから
そのときには
手にひらに鍵を持っていなかったはず
ということは回りにぽんと置いた可能性がある。
醤油瓶をこじ開けたカウンター
中身を洗ったシンクのまわり
また調理ばさみを使ったので入っていた引き出しも
くまなく見ましたが
やっぱりない。
となると
あと触ったところと言えば
冷蔵庫。
まさか…
と開けると
残念ながら、やっぱりない。
その朝の行動を
よおおくよおおく思い出してみて
気が付きました。
コートを着替えたな。と。
まさかと思うけど、
念のため着替える前の白いコートのポケットを探ると
あった。
わたし、醤油瓶を思いつく前に無意識にポケットに鍵を入れていたのです。
そうちょうど
子どもの靴を買わなきゃと思っているときに。
そのことを気付けたときに
自分を名探偵ね!
と褒めそうになりましたが
そもそも簡単に鍵なくしてんじゃないよ
とすぐに自分を戒めました。