
7月6日、ブラジルのリオデジャネイロで開催されたBRICSサミットに中国の習近平国家主席が欠席した。
BRICSサミットは米国ら西側先進国パワーに対抗するグローバルサウス勢力の核心になると期待されている。
BRICSは中国主導の組織といってよく、習近平が欠席し、李強首相が代理出席するというのは不可解と、福島香織さん。
中国側は習近平欠席の理由については説明していないと、福島さん。
習近平としては仲のよいプーチンが欠席しているうえに、インドのモディ首相がブラジルの国賓として出席することも、欠席したくなる要素かもしれない。モディが習近平より格上に扱われるのは、プライドが傷つけられると。
しかし、習近平の欠席が、プライドの問題や習近平の気まぐれでないとすれば、一体何が原因なのかと、福島さん。
まことしやかにささやかれているのは習近平の健康不安説だ。この問題は何年も前からくすぶっていたのだが6月中旬ごろ、再びこの噂が盛り上がっていたのだそうです。
6月16日、習近平がカザフスタンで開催された第2回中国-中央アジアサミットに出席した時、カザフスタンのトカエフ大統領は、習近平に対し、その誕生日(6月15日)に合わせた訪問であったことにふれ、「習近平氏の健康と家族の幸せ、そして国を治める上でのさらなる成功を祈る」とあいさつした。
ところが、一部チャイナウォッチャーたちの間で、このあいさつの言葉は、尋常ではない、と話題になった。
というのも中国の新華社などでは、トカエフの「習近平氏の健康(身体健康)を祈る」という祝辞は報じられていないのだ。カザフ国際通信でのみ、この発言が取り上げられていた。それで、中国公式メディアは、習近平の健康に関する言及はタブーになっているのではないか、という憶測が流れたのだそうです。
習近平の健康問題については、2012年に政権トップの座に就いて以来、ずっとさまざまな噂が飛び交っていると、福島さん。
習近平は公式行事や外遊のとき、よろけたり、何もないところでこけたりすることがしばしばあり、健康に問題があることは長らく信じられていたのだそうです。
ただ、こうした習近平不健康説は、党内から意図的に流されているふしもある。なので、こうした噂は習近平の早期引退に筋道を開こうという狙いがあるのではないか、という見方があると、福島さん。
人事といえば7月1日に発表された新疆ウイグル自治区書記、馬興瑞の突然の更迭だ。後任は中央統一戦線部副部長の陳小江。
馬興瑞は、いわゆる軍工系といわれる宇宙航空関連の専門家で、中国航天総公司や中国航天科技集団の幹部を歴任してきた。
習近平は2012年に政権トップになって以降、こうした軍工系と呼ばれるエンジニア出身の官僚を重用してきたが、馬興瑞もその一人。
2021年12月に新疆ウイグル自治区書記となった。
当時、馬興瑞は2027年の第21回党大会で政治局常務委員入りすると目される出世株だった。だが新疆ウイグル自治区書記になって3年半という中途半端なタイミングで更迭。
これは事実上の失脚と見ていいだろうと、福島さん。
この2年の間に相次いで起きている軍工系高官の失脚、あるいは失踪と関係があるのではないかとも。
馬興瑞の後任・許達哲も昨年11月から8カ月にわたって「失踪」中。
ロケット軍幹部、解放軍ロジスティクス系の汚職事件から取り調べを進めて、軍工系企業幹部や軍工系官僚の関与が芋づる式に摘発されていったと言えるが、彼らは全員習近平や夫人の彭麗媛の推薦で抜擢された習近平人事であり、これは習近平の政治的失策であるということに他ならないと、福島さん。
もう一つ、習近平権勢の凋落を示す人事としては、中央組織部長(党中央人事担当)の李幹傑と、中央統一戦線工作部長(対外工作担当)の石泰峰を入れ替える異例の人事が4月に行われていたのだそうです。
習近平人事の失敗、見直しの必要性に迫られた結果とみられると、福島さん。
さらに、中央軍事委員会副主席の何衛東の「失踪」問題。
昨年暮れに失脚した元中央軍事委員で政治工作部主任の苗華失脚に連座して取り調べを受けているとみられているが、苗華も何衛東も習近平が抜擢して中央軍事委員会入りさせた習近平人事だ。彼らの失脚は習近平の失策、ということになると、福島さん。
オーストラリア在住の華人学者の袁紅冰は、紅二代ファミリー(革命家たちの子孫)が党中央幹部たちと連動して、習近平に引退を迫っている、と党内筋の話として語っている。そういう動きが本当にあるとしても、クーデターといった派手な動きの気配はないので、習近平自身が、健康問題などを理由に穏便に引退する道を模索するのではないかというのが一つの見方としてあると、福島さん。
今回のBRICSへの習近平欠席の理由の真相は何だったのか。
習近平の健康不安説は、事実なのか。習近平に引退を迫っている勢力による、クーデターではなく穏便に引退する道への誘導なのか。
要注目ですね。
# 冒頭の画像は習近平が欠席したBRICS

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BRICSサミットは米国ら西側先進国パワーに対抗するグローバルサウス勢力の核心になると期待されている。
BRICSは中国主導の組織といってよく、習近平が欠席し、李強首相が代理出席するというのは不可解と、福島香織さん。
中国・習近平、BRICSサミット欠席の謎…健康不安説が再燃、相次ぐ幹部の失脚・失踪で権勢弱まり早期引退か | JBpress (ジェイビープレス)
福島 香織:ジャーナリスト 2025.7.8(火)
BRICSサミットが7月6日、ブラジルのリオデジャネイロで開催されたのだが、中国の習近平国家主席が欠席したことがいろいろと憶測を呼んでいる。BRICSサミットに習近平が欠席したのはこれが初めて。
米中新冷戦構造が先鋭化してくるなかで、中国が主導力を発揮する新たな国際秩序の枠組みとしてBRICSは注目されている。このタイミングで習近平がサミットに欠席する理由がわからない。一部では、習近平に深刻な健康問題が起きているとか、あるいは党内権力闘争が激化しており北京を離れられない状況であるとか、言われている。
BRICSサミットは2012年に始まった新たな経済体連盟の年度サミット。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを中心に米国ら西側先進国パワーに対抗するグローバルサウス勢力の核心になると期待されている。
実際、中国が一番経済パワーを持っているので、BRICSは中国主導の組織といっていい。2024年1月からアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピア、エジプトが正式加盟しており、今回はイスラエル・イランの戦争後、初めてイラン代表団が出席する国際会議でもある。そんな外交の晴れ舞台で習近平が欠席し、李強首相が代理出席するというのは不可解だろう。
■BRICSサミット欠席の謎
中国側は習近平欠席の理由については説明していない。元米国国家安全委員会中国事務主任で、現ブルッキンス学会の中国専門家のライアン・ハスは「習近平が最近、ルーラ・ブラジル大統領と北京で会談しているからだ、と言われている」と指摘している。習近平とルーラは過去1年の間に2回も会談しているので、いまさらわざわざブラジルまで出向いてルーラと会談する必要がない、と考えているのではないか、という。
実のところ、このサミットに欠席した首脳は習近平だけではない。ロシアのプーチン大統領は国際刑事裁判所の指名手配を受けているので、オンラインで会議に参加している。イランのマスード・ペゼシュキアン大統領もイスラエルとの戦争の余波で欠席することになっている。
習近平としては仲のよいプーチンが欠席しているうえに、インドのモディ首相がブラジルの国賓として出席することも、欠席したくなる要素かもしれない。モディが習近平より格上に扱われるのは、プライドが傷つけられるというわけだ。
だが、もしそういうチンケな理由で、習近平がサミットの出席を見合わせたならば、ホストであるルーラとしては、たまったものではない。ブラジルは今年、BRICSサミット、G20サミット、COP30のホストも務め、国際舞台で十分にアピールしたのち、来年の激烈な大統領選に挑み、史上空前の四期連続大統領の座を狙っているのだから。
では、習近平の欠席が、プライドの問題や習近平の気まぐれでないとすれば、一体何が原因なのか。
■どんな健康不安説が噂されているのか
まことしやかにささやかれているのは習近平の健康不安説だ。この問題は何年も前からくすぶっていたのだが6月中旬ごろ、再びこの噂が盛り上がっていた。
6月16日、習近平がカザフスタンで開催された第2回中国-中央アジアサミットに出席した時、カザフスタンのトカエフ大統領は、習近平に対し、その誕生日(6月15日)に合わせた訪問であったことにふれ、「習近平氏の健康と家族の幸せ、そして国を治める上でのさらなる成功を祈る」とあいさつした。
ところが、一部チャイナウォッチャーたちの間で、このあいさつの言葉は、尋常ではない、と話題になった。というのも中国の新華社などでは、トカエフの「習近平氏の健康(身体健康)を祈る」という祝辞は報じられていないのだ。カザフ国際通信でのみ、この発言が取り上げられていた。それで、中国公式メディアは、習近平の健康に関する言及はタブーになっているのではないか、という憶測が流れた。
さらに、トカエフ大統領がわざわざ習近平の健康状態に言及したのも、何か含みがあるのではないか、という見方もあった。
習近平の健康問題については、2012年に政権トップの座に就いて以来、ずっとさまざまな噂が飛び交っている。肝臓腫瘍を発症し、手術を受けたとか。また膵臓癌という噂もあった。2024年7月には三中全会会期中に脳梗塞で倒れたという噂が流れた。
私が党内の関係者から聞いた話では、習近平は糖尿病を患っているという。また、文化大革命中に陝西省で下放されていた時、トラクター事故で、頭を負傷し、その後遺症に悩んでいる、という話もある。
習近平は公式行事や外遊のとき、よろけたり、何もないところでこけたりすることがしばしばあり、健康に問題があることは長らく信じられていた。今年5月10日に習近平が河南省洛陽を視察して後、6月3日まで連続14日、公式の場に姿をみせなかったので、習近平軟禁説などの流言があったが、実はこの間も、健康状態が思わしくなかったのではないか、とも言われている。
毎月1回必ず開かれる政治局会議が5月には開かれなかったのも習近平の健康状態が思わしくないので開かれなかったのではないか、という指摘がある。ロシアの有名なテレグラムの政治系暴露アカウント、General SVRは6月9日、クレムリンが対外情報局から受けた報告として、5月25日から26日の夜間、習近平が突然心臓発作を起こし、6月の頭にも2度、心臓発作を起こした、という話を投じている。
だが、6月17日に習近平がカザフスタンを訪問した時、飛行機のタラップを降りた様子は比較的しっかりした足取りで介助も必要としなかったので、この心臓発作の噂はデマだろう、という意見もある。
ただ、こうした習近平不健康説は、党内から意図的に流されているふしもある。なので、こうした噂は習近平の早期引退に筋道を開こうという狙いがあるのではないか、という見方がある。
■「早期引退説」の根拠とは
習近平が今年開催される四中全会で引退するという噂は5月ごろから頻繁に流れている。たとえば5月14日に政治局会議が行われ、胡錦涛や張又侠ら長老たちから、引退するように迫られて、習近平が条件付きで引退を承諾した、といった噂が流れた。ただし、そうした噂はフェイクニュースだった。5月に政治局会議は開かれなかった。だが、今年に入ってからの人事をみても、習近平の権勢が衰えてきている、ということは言えるかもしれない。
人事といえば7月1日に発表された新疆ウイグル自治区書記、馬興瑞の突然の更迭だ。後任は中央統一戦線部副部長の陳小江。
政治局会議が6月30日に開催されており、おそらくそこで正式に決まった人事だろう。馬興瑞は、いわゆる軍工系といわれる宇宙航空関連の専門家で、中国航天総公司や中国航天科技集団の幹部を歴任してきた。
習近平は2012年に政権トップになって以降、こうした軍工系と呼ばれるエンジニア出身の官僚を重用してきたが、馬興瑞もその一人だ。陳全国が新疆ウイグル自治区書記だったころ、ウイグル人弾圧をやりすぎて国際的に猛烈な批判を受けたので、その後をうまく処理するために2021年12月に新疆ウイグル自治区書記となった。
当時、馬興瑞は2027年の第21回党大会で政治局常務委員入りすると目される出世株だった。だが新疆ウイグル自治区書記になって3年半という中途半端なタイミングで更迭。新華社は「別の任務にあたる」と説明しているが、これは事実上の失脚と見ていいだろう。
おそらくは、この2年の間に相次いで起きている軍工系高官の失脚、あるいは失踪と関係があるのではないか。2023年からロケット軍幹部、中央軍事委員会装備発展部幹部の大粛清に続いて、軍工企業幹部が次々と失脚した。
たとえば元中国航空工業集団董事長の譚瑞松、中国兵器装備集団副総経理の劉衛東、元中国電子科技集団副総経理の何文忠。また元中国航天科技集団董事長の呉燕生、元中国兵器工業集団董事長の劉石泉、元中国航天科工集団副総経理の王長青、元中国運載ロケット技術研究院院長の王小軍、元ロケット軍装備研究院総工程師の蕭竜旭。元中国航天科工集団董事長の袁潔、元中国兵器装備集団総経理の陳国瑛も更迭されたのち、失踪状態だ。
さらに元中国航天科工集団副総経理から安徽省の常務委員、合肥市書記となった張紅文、元中国航空天科技集団公司副総経理で中国工業情報化部長の金壮竜も解任された後、動静不明だ。
馬興瑞の後任として中国航天科技集団董事長、工業情報化副部長、国家航天局長、国家原子エネルギー機構主任、国防科技工業局長を歴任していた許達哲も昨年11月から8カ月にわたって「失踪」中だ。
これはロケット軍幹部、解放軍ロジスティクス系の汚職事件から取り調べを進めて、軍工系企業幹部や軍工系官僚の関与が芋づる式に摘発されていったと言えるが、彼らは全員習近平や夫人の彭麗媛の推薦で抜擢された習近平人事であり、これは習近平の政治的失策であるということに他ならない。
■弱まる習近平の権勢
もう一つ、習近平権勢の凋落を示す人事としては、中央組織部長(党中央人事担当)の李幹傑と、中央統一戦線工作部長(対外工作担当)の石泰峰を入れ替える異例の人事が4月に行われていた。この人事入れ替え理由については、さまざまな憶測が飛んでいるが、ドミノ式に失脚している軍工系官僚に連なりそうな李幹傑に人事を任せるのが不都合ということかもしれない。いずれにしろ、習近平人事の失敗、見直しの必要性に迫られた結果とみられる。
さらに、中央軍事委員会副主席の何衛東の「失踪」問題。3月の全人代閉幕式以降、突如姿を消した何衛東は、おそらく、昨年暮れに失脚した元中央軍事委員で政治工作部主任の苗華失脚に連座して取り調べを受けているとみられているが、苗華も何衛東も習近平が抜擢して中央軍事委員会入りさせた習近平人事だ。彼らの失脚は習近平の失策、ということになる。
オーストラリア在住の華人学者の袁紅冰は、紅二代ファミリー(革命家たちの子孫)が党中央幹部たちと連動して、習近平に引退を迫っている、と党内筋の話として語っている。そういう動きが本当にあるとしても、クーデターといった派手な動きの気配はないので、習近平自身が、健康問題などを理由に穏便に引退する道を模索するのではないかというのが一つの見方としてある。
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福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
福島 香織:ジャーナリスト 2025.7.8(火)
BRICSサミットが7月6日、ブラジルのリオデジャネイロで開催されたのだが、中国の習近平国家主席が欠席したことがいろいろと憶測を呼んでいる。BRICSサミットに習近平が欠席したのはこれが初めて。
米中新冷戦構造が先鋭化してくるなかで、中国が主導力を発揮する新たな国際秩序の枠組みとしてBRICSは注目されている。このタイミングで習近平がサミットに欠席する理由がわからない。一部では、習近平に深刻な健康問題が起きているとか、あるいは党内権力闘争が激化しており北京を離れられない状況であるとか、言われている。
BRICSサミットは2012年に始まった新たな経済体連盟の年度サミット。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを中心に米国ら西側先進国パワーに対抗するグローバルサウス勢力の核心になると期待されている。
実際、中国が一番経済パワーを持っているので、BRICSは中国主導の組織といっていい。2024年1月からアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピア、エジプトが正式加盟しており、今回はイスラエル・イランの戦争後、初めてイラン代表団が出席する国際会議でもある。そんな外交の晴れ舞台で習近平が欠席し、李強首相が代理出席するというのは不可解だろう。
■BRICSサミット欠席の謎
中国側は習近平欠席の理由については説明していない。元米国国家安全委員会中国事務主任で、現ブルッキンス学会の中国専門家のライアン・ハスは「習近平が最近、ルーラ・ブラジル大統領と北京で会談しているからだ、と言われている」と指摘している。習近平とルーラは過去1年の間に2回も会談しているので、いまさらわざわざブラジルまで出向いてルーラと会談する必要がない、と考えているのではないか、という。
実のところ、このサミットに欠席した首脳は習近平だけではない。ロシアのプーチン大統領は国際刑事裁判所の指名手配を受けているので、オンラインで会議に参加している。イランのマスード・ペゼシュキアン大統領もイスラエルとの戦争の余波で欠席することになっている。
習近平としては仲のよいプーチンが欠席しているうえに、インドのモディ首相がブラジルの国賓として出席することも、欠席したくなる要素かもしれない。モディが習近平より格上に扱われるのは、プライドが傷つけられるというわけだ。
だが、もしそういうチンケな理由で、習近平がサミットの出席を見合わせたならば、ホストであるルーラとしては、たまったものではない。ブラジルは今年、BRICSサミット、G20サミット、COP30のホストも務め、国際舞台で十分にアピールしたのち、来年の激烈な大統領選に挑み、史上空前の四期連続大統領の座を狙っているのだから。
では、習近平の欠席が、プライドの問題や習近平の気まぐれでないとすれば、一体何が原因なのか。
■どんな健康不安説が噂されているのか
まことしやかにささやかれているのは習近平の健康不安説だ。この問題は何年も前からくすぶっていたのだが6月中旬ごろ、再びこの噂が盛り上がっていた。
6月16日、習近平がカザフスタンで開催された第2回中国-中央アジアサミットに出席した時、カザフスタンのトカエフ大統領は、習近平に対し、その誕生日(6月15日)に合わせた訪問であったことにふれ、「習近平氏の健康と家族の幸せ、そして国を治める上でのさらなる成功を祈る」とあいさつした。
ところが、一部チャイナウォッチャーたちの間で、このあいさつの言葉は、尋常ではない、と話題になった。というのも中国の新華社などでは、トカエフの「習近平氏の健康(身体健康)を祈る」という祝辞は報じられていないのだ。カザフ国際通信でのみ、この発言が取り上げられていた。それで、中国公式メディアは、習近平の健康に関する言及はタブーになっているのではないか、という憶測が流れた。
さらに、トカエフ大統領がわざわざ習近平の健康状態に言及したのも、何か含みがあるのではないか、という見方もあった。
習近平の健康問題については、2012年に政権トップの座に就いて以来、ずっとさまざまな噂が飛び交っている。肝臓腫瘍を発症し、手術を受けたとか。また膵臓癌という噂もあった。2024年7月には三中全会会期中に脳梗塞で倒れたという噂が流れた。
私が党内の関係者から聞いた話では、習近平は糖尿病を患っているという。また、文化大革命中に陝西省で下放されていた時、トラクター事故で、頭を負傷し、その後遺症に悩んでいる、という話もある。
習近平は公式行事や外遊のとき、よろけたり、何もないところでこけたりすることがしばしばあり、健康に問題があることは長らく信じられていた。今年5月10日に習近平が河南省洛陽を視察して後、6月3日まで連続14日、公式の場に姿をみせなかったので、習近平軟禁説などの流言があったが、実はこの間も、健康状態が思わしくなかったのではないか、とも言われている。
毎月1回必ず開かれる政治局会議が5月には開かれなかったのも習近平の健康状態が思わしくないので開かれなかったのではないか、という指摘がある。ロシアの有名なテレグラムの政治系暴露アカウント、General SVRは6月9日、クレムリンが対外情報局から受けた報告として、5月25日から26日の夜間、習近平が突然心臓発作を起こし、6月の頭にも2度、心臓発作を起こした、という話を投じている。
だが、6月17日に習近平がカザフスタンを訪問した時、飛行機のタラップを降りた様子は比較的しっかりした足取りで介助も必要としなかったので、この心臓発作の噂はデマだろう、という意見もある。
ただ、こうした習近平不健康説は、党内から意図的に流されているふしもある。なので、こうした噂は習近平の早期引退に筋道を開こうという狙いがあるのではないか、という見方がある。
■「早期引退説」の根拠とは
習近平が今年開催される四中全会で引退するという噂は5月ごろから頻繁に流れている。たとえば5月14日に政治局会議が行われ、胡錦涛や張又侠ら長老たちから、引退するように迫られて、習近平が条件付きで引退を承諾した、といった噂が流れた。ただし、そうした噂はフェイクニュースだった。5月に政治局会議は開かれなかった。だが、今年に入ってからの人事をみても、習近平の権勢が衰えてきている、ということは言えるかもしれない。
人事といえば7月1日に発表された新疆ウイグル自治区書記、馬興瑞の突然の更迭だ。後任は中央統一戦線部副部長の陳小江。
政治局会議が6月30日に開催されており、おそらくそこで正式に決まった人事だろう。馬興瑞は、いわゆる軍工系といわれる宇宙航空関連の専門家で、中国航天総公司や中国航天科技集団の幹部を歴任してきた。
習近平は2012年に政権トップになって以降、こうした軍工系と呼ばれるエンジニア出身の官僚を重用してきたが、馬興瑞もその一人だ。陳全国が新疆ウイグル自治区書記だったころ、ウイグル人弾圧をやりすぎて国際的に猛烈な批判を受けたので、その後をうまく処理するために2021年12月に新疆ウイグル自治区書記となった。
当時、馬興瑞は2027年の第21回党大会で政治局常務委員入りすると目される出世株だった。だが新疆ウイグル自治区書記になって3年半という中途半端なタイミングで更迭。新華社は「別の任務にあたる」と説明しているが、これは事実上の失脚と見ていいだろう。
おそらくは、この2年の間に相次いで起きている軍工系高官の失脚、あるいは失踪と関係があるのではないか。2023年からロケット軍幹部、中央軍事委員会装備発展部幹部の大粛清に続いて、軍工企業幹部が次々と失脚した。
たとえば元中国航空工業集団董事長の譚瑞松、中国兵器装備集団副総経理の劉衛東、元中国電子科技集団副総経理の何文忠。また元中国航天科技集団董事長の呉燕生、元中国兵器工業集団董事長の劉石泉、元中国航天科工集団副総経理の王長青、元中国運載ロケット技術研究院院長の王小軍、元ロケット軍装備研究院総工程師の蕭竜旭。元中国航天科工集団董事長の袁潔、元中国兵器装備集団総経理の陳国瑛も更迭されたのち、失踪状態だ。
さらに元中国航天科工集団副総経理から安徽省の常務委員、合肥市書記となった張紅文、元中国航空天科技集団公司副総経理で中国工業情報化部長の金壮竜も解任された後、動静不明だ。
馬興瑞の後任として中国航天科技集団董事長、工業情報化副部長、国家航天局長、国家原子エネルギー機構主任、国防科技工業局長を歴任していた許達哲も昨年11月から8カ月にわたって「失踪」中だ。
これはロケット軍幹部、解放軍ロジスティクス系の汚職事件から取り調べを進めて、軍工系企業幹部や軍工系官僚の関与が芋づる式に摘発されていったと言えるが、彼らは全員習近平や夫人の彭麗媛の推薦で抜擢された習近平人事であり、これは習近平の政治的失策であるということに他ならない。
■弱まる習近平の権勢
もう一つ、習近平権勢の凋落を示す人事としては、中央組織部長(党中央人事担当)の李幹傑と、中央統一戦線工作部長(対外工作担当)の石泰峰を入れ替える異例の人事が4月に行われていた。この人事入れ替え理由については、さまざまな憶測が飛んでいるが、ドミノ式に失脚している軍工系官僚に連なりそうな李幹傑に人事を任せるのが不都合ということかもしれない。いずれにしろ、習近平人事の失敗、見直しの必要性に迫られた結果とみられる。
さらに、中央軍事委員会副主席の何衛東の「失踪」問題。3月の全人代閉幕式以降、突如姿を消した何衛東は、おそらく、昨年暮れに失脚した元中央軍事委員で政治工作部主任の苗華失脚に連座して取り調べを受けているとみられているが、苗華も何衛東も習近平が抜擢して中央軍事委員会入りさせた習近平人事だ。彼らの失脚は習近平の失策、ということになる。
オーストラリア在住の華人学者の袁紅冰は、紅二代ファミリー(革命家たちの子孫)が党中央幹部たちと連動して、習近平に引退を迫っている、と党内筋の話として語っている。そういう動きが本当にあるとしても、クーデターといった派手な動きの気配はないので、習近平自身が、健康問題などを理由に穏便に引退する道を模索するのではないかというのが一つの見方としてある。
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福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
中国側は習近平欠席の理由については説明していないと、福島さん。
習近平としては仲のよいプーチンが欠席しているうえに、インドのモディ首相がブラジルの国賓として出席することも、欠席したくなる要素かもしれない。モディが習近平より格上に扱われるのは、プライドが傷つけられると。
しかし、習近平の欠席が、プライドの問題や習近平の気まぐれでないとすれば、一体何が原因なのかと、福島さん。
まことしやかにささやかれているのは習近平の健康不安説だ。この問題は何年も前からくすぶっていたのだが6月中旬ごろ、再びこの噂が盛り上がっていたのだそうです。
6月16日、習近平がカザフスタンで開催された第2回中国-中央アジアサミットに出席した時、カザフスタンのトカエフ大統領は、習近平に対し、その誕生日(6月15日)に合わせた訪問であったことにふれ、「習近平氏の健康と家族の幸せ、そして国を治める上でのさらなる成功を祈る」とあいさつした。
ところが、一部チャイナウォッチャーたちの間で、このあいさつの言葉は、尋常ではない、と話題になった。
というのも中国の新華社などでは、トカエフの「習近平氏の健康(身体健康)を祈る」という祝辞は報じられていないのだ。カザフ国際通信でのみ、この発言が取り上げられていた。それで、中国公式メディアは、習近平の健康に関する言及はタブーになっているのではないか、という憶測が流れたのだそうです。
習近平の健康問題については、2012年に政権トップの座に就いて以来、ずっとさまざまな噂が飛び交っていると、福島さん。
習近平は公式行事や外遊のとき、よろけたり、何もないところでこけたりすることがしばしばあり、健康に問題があることは長らく信じられていたのだそうです。
ただ、こうした習近平不健康説は、党内から意図的に流されているふしもある。なので、こうした噂は習近平の早期引退に筋道を開こうという狙いがあるのではないか、という見方があると、福島さん。
人事といえば7月1日に発表された新疆ウイグル自治区書記、馬興瑞の突然の更迭だ。後任は中央統一戦線部副部長の陳小江。
馬興瑞は、いわゆる軍工系といわれる宇宙航空関連の専門家で、中国航天総公司や中国航天科技集団の幹部を歴任してきた。
習近平は2012年に政権トップになって以降、こうした軍工系と呼ばれるエンジニア出身の官僚を重用してきたが、馬興瑞もその一人。
2021年12月に新疆ウイグル自治区書記となった。
当時、馬興瑞は2027年の第21回党大会で政治局常務委員入りすると目される出世株だった。だが新疆ウイグル自治区書記になって3年半という中途半端なタイミングで更迭。
これは事実上の失脚と見ていいだろうと、福島さん。
この2年の間に相次いで起きている軍工系高官の失脚、あるいは失踪と関係があるのではないかとも。
馬興瑞の後任・許達哲も昨年11月から8カ月にわたって「失踪」中。
ロケット軍幹部、解放軍ロジスティクス系の汚職事件から取り調べを進めて、軍工系企業幹部や軍工系官僚の関与が芋づる式に摘発されていったと言えるが、彼らは全員習近平や夫人の彭麗媛の推薦で抜擢された習近平人事であり、これは習近平の政治的失策であるということに他ならないと、福島さん。
もう一つ、習近平権勢の凋落を示す人事としては、中央組織部長(党中央人事担当)の李幹傑と、中央統一戦線工作部長(対外工作担当)の石泰峰を入れ替える異例の人事が4月に行われていたのだそうです。
習近平人事の失敗、見直しの必要性に迫られた結果とみられると、福島さん。
さらに、中央軍事委員会副主席の何衛東の「失踪」問題。
昨年暮れに失脚した元中央軍事委員で政治工作部主任の苗華失脚に連座して取り調べを受けているとみられているが、苗華も何衛東も習近平が抜擢して中央軍事委員会入りさせた習近平人事だ。彼らの失脚は習近平の失策、ということになると、福島さん。
オーストラリア在住の華人学者の袁紅冰は、紅二代ファミリー(革命家たちの子孫)が党中央幹部たちと連動して、習近平に引退を迫っている、と党内筋の話として語っている。そういう動きが本当にあるとしても、クーデターといった派手な動きの気配はないので、習近平自身が、健康問題などを理由に穏便に引退する道を模索するのではないかというのが一つの見方としてあると、福島さん。
今回のBRICSへの習近平欠席の理由の真相は何だったのか。
習近平の健康不安説は、事実なのか。習近平に引退を迫っている勢力による、クーデターではなく穏便に引退する道への誘導なのか。
要注目ですね。
# 冒頭の画像は習近平が欠席したBRICS

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