恋塚 横笛
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その次の日から、三条高倉第の建礼門院様の御所には私宛に恋の文が沢山の人から届くようになったのでございます。
「そんなに沢山の文、読むのに朝を迎えましょうぞ」
同輩の人からからかわれ、頬を赤らめ隠れたのでございます。
文は読まず机の下に隠して何食わぬ顔で侍女の働きをこなしました。
文の主がこの私など相手になさるような人ではなく、ただの遊び相手なのだということが分かっていたのです。
身分が違いすぎました。
あの夜の宴に集った人たちは、天下人のお知り合いであり、支えておいでの人たちだったのでございます。
日夜を問わず殿方の思いの文は届きました。
私とて嬉しくない事はございません。文の封を開けばそこには広がる熱い思いの言葉が書き連ねられ、私の心を浮き立たせることは明らかでございました。だから、開くことに躊躇したのでございます。
女にとって殿方に想われることの幸せを感じないことはございません、が、世間を見渡しまして男と女のあり方に戸惑いを持っていたのも確かでございます。女は心を持たず親の決めた人に身を任す、娘を持った親は身分の高い、財産のある家に嫁がせるそれが時の常でございました。
妻の一家の面倒を見るそれが妻を貰った男のつとめであり、甲斐性のように言われていたのでございます。
本当に私を愛してくれる人、その人と出会い嬰児を産む、そんなゆめを持っていたのでございます。
それゆえ・・・。
文の返事を書くこともなく月日は過ぎてゆきました。
日をすぐるうちに文の数は少なくなり、世間では私の悪口がささやかれ始めたのでございます。
「傲慢な女・・・」
「男嫌い、女好き」
様々ないやみの言葉が飛び交ったのでございます。それは、文を出した殿方の恨みの流言であったのでございます。
「そんなに断っていたらどなたも相手をしてくれなくなりますよ」
心配した局様がそう言葉をくださいます。
恥ずかしそうに笑ってごまかします。
日に日に文は少なくなり最後には一通の文なりました。
やがて来なくなるだろうそう思っていたのでございますが、毎日毎日滞ることなく届いたのでございます。
斉藤時頼様・・・。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
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