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恋塚 横笛
1
この地に来て幾度の春を迎えたでしょうか。
昨年の春は遅く桜の花びらもなかなかつぼみを開かず・・・。
梅雨を迎えても長雨が続き、夏は短く、秋は強い風が吹き荒れ、冬は寒さが厳しく・・・。
それだけこの春の桜は一段と美しく感じられまする。
寒さに耐えて咲く冬芽の綻び・・・。綺麗な花を開かせることでしょう。
春霞に煙る高野の山・・・。霞の中にぼんやりと滲んだように広がる
桜の気配・・・。
この数日、花冷えが続いたせいでしょうか・・・。
庭の片隅の梅の木はとっくに咲き花びらを落としていると言うのに・・・。
この地に来たときは、生きづく事が出来るかと・・・。
高野に入られた人を待った多くの女が・・・。この天野の里で・・・。
西行法師様の所縁のかつら様とお娘御が庵を構えておいででした。
待賢門院様の陵が・・・。それは、女院様のゆかりの・・・。西行様
の中納言の尼様のものと思われますが・・・。
時代の終わり、戦が続き何もかも捨てて出家、高野山に入る男が増え、その人を恋い慕いこの天野の里で待った女子が多かったのでしょう。
高野山は女子を受け入れぬところ・・・。ゆえに・・・。この地で・・・。
京からの道のり重たい心を引きずりながら、きつい峠を越えほっとひと時ついて頭を上げたら、山と山に囲まれた里が開け、空には白い綿のような雲が遊んでおりました。山の至る所で桜花が弾けていて新芽の淡い緑の中で鮮やかに咲き乱れておりました。
ここで待とう・・・。そのとき決めたのでございます。
叔母に習って法華寺で髪を下ろし尼の身になっておりました。
ここに庵を結んで・・・。高野山が僅かに見えるこの地で・・・。
許しては貰えないことは承知の上で、少しでも身近に暮らして・・・。
思いは少しでもと言うものでございました。
僅かの土地に小屋を作り、庭に時に食することの出来る菜を植えました。我侭で片隅に一本の梅の樹を・・・。
梅は昔使えていた主が好んでいたものでございましたゆえ。
中納言の尼様が京は西山の小倉の庵を捨て、ここに庵を結ばれたのは西行様がご修行をされた高野に少しでも近づきたいとの思いがあったことは・・・。
この私の想いと同じように思われるのでございますが・・・。
そのように思ってこの里で暮らした多くの女、その彷徨える魂が同じ
思いを持つ女を引き込むのでしょうか。
切ない思い、直向な女心、絶ちがたい性、恨みつらみ・・・。
そんな女の想いが、この地を美しい所として作ったのでしょうか・・・。
目の前に開けた天野の里、天空にたなびく高野への架け橋・・・。
集まった想いがそのように感じさせるのでしょうか。
木々の覆いの下りの坂をゆっくりと天野の里へ、胸いっぱいに空気を吸い込みました。
ここで始まる営みに一抹の不安を感じながら、また、心躍らせながら踏みしめ、遊ぶ雲を眺めたのでございます。
道端には山桜の花びらが風に吹かれて舞っていました.竹林が一瞬大きく揺れざわめきました。
これからの私に起こる何かの予兆だったのでございましょうか・・・。
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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
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あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。
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1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。
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